第9話

「じゃああなたに私たちのことを話すからその辺に座って聞いてくれるかしら?」


「わかった。飲み物を用意してくるからちょっと待ってくれ。」


彼はインスタントコーヒーを淹れて三日月の前に座った。


「そっちじゃない。こっちよ。」


三日月は自分が座っているソファーの隣を指さした。


「えっ?」


「いいから、あんまり大きな声で話したくないのよ。あまりいい思い出じゃないからね。」


「そうなのか…わかったよ。」


彼はコーヒーの入ったマグカップをもって言われた通りに座ると、三日月はゆっくりと話し始めた。


「私は吸血鬼家の名門家のツェペシュ家に約500年前に誕生したわ。それでその約20

年後に逆月が生まれたわ。生まれ順からして私がツェペシュ家の跡継ぎになる予定だったのよ。実際私は歴代のツェペシュ家の中ではかなり優秀な部類であったし。私も自分の才能を誇りに思っていて立派な次期当主になるつもりだったの。ある時まではね。」


三日月はフーと大きく深呼吸をした。


「私はある時見てしまったのよ。ツェペシュ家のしきたりや伝統の儀式が書かれている本をね。吸血鬼族は本来プライドが高いものが多いから人間のことを下等種族と見下しているものが多いけど、そんな程度のレベルじゃいくらいのものだったと覚えているわ。大勢の人間を一か所に集めてを惨殺したり、臓ものをぐちゃぐちゃにしたりをしていたことが記録されていたわ。酷く衝撃を受けて言葉を失ったのを覚えているわ。そしてそれらの儀式は吸血鬼が一人前と認められるために行うのよ。人間で言えば成人式みたいなものね。それはいいとして何が言いたいかは分かるよね?そうよ、私も次期当主になるときにこの儀式を行わないといけないのよ。私は迫りくるその時がこわくなってしまってツェペシュ家のお屋敷から逃げ出してしまったの。」


「え?だから実家を離れて今はこんなところで住んでいるの?」


「そうよ。私は昔は大きな屋敷で住んでいたっていうのもそういう事よ。私は知ってしまった現実から逃避をしたくて誰にも話さないようにしていたんだけど、逆月もここの場所も知られてしまったし、同居人のあなたにもこれから長い付き合いにあるかもしれないから私のことを知っといてもらった方がいいかなと思ってね。それとね、私が今住んでいるこの場所が逆月にバレてしまったからもうここにはいられなくなってしまうかもしれないの。あなたには申し訳ないと思っているわ。私の勝手でここまで来てもらってね。」


「いや、俺はそんな風には思っていないよ。むしろあの環境から連れ出してくれた君にはとても感謝している。俺は君さえよければ引っ越し先にもついていきたいと思っている。」


「そう言ってくれてうれしいわ。もしもここから引っ越すことになるのなら私はあなたのことを連れて行きたいと思っているわ。」


「もう夜も更けたわね。あなたは寝た方がいいのじゃないかしら…?ってあなたのベッドは逆月が使ってるんだったわね。私が普段使っているベッドを使う?」


「いや、いいよ。俺はリヴィングにあるソファーで寝るわ。」


「そう?じゃあ私は自分のベッドを使うわね。」


三日月は立ち上がって部屋から去っていった。

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