第11話

「ねぇ早く起きてもらえるかしら?私、おなかすいちゃったのだけれども。」


彼は体を揺さぶられたことで目を覚まし、上半身を起こした。


「はぁー、やっと起きた。朝ごはん早く食べちゃってね。」


「わかった、わかったよ。」


冷蔵庫の中から朝食用に買ってきたものを出そうとして、彼は買い物をすることを忘れたことに気付いた。


「やばい…朝食買い忘れた…」


「え?ちょっと何やってるのよ…ねぇ。早く買ってきてね。私あなたが朝ごはん食べ終わるまでごはんお預けなんだから。」


「じゃあ三日月さん、俺が朝食取る前に吸血しますか?」


「いやよ、朝ごはん食べる前の血液って薄くてあんまりおいしくないし。」


三日月は苦虫を嚙み潰したようなの表情を見せた。


「わかったよ。今からコンビニに行って何か買ってくる。」


ソファーから立ち上がって出かけようとする彼を逆月が止めた。


「私が朝ごはん何か作ってあげようか?お兄さんに。」


「え?お兄さん?逆月、いつの間に彼とそんなに仲良くなったのかしら?」


「い、いや何って呼べばいいかわからなかったから、お姉ちゃんの知り合いだからお兄さんって呼んだだけだけどなぁ。」


逆月は視線をそらして誤魔化した。


「そう?それならいいわ。ところであなたが人間の朝ごはんなんて作れるの?信じられないわ。」


「お姉ちゃん、私になんか料理はできないと思うでしょ?実はね、お姉ちゃんがうちから出で言ってから私ね、人間のメイドに教えてもらって料理を教えてもらったの。だからねそこそこ人間の食べるものは作ることができるよ。まあ私は食べないけどね。」


「例えばどんなものを作ることができるの?」


「えーっとね…ちょっと冷蔵庫の中身を見せてもらうよ。」


逆月は冷蔵庫の中をガサガサと物色し始めた。


「あんまり食材が入ってないね。」


当然である。人間の食糧は彼しか食べないし、当の彼も引っ越してきてからあまりそんなに時間は経ってないのだ。しかも彼は基本的に嫌いなものは買ってこないし、冷蔵庫の中にはほとんど野菜類は入っていない。野菜の栄養素は三日月にサプリメントで飲まされている。なんでも、野菜不足の人間の血液はドロドロとしてのどに絡みつくからあまり好きじゃないらしい。


「食材は…卵と納豆、ソーセージあと醤油や味噌なんかの調味料系しかないね。まぁでもこれだけあれば朝ごはんくらいは作れるかな?お兄さん、すぐに用意するからちょっと待っててね。」


それから十分ちょっと待つと俺の前に暖かい朝食が並べられた。


「はい、召し上がれ!」


彼は誰かに朝食を作ってもらった経験は高校生の時以来である。湯気を立てる朝食を見て、彼は懐かしさを憶えた。


「いただきます。」


俺は手を合わせて言った。


逆月が作った朝食からはこれまでの誰かもしれない者が作ったものとは違う温かさを彼は感じた。


「ねえ、どうだった?私の作った朝ごはんは?」


逆月が期待するような目線をこちらに向けていた。


「うん、とてもおいしかったよ。ごちそうさまでした。」


「はい、おそまつさまでした。おいしかったなら良かったよ。私は吸血鬼だから味見もできないから味の方は少し自信がなかったから心配していたんだけどね。」


逆月は嬉しそうに笑って言った。


彼もおいしい食事が食べられる上に逆月の笑顔が見られるのはものすごく得なことだと思った。


「ちょっと二人とも!私のこと忘れてないかしら?もとはと言えば、私がおなかすいたからこの人にごはんを食べさせることから始まったんだよね?私もう限界なんですけど!」


「あーごめんごめん。おいしい朝食に感激してたら存在忘れてた。」


「は?そんなことを言うならもういいわ!」


三日月は怒り始めて急に彼の方に飛び掛かり、彼をベッドに押し倒した。


「う、うわぁー!三日月さん何をするんですか!?」


彼はびっくりして大声をあげた。


「はい、捕まえた!!それじゃあいただきます!」


三日月はかぷっと俺の首筋に噛みついた。


「ううっ!」


例の快感が彼の中に駆け巡る。彼は何度も吸血されていたが、何度やってもなれないようだ。さっき起きたばかりなのにまた意識がどこかに飛んでいきそうだと感じた。


「はい、ごちそうさまでした。今日もおいしかったわ。」


三日月は上品に口をハンカチで拭った。


「ねぇお姉ちゃん、私もお兄さんの血をもらってもいい?」


「ダメよ。あなたはこれでも飲んでなさい。」


三日月は冷蔵庫の中から輸血パックを取り出して逆月に投げ渡した。


「ちぇっ、はいはい…」


逆月は不満そうに輸血パックを受け取って飲み始めた。


「やっぱりあんまりおいしくないなぁ。」


逆月は残念そうな顔をした。

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