第4話
彼は会社のオフィスに入ると、わざわざ待ち構えていたと言わんばかりの例の憎い上司にぐちゃぐちゃと文句と嫌味のオンパレードを言われた。
抜けない疲労とイライラを抱えながら自分のデスクに腰掛けると、隣から握ライン声をかけてもらえた。
「いや~、君も大変だね~。」
声の主は俺の一年先輩でこの会社での仕事のこなし方や個々の会社がいかに酷くてブラックであるかを教えてくれた恩人のような人である。もしも彼女が彼の上司でなかったならば彼はもう既に精神的につぶれてしまっていたであろう。
「あいつが言ってたけど貧血で倒れたんだって?大丈夫?仕事、変わってあげようか?」
彼は自分の状況を顧みて、本気で変わってもらおうかとも思ったが、先輩の仕事のキャパがパンクしてしまうのでやんわりと断った。
「それは大丈夫ですよ。仮にも貧血で寝てましたしね。十時間くらいは。先輩も結構仕事量きついですよね?」
「まぁそうだけど…本当にきつくなったら言ってね。」
彼の仕事は常にきついが状態であったが、先輩もいつも彼と同じくらいまで残業しているので、それ以上負担をかけるわけにはいかない。そのような状態にあっても先輩は彼以外の他の社員にも優しく接している。うちの会社では例の上司の下で働いている社員に限らず、立場が下の方は俺たちのように極限まで働かされる。はっきり言ってしまえば彼にとっては地獄以外の何物でもないが、三流大学に何も考えずに進学した彼を雇ってくれるような会社などはここ以上のブラック企業くらいしかないだろうと思っているのであきらめている。
「後輩君、コンビニ行ってくるけどなんか買ってきてほしいものある?」
「そうですね~、じゃあビーストエナジーとブラックコーヒーをこれで買えるだけ買ってきてください。今日は帰れないと思うので。」
彼は先輩に財布の中から千円札を出して差し出した。
「そんなカフェインばっかり…後輩君、取り過ぎはよくないよ。」
「先輩に言われたくないですよ。それにこんな仕事カフェイン取らないとやってられませんよ。」
「それもそうね。じゃあ行ってくるね。」
先輩の背中を見送ると、彼は憂鬱な気分で目の前の仕事にとりかかった。
パソコンを開いてみると今までにないくらいの量の仕事が溜まっていた。この量は…今日は帰れないだろうと彼は悟った。
その日の仕事は日付が変わり、三時くらいまで残業しても終わらなかった。先輩も彼のことを心配しながらも退社してしまったので、今この会社に残っているのはもう彼一人であった。仕事の残量はあと一時間くらい頑張れば終わりそうなくらいであったので、彼は限界と眠気を訴えてくる脳に鞭を打って無理やり働かせた。疲れた体にカフェインで無理やりスイッチを入れた。
後もうひと頑張りだと体に言い聞かせて、仕事を再開した。
その時エレベーターが作動する音が聞こえた。彼はほかにだれが残っているのかとぼんやりと考えている、エレベーターは彼がいるフロアで止まり、中から出てきた足音は彼のほうに近づいてきていた。
彼は恐怖を感じたが、「逃げよう」や「隠れよう」と考えられるほど脳にエネルギーは残っていなかった。その足音の主が誰かを確かめるためにオフィスの入り口を見つめるのが精いっぱいだった。
ガチャリ
「はぁ~、やっぱりいたのね。あなたこんなところでまだ働いていたのね。さぁ帰るわよ。」
足音の主は吸血鬼の彼女だった。
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