第2話
初めての吸血から数日後
あの日のように仕事を終えて帰っていると後ろから聞き覚えのある声がした。
「数日ぶりね、またあなたの血をいただきに来たわ。ふふっ。」
夜の闇から足音を響かせて近づいてくるものがいた。俺は声のした方向を向くと、あの吸血鬼があの時のような怪しげな笑みを浮かべながら近づいてきた。前回と同じように俺の手首を掴んで吸血鬼の彼女は自分の方に引き寄せた。俺は抵抗もせずに、彼女に身を任せた。
「前回と違って今回は素直なのね。私としてはそっちの方が都合がいいけど。」
「どうせ抵抗しても変わらないし、今日はとても疲れているんだ。」
「それじゃあ、いただきま~す♪」
吸血鬼の彼女はカプッと俺の首筋に噛みついた。
吸血鬼の彼女は俺からチューっと吸っていくかわりに俺の体には吸血鬼の彼女の快楽物質が含まれた唾液が入っていく。その快楽物質が俺に作用して自然と息が上がって
頭がぼんやりとしてくる。
「はぁはぁ~…」
自力で立っていることが難しくなり、吸血鬼の彼女に両肩に手を置いてやっとのことで自分の体を支えた。
「ごちそうさまでした♪今日もおいしかったんだけど…血の味から考えると、あなた童貞でしょ?」
俺は全く想定していなかった痛いところを突かれて焦ったが、悟られないように平静を装った。
「そうだけど、何か?俺はまだ24だし、まだまだチャンスはあると信じてるから。というかこれからじゃないか?」
俺は吸血鬼の彼女の言葉に少しむっとして言った。
「そうだといいわね。」
吸血鬼の彼女はクスリと笑いながら言った。
「それと…あなたしっかり休んでるの?ちゃんと栄養のある食事はとっているかしら?血の味が前回よりも薄かったし、何よりあなたの顔に生気を感じないわ。血の味は人間の健康状態なんかで多少は変わることはあるけれど、ここまで変わるのは異常よ。あなた、大丈夫なの?」
「そうだな、今まではあまり気にしないようにしていたけど、かなり疲れているかもしれない。毎日こんな時間まで残業してるし、今日なんか早く帰れた方だ。しかも給料も安い。上司は俺たち新入りに仕事を任せて定時よりも早く退社しやがる!あんな仕事やってられないわ。」
俺は重めのため息をついた。
「そんなきつい仕事なら辞めたらいいんじゃない?別の仕事だってたくさんあるわけじゃない?」
「あのなぁ、人間は吸血鬼と違って適当に人間を襲って血を吸ってたら生活できるようなものじゃないんだ。普通の人間は会社に行って働いてやっともらえる給料で生活してるんだ。酷いブラック会社だと思うがそこに頼らないと俺は生きていくことすらできないんだよ。俺も楽に転職がができるならあんなところはとっくにやめているよ!」
俺は少しムッとしたんで少し熱くなってしまった。
「失礼ね、吸血鬼も単純な社会で生きているわけじゃないのよ。吸血鬼は力と家柄がすべてなの。って…ちょっと!大丈夫!?」
俺は頭がクラっとしてその場に膝をついた。
「い、いや…ちょっと頭がクラっとしただけだ…これくらいなら大丈夫…」
吸血鬼の彼女のかとに掴まって立ち上がろうとするが、うまく力が入らない。
「ちょっとホントに大丈夫なの!?」
吸血鬼の彼女は本気で心配しているようで、少し焦ったような顔つきで俺の顔を覗き込んできた。強がって見せたものの俺は自分が限界に近いことを理解していたので足を引きづるように自分の家の方面に向かおうとしたが、全く進むことができず派手に倒れてしまった。そして俺は気を失ってしまった。
「ちょっと!気絶してしまったの!?どどどどどうしよう…だ、だれかぁ!」
宵闇に吸血鬼の彼女の声が響き渡った。
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