第6話 推理研究会 トレジャーハント
ある日の推理研究会部室、そこにはいつもの三人の姿はなく二人、奏と彩が談笑している。そんな穏やかに時間をぶち破るように部室のドアが開いた。
「ふぃーようやく進路相談終わったー」
放課後に教師に呼び出されていた、藪崎碧である。
「お疲れ様」
来たばかりの碧を労う奏。
「っていうか、なんでそんなに疲れてんだよお前」
進路相談するだけなのになぜか疲労困憊の様子の碧に突っ込む彩。
「進路希望調査は真面目に書きなさいって言われた、私ちゃんと真面目になりたいものを書いたはずなんだけどなー」
「一応聞くけどなんて書いたんだ、お前」
「ガンダム」
「おとといきやがれ」
碧は両手を床につけてうなだれた。
「私はっ!?ガンダムになれないのか?」
「うるせー馬鹿!お前進路希望調査に私設武装組織に就職希望なんて書くんじゃねえ!」
「彩ちゃん、私はガンダムになれないの!?」
「手に負えねえ!」
「まあまあ二人とも落ち着け」
奏が二人の仲裁に入り、なんとか落ち着いた。
「なんかどっと疲れたな」
俗に言うツッコミ疲れである。
「まあせっかく紅茶入れたんだ、飲んで落ち着け」
「そうする」
「あー紅茶私も飲むー」
「ん、ああ分かった。ちょっと待ってろ」
彩は立ち上がって紅茶セットを確認した。
「あーもう茶葉がねえ」
「確か前にもらったものが、ロッカーの上に置いているはずだ」
奏の指摘で彩はロッカーの上の茶葉に手を伸ばす。
「ふっ、くっ」
三人の中で最も小柄な彩は背伸びをしながらロッカーの上に手を伸ばす。しかし現実は残酷である。
「くっ、くっ」
ぴょんぴょん飛ぶ彩、それでも届かない。
「無理するな」
奏は彩の横に立ち、代わりに茶葉の入った缶をとった。背伸びもせずに、いともたやすく。
「くっ」
彩は両手を床についてうなだれる。
「彩?大丈夫か」
「こ」
「こ?」
「これで勝ったと思うなよ!」
「何がだ」
「ねえ」
「どうした碧」
碧は手に持っていた茶色い紙を二人に見せた。
「奏ちゃんが缶をとったときに落ちてきたんだけど」
「なんだこりゃ、地図か?」
「見た所地形的にこの町の地図だが、やけに古いな」
「触ったらボロボロに崩れそうなくらいだよねー」
「商店街に見たことのない店の名前があるな、下手すれば何十年も前のこの町の地図かもしれない、確認してみるか」
「奏ちゃん確認できるの?」
「ああ」
なぜかドヤ顔の奏、するとカバンの中からスマートフォンを取り出し、そして。
「頼もう!Siri殿!」
大声で叫んだ。
「……」
しかし何も起こらなかった。
「くっ」
奏は床に両手をついてうなだれた。
「この若輩者である私を携帯電話の主人と認めていないと言うことか」
「いや何言ってんだあんた」
「いやそもそも、携帯の主人になると言う考えが間違いなのかもしれない、生活を共にする以上、主従ではなく対等な立場でないといけないと、そう言うことなのかSiri殿!」
『すみません、よくわかりません』
「そう易々と答えにたどり着けないか」
「ヘイSiri、蓮見町歴史資料館の公式ホームページ見せて」
彩のスマートフォンにページが映し出された。
「何故だ!?」
「あとで教えてやる」
彩は指を滑らせてサイト内を探す。
「地図地図ーあったねー」
そして昔の町並みと地図のページにたどり着いた。
「えーと、ざっと五十年前の地図みたいだ」
彩がホームページと地図を照らし合わせる。
「古いねー」
「だがなぜこんなところに地図が?」
「だよなあ」
「でも正直、それよりも〜こっち、気にならない?」
碧は茶色の地図を指差す、それは印刷された地図の中で異彩を放っている手書きのばつ印。
「私の見立てだと、これは多分、徳川埋蔵金!あるいはバビロニアの宝物庫!」
「ねーよ」
「小学校の裏山に埋まっているとは思えないが」
「私用務員さんにスコップ借りてくる!」
「ちょっ、おい待ちやがれ!」
彩の制止も虚しく碧は飛び出していった。
「全くあいつは」
「まあ、決めたらすぐ行動が碧の持ち味だからな」
「だとしても、振り回されるこっちの身にも――」
「借りてきた!」
「はえーよ!」
学校の用務員さんに借りたスコップを携えて、目的地の小学校の裏山に到着、ばつ印のあたりを掘り返す。
「いいのか?勝手に掘り返して」
誰の敷地かもわからない場所を掘り返すのは、あまり良くない気がする。
「ダイジョーブ、もし見つかったらFBIの捜査って言うから」
「大丈夫じゃねえよ」
「そうならないようにさっさと見つけて帰ろう」
その後各々黙々と作業をした。
「ん、なんか出てきた」
その沈黙を破ったのは碧だった。その言葉を聞いて奏と彩も集まってきた。
碧が見つけたのは金属製のお煎餅の入れ物だ。蓋と箱が封と書かれたテープで止められている。
「なんだろこれ」
「煎餅の箱だろ」
「でもこれ中になんか入っているよ」
碧が箱を振ると中の何かが動く音が聞こえた。
「えい」
そして容赦なく封のテープが剥がされる。
「躊躇ねえな」
中には白い封筒が入っていた、これも碧が開ける。
「えーと何々、拝啓」
後の二人も後ろから覗き込む。
「これは――」
「恋文だな」
しかもかなり痛々しい。比喩と詩的表現の羅列はこちらが目を背けたくなるレベル。
全員の考えがここで一致した、みてはいけないものを見てしまった、と。
次に舞い降りたのは気まずい沈黙。
「も、元の場所に返そうか」
「そ、そうだな元に戻して置こうぜ」
「そして今日のことは忘れよう」
三人は目にも留まらぬ速さで箱を元の場所に戻し、そそくさとその場を後にした。
今日彼女らは学んだ、人のタイプカプセルは除いてはならない、と。
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