夜番の日記Ⅸー破棄ー

――


 受け取った紙の包み、つまりは「死ねる薬」を私は彼女に手渡せる気持ちには到底なりませんでした。これを受け取ると、彼女は即座に命を絶ってしまうのではないかという恐怖が私の中に渦巻いていました。


 こんな生き地獄のような取り調べを受けてきた彼女に、一刻も早く安息をもたらしてあげることが正解なのか、希望を捨てないよう勇気づけるのが私のすべきことなのかわかりません。いいえ、私はきっと彼女に安息をもたらしてあげるべきなのです。しかし、私にはそれができそうにありません。


 私はここでも自分の我儘を激しく呪っています。私はこの包みを渡して、彼女が死んでしまうのが恐ろしくてたまらないのです。もっと彼女と居たい。彼女と話したい。彼女の吸い込まれるような琥珀色の瞳を見ていたい。一分一秒でも長い時間を彼女と過ごしたい。そう思わずにはいられないのです。なんと自分勝手な人間なのでしょうか。


 そして、その罪はさらに大きくなりつつあります。私は彼女の母親が私に託した包みとそっくりな偽物の包みを用意しました。中にはパン屋からもらった粉を入れました。


 神よ、どうかこの罪深き私をお許しください。私にはやはりできないのです。彼女を殺す薬を手渡すことが。もう少しだけ、許されるのであれば彼女と一緒にいたいのです。もう1度彼女の手に髪に触れ、見つめ合い、唇を重ねたいのです。


 私は彼女の母親から受け取った紙の包みの中身をファーガスリー川に捨てました。

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