034 夜番の日記Ⅴー決意ー


――


 所長による彼女への拷問は続いているようです。日を追うごとに彼女の傷が増え、衰弱していく様子が見て取れるのです。


 あの所長が、彼女を繰り返し強姦していると思うだけで、私の全身の血が熱を持ちながら体内を暴走し、怒りで自分が自分ではないような錯覚に陥ります。むち打ちを受けた跡も見受けられますし、肩の脱臼は恐らく梯子台によるものでしょう。


 どうして……、どうして彼女がこんな惨い仕打ちを受けなければならないのでしょう。彼女を救う術はないのでしょうか。神様、どうか彼女をお助けください。


 今日、夜番に向かう前に父から呼ばれました。父はあれからも彼女と深く関わることを禁じるのです。まるで確認するかのように、私と彼女のことを聞いてくるので私は意を決して父に尋ねました。


 「父上はどうして、それほどまでにあの少女と関わるなと言うのですか。いつもならば『喉が渇いている者には水を、飢えている者にはパンを、あの独房区域に入れられた哀れな『魔女たち』にせめて人間としての尊厳を』と言うではありませんか」


 そう言うと、父は私をどんと壁に押し付けました。本気の力で肩を押し付けられました。


 「相手は所長だぞ? 目をつけられてみろ、今度は我が家から魔女が出ることになる。そうすれば、どうなる? 魔女をかくまった嫌疑でもかけられて家族全員が死ぬかもしれん。もし死ななかったとしても財産どころか土地も社会的地位も没収される。我々の祖先が築き上げてきた全てが取り上げられることになるのだぞ」


 父の言ったことは正論です。けど私には納得がいきませんでした。それは私が心底、彼女を愛してしまっていたからです。自分の一生を彼女に捧げても構わないほどに。


 「自分たちの保身だけを考えて、自分の正義を貫き通せない父上に私は失望しています」


 感情にまかせて言葉を吐いた瞬間、頭に大きな衝撃が走り、視界が混乱しました。気が付くと私は床に倒れていて、口の中で広がる鉄の味で初めて自分が父親に殴られ、出血していることを理解しました。そのまま部屋を出ていこうとする父親に私は言い放ちました。


 「私は命を懸けてもいいと思っているんですよ……、彼女のためなら。父上や家族に迷惑をかけることはありません。けど、何もせず見過ごしていることはできかねます」


 くらくらする頭でゆっくりと立ち上がって、鏡を覗き込むと口の端が少しだけ切れていました。父から殴られるのは生まれて初めてでした。

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