003 エステラの実家の地下室

 ジーンズに薄手のキャメル色のセーターを着て、黒いジャケットを羽織るとエステラはどこから見ても現代人だった。しかも絶頂の美人。シャワーを浴びてきれいに洗髪すると、エステラの白い肌は陶器のように艶やかに光り、人間離れしたミルクティー色の髪はまるで天から祝福されているかのように美しく輝き、蜂蜜に濡れた月ような潤んだ瞳が異様な美しさを放っている。着慣れないジーンズに少し不快そうな仕草を見せながらも、着替えが終わると恥ずかしそうに私の前でくるりと回って「変じゃない?」と聞いてくるエステラを見て、私はまるで自分に妹ができたような気持ちになって微笑んだ。



 「オフィーリア、この服って何でできてるの? 軽いのにすっごく温かいんだけど!」

 「これはダウンジャケット。温かいでしょ」



 着替えを始める前、朝食をとった時もエステラからの質問攻めに私は大忙しだった。湯沸かしケトル、冷蔵庫、トースター、ラジオ、部屋のヒーター、シャワー、ヘアドライヤー、ヘアアイロン……エステラの質問を挙げ始めると枚挙にいとまがない。電気もガスも上下水道も発明される以前の世界を生きていたのだから仕方がないなと思いながら、ひとつひとつ説明するのと同時に、現代社会がいかに恵まれた世界であるのかも学ぶこととなった。



 「この時代っていいわね。私の時は毎朝起きたら、水を汲みに行かなきゃいけなかった。お湯を沸かすにしても、まず火をおこさないといけないでしょ。家の中だってこんなに温かくなかったし」



 エステラと私は外に出ると、そのまま聖ミレン教会へ向かって歩き始めた。と言っても、同じ通りにあるので歩いてほんの数分だ。その数分間も質問攻めにあう。



 ―あれ何?

 ―車。ひかれたら大怪我するから車道に出ないでね。



 ―あれは?

 ―街灯。夜暗くなったら電気が点くの。



 ―あれは?

 ―お店。あそこがこの町の中心部の端っこ。あそこから町の中心部にかけてお店がいっぱいあるわよ。



 ―あれは、あれは?

 ―自転車。



 子供の質問に答える母親のような気持ちで、質問に答えながら教会の前までたどり着いた。



 「わあ! やっぱり夜に見るのと朝に見るのとじゃ見え方が変わるわね。やっぱり私が知ってる聖ミレン教会のままだ」



 小さな教会を見上げてエステラはとても上機嫌だった。無理もない。目が覚めたら300年後の世界にいたのだ。変わり果てた世界の中に、自分の知っている懐かしい建物を見つけたら喜ばずにはいられないだろう。



 エステラは軽い足取りで教会の敷地に入ると、建物の中には入らず教会の裏へと周っていった。



 ……え。中に入るんじゃないの?



 驚きと混乱で頭の働きが鈍くなりながらも、私はエステラの後を追った。教会の裏庭は四方を背の高い樹木で囲まれていて、教会関係者が出入りするような裏口も窓も何もない。手入れされていない芝の草は伸び放題で、周辺からは完全に死角だった。私はその裏庭に立って風に揺れる芝を見渡しながら、中高生のカップルが忍んでやってきてキスするような場所だな、と思った。エステラはその裏庭の中でも教会の建物に少し近いところにある古い井戸の前に立って、井戸の中を覗き込んでいた。



 「オフィーリア、すごいよ! まだあったよ、この井戸!」



 裏庭にやってきた私を見て、エステラは興奮しながら手招きしている。



 「この井戸が何なの?」



 まるで昔のおとぎ話に出てきそうな、石でできた井戸。中を覗き込むと、井戸に落ちないようにするためか鉄格子がつけられている。エステラは足元に落ちていた小石を拾うと井戸の中に落とした。小石がエステラの手を離れてから数秒後に、ぽちゃん、と石が井戸の底の水に達した音が聞こえた。



 「やった! まだ水がある!」



 エステラはもうひとつ小石を拾うと、井戸の石に文字のような記号のような印を書いた。チョークのように白い細い線がかすかに残る。



 「エステラ、何してるの?」

 「ふふん。いいから、いいから」



 エステラは上機嫌で鼻歌を歌いながら、次々と井戸に変な印を書いていく。無作為なのか、それとも順序があるのか、印をつける石を選んでは書いていく。石に描かれた印は全て違った形をしていた。



 「よし、準備完了」

 「ねえ、一体何の準備なの?」

 「私の家に行く準備よ」



 背後に立つ私に向き直ると、エステラは軽くウインクをした。



 「え? エステラの家? ど、どこ?」



 何が何だかよくわからず、顔をしかめた。全くもって訳がわからない。もう少し私にわかるようにちゃんと説明できないものだろうか。



 「さ、行こう」



 エステラは私の手を取ると、井戸のすぐ傍へと私を引き寄せた。わけがわからず井戸を見ると、さっきあったはずの鉄格子がきれいに消えていた。



 ……やばい。



 一瞬にして、私はこの井戸の中に突き落とされて殺される、と確信した。犯人の罠に完全にはまったことに気付いた絶体絶命の被害者の気分だ。



 ……このエステラと名乗る少女は、本当は魔女でもなんでもなくて、私を殺そうとしている。この女は誰? 父さんと母さんが扱った裁判に関係がある遺族? お父さんとお母さんは他にも恨みを買っていたの?



 「私と手を繋いでこの井戸に飛び込むのよ。けど絶対に私の手を離しちゃ駄目」



 ……し、心中? この子も私と一緒に死ぬ気?



 私の体は完全に固まっていた。心臓がうるさく脈打ち、なぜ今私がこの人に殺されなければならないのかを、頭をフル回転にして考えている。



 ……知りたい。いつ起こったどの裁判? お父さんとお母さんがいなくても諦められず、その娘である私にまで危害を加えようとするなんて、相当な恨みのはず……。



 「……エ、エステラ……。あなた本当は誰?」

 「え?」

 「なんで私を殺そうとしてるの? 動機は何? 私の両親?」



 エステラは私の顔を覗き込みながら、首を横に傾けて、わけのわからないような表情をしている。



 「オフィーリア、大丈夫だよ。死んだりしないよ。私の昔住んでた家に行くだけだから」



 頭が痛い。



 「この井戸はちょっと不思議な井戸でね、私の家の地下に繋がってるの」



 一生懸命に説明するエステラの琥珀色の瞳に吸い込まれるような気持ちになって見つめていると、なぜか不思議と井戸に飛び込んでもいいかな、という気持ちが湧いてきた。



 ……別に死んじゃってもいいのかもしれない。そしたら私はお父さんとお母さんの所へ行けるし、もう寂しい思いをしなくてもいいのかも。もう独りじゃなくなる……。



 話し続けるエステラの肩に手を置いて、私は小さく「わかった」と呟いた。抵抗することすらせず、生きることを諦めた。いや、生きることを諦めようとしているのだろうか? 違う、きっと孤独感から自分を解放してあげたいのだろう。



 ……どういう恨みが知らないけど、死ぬのも一人じゃないなら願ったりよ。



 私はエステラの手を握ったまま、井戸の淵に立った。



 「せーの、で行くよ。せーの!」



 エステラの掛け声に合わせて、私達二人は勢いよく井戸の中に飛び込んだ。飛び込むのは、ほんの一瞬だけエステラの方が早かった気がする。怖くて目も開けられなかった。落ちていく感覚は、まさに絶叫ローラーコースターで最高峰から急降下する感覚だった。心臓が口から出てきそうで、耳にはただ風の音がうるさく聞こえる。



 ……あれ?



 ……なんで? なんで井戸の底に着かないんだろう?



 固く目を閉じていた私は、数十秒経っても自分が井戸の底に着かないことを不思議に思い始めた。いつの間にか心臓が口から飛び出てきそうな感覚もなくなり、風も感じなくなっていた。その代わりに、何とも言い難い不思議な浮遊感が私を襲い、宇宙に漂っているような気持ちになった。それでも怖くて目は開けられない。



 ……何? 何が起こってるの? 怖い……! 一体、何……?



 「きゃ――! 本当にあの時のまんまだ!」



 エステラの絶叫にも近い叫びで、私はハッと目を開けた。すると私は見たこともない部屋の中の椅子に座っていた。目を開けると、一瞬ぐらりと世界が揺れ、いまだに変な浮遊感が私の体を支配している。ひどく船酔いしたような感覚で、しばらくは立てそうにないな、と瞬時に悟った。いつの間にか握っていたはずのエステラの手は、私から離れていた。



 エステラは駆け寄ってくると、椅子に座ったままの私に目線を合わせて「ね? 大丈夫って言ったでしょ?」とまたウインクした。蜂蜜色の瞳がきらきらと輝いていて、冒険者が宝島で見つけた宝石のように見えた。



 「立てる?」

 「ん……」



 エステラに支えてもらいながら私はゆっくりと椅子から立ち上がった。少しずつ麻痺していた五感が甦ってくる。



 ……カビ臭い。



 靄がかかったような薄暗いその部屋の中は、長い間窓が開けられていないような、古い家のにおいとカビ臭さが充満していた。床にも目の前にあるテーブルにも戸棚にもノートの厚さほどの埃がたまり、私が歩くと新雪に歩いた後のように足跡が残った。壁や天井には立派なクモの巣や埃の塊がぶら下がっている。



 「ここが、エステラの家?」

 「そうよ」



 エステラは自慢げに言った。



 「地上階は無くなっちゃってる。けど地下はこの通りよ」



 じゃじゃーん、と両腕を大きく広げて部屋を見せるエステラは生き生きしていた。こんな自然に輝いてる人間の表情を見たのはいつぶりだろう。人間がこんな内側から輝けることが信じられないぐらいエステラの表情は美しくて、私は彼女の笑顔に見入った。



 「さて、と」



 エステラは周りを見回しながら「どこから始めようかな」と呟いた。私は木製の棚に並んでいる小さな壺たちを見ながらゆっくりと部屋の中を歩いた。まるで廃校になった古い学校の教室ように、一歩、一歩と私が歩くたびに床の木が軋む音がする。エステラは部屋の隅に置かれた大きな壺を覗き込んでいた。大きさからして水瓶だろうか。



 「わわ! 溜まってるよ」



 エステラは大きな壺からガサゴソと紙を次から次に取り出して埃まみれのテーブルの上に勢いよく置いた。勢いよく埃が舞ったので、私は思わず息を止めて口元を腕で覆った。



 「何、その壺。水が入ってるのかと思ったわ」

 「これはね、私の仕事の依頼が入る壺なの」

 「仕事の依頼?」



 私は袖で口元を押さえながら、エステラが壺から出した紙をひとつとった。それは白い封筒で宛名には「グライフの魔女さま」と書いてあった。インクの滲み具合から、おそらく万年筆を使って書かれたと思われる。博物館に展示されているような、見るからに年季が入った古い手紙。



 「これ開けていい? 随分と昔に書かれた手紙っぽいけど」

 「いいわよ」



 エステラは、こちらを振り向きもせずに壺からさらに手紙の束を取り出していた。



 ――グライフの魔女さま

 どうか、お助けください。先週の嵐の影響で、農作物は壊滅的です。畑の半分以上が収穫不能となってしまいました。収穫期までもう嵐が来ないようにしてください。そして晴天の日を多めにお願いします。あ、雨は週一程度で。



 ……はい?



 ため息が出た。何なんだろう、この半ばふざけた手紙は。これではまるで「魔女さま」が天気を自由に操れるようではないか。「魔女さま」ってエステラのことだよね? 仕事の依頼と言っていたけど、彼女はいつもこんな神様への願い事に近い依頼を受けて生計を立てていたのだろうか。



 ……いや、これでお金を貰うって詐欺に近くない?



 私は次々と手紙をとって中を見た。



 ――グライフの魔女さま

 魔女さま、じいさんが薪割りのしすぎでまた肩、背中、腰がひどく痛むようになってしまいました。いつもの軟膏をいただきたく存じます。



 ……薬の処方? これは少し現実的かな。



 ――グライフの魔女さま

 魔女さま、主人がまた浮気をしました。私はどうしてあんな男と結婚してしまったのでしょう。もう辛くてなりません。主人を殺してください。



 ……え、殺人依頼?



 エステラの仕事が全くわからない。何でも屋だったのだろうか。てか、そもそも魔女って何?



 「ふー、これで全部!」



 テーブルの上には、いつの間にか大きな手紙の山ができていた。腕組みをして口を尖らせながら、その大きな手紙の山を見つめてエステラは何か考えているようだった。だがすぐに部屋の奥にある引き出しから大きな布を取り出してくると、テーブルの上に広げ、山ほどある手紙を包み始めた。



 「エステラ、この手紙の山、どうするの?」



 エステラの思考が全く読めない私を見て、エステラはまたウインクした。



 「この手紙、持って帰る」

 「エ……エステラ……」



 また頭痛がした。



 ……この大量の手紙を持って帰ってどうする気だ? ただのゴミじゃん!



 「オフィーリア、今すごく面倒くさいと思ってるでしょ」

 「お、思ってないよ……」

 「嘘。魔女に嘘はつけないよ」

 「……う……」



 ……やっぱりエステラは魔女で、超人的な力があって、私の心の中なんてお見通し……ってことか。



 反論できない私は、ただエステラの目を見つめることしかできなかった。



 「あー、やっぱり面倒くさいと思ってたんだ!! ひどい!!」



 エステラは私を指差しながら攻め立てた。



 「え……魔女に嘘はつけなーー……」

 「ーーつけるよ」

 「……はあ?」

 「魔女見習いの私に人の心でも読めると思ったの? そんな神がかり的な業、魔女やその見習いにできるわけがないでしょ。ただオフィーリアの顔に「面倒くさい」て書いてたのよ。誰が見ても読み取れるぐらいハッキリとね」



 私は完全にエステラのリズムにのまれて呆然としていた。



 ……いや、あの井戸の鉄格子を消して、この部屋にやってくる人が人の心を読むことを「神がかり的な業」って言えるのか?



 非現実的なことの連続で、私の頭は何が「神がかり的」なことで何が「非神がかり的」なことなのか全くわからなくなっていた。自分の中の常識が完全にイカれてる。



 「あと……これも、これも。これも持って行こう」



 反論もできず呆然と佇立している目の前で、エステラはぶつぶつと独り言をぼやきながら、木製の戸棚から小さな壺なんかをとってはテーブルの上に並べている。どうやら荷造りをしているらしい。必要な物なのか、大切な物なのか、どんな意味を持つものなのか定かではないが色々と選定している。私は一番最初に座っていた椅子へと腰をおろした。



 ……ん?



 「エステラ、床に手紙落ちてるよ」



 私はテーブルの下を指差した。エステラは「あ、落ちてた?」と言いながらテーブルの下へと潜った。手紙をとると、床にはしっかりと四角い埃の跡が残ったので、恐らくずっと前からテーブルの下に落ちていた手紙だったのだろう。その手紙の上に溜まった埃を払うとエステラはその封筒から紙を出して中身を一瞥した。その顔に少しだけ感情が揺れているのが見えた。



 「……か、母さん……」

 「ん? それエステラのお母様の手紙?」



 私の声はエステラには届いていない。



 「……そうだ、母さん……! 母さんはどうなっちゃったんだろう……」



 急にその存在を思い出したように、涙目になりながらエステラは「母さん、母さん……」と繰り返す。その手紙をぎゅうっと強く胸におしあてながら、薄暗い部屋の中をまるで亡霊でも探すようにきょろきょろと見渡す。



 私はなんて声をかければいいのかわからない。300年前に生きていた人だから、どうなったかはわかるーー確実に死んでる。それでもエステラの身内のことを「死んでるに決まってるじゃん」と言うのはどう考えても無神経な気がした。自分が処刑された後、親がどうなって、どんな人生を送ったのか、幸せに生きたのかは知りたいだろうな、と心の中でぼんやり思った。



 ……私のお父さんとお母さんだって、きっと……。



 私を遺して死んでしまった両親が、遠い未来に生き返ったとしたら、きっと私がその後どうなってしまったかを気にするだろうな、と思うと、また心の奥底からじんわりと悔しさが湧いてきて、私は口をきゅっと結んだ。エステラは私のことなんて気にも止めず、時おり何かを考え込むような素振りを見せながら荷造りを続けている。



 「……そうか……やることは山積みってわけね……」



 ボソリとそう呟くとエステラはもう一枚大きな布を持ってきて、テーブルの上に並べた瓶や壺なんかを包み始めた。



 「ごめん、オフィーリアはこっち持ってくれる?」



 エステラは私に手紙が入った荷物を差し出してきた。当たり前のように差し出してきているあたり、私に受け取らないという拒否権はないらしい。紙だけだから軽いと思ったその荷物は、意外にずっしりと重みがある。サンタクロースがプレゼントの入った大袋を肩に背負うように荷物を持つと、埃っぽいにおいが私の肩周りを漂った。



 「さあ、要るものは全部持ったわ。あなたのうちに帰りましょう」



 ……帰る、てどうやって?



 私は改めて辺りを見回した。この地下室にはドアがない。窓もない。なのに真っ暗ではなく、ほんのり薄暗い程度の明かりがどこからともなく差し込んでいる。考えれば考えるほど不思議な空間だった。



 ……この明かりはどこから来てるんだろう?



 天上を見上げても窓も何もない。完全に外から断たれた場所だ。エステラは重そうな荷物を「おいしょ」と掛け声をかけながら持ち上げて、仕事の依頼が入る壺の隣にある少し小さめの壺を指差した。



 「オフィーリア、この壺をのぞいてみて」



 私は言われるままにその壺を覗きこんだ。



 「あれは何?」



 壺の中はどこまで続いているのかわからないぐらい深くて、まるで宇宙を覗き込んでいるようだ。その漆黒の空間に小さく光る点が見える。



 「あれが外」



 またわけがわからなくて頭が混乱してきた。



 「外に出る時はね、勢いが大事なの。ちょっとでも躊躇ったりしないこと。思いっきりこの壺の中に飛び込むのよ」



 私は吐ききれる限りの長い溜息を吐いた。色んなことがありえないけど、エステラの言う事は考えたり理解しようとするだけ無駄なことなんだと自分に言い聞かせる。



 ……昨日の夜から本当に意味のわからないこと続きだけど、とりあえず危険なことには巻き込まれてないし、エステラは一度も嘘を言ってないじゃない……



 私は意を決してエステラの目を見ると、静かに大きく頷いた。私たちは大荷物を背中に背負いながら壺の前で手を繋いだ。



 「私が最初に行くけど、手は離しちゃ駄目だよ。私が壺に入ったらすぐにオフィーリアも飛び込んでね」

 「わかった」



 エステラは軽々とジャンプすると壺に吸い込まれるように入っていった。エステラの姿が消える前に私もジャンプして壺に入る。あの小さな壺に入れたことにも感動したけど、壺の中にも感動した。あの小さな壺の中に果てのない暗闇が広がっていたのだ。けれど私の体はトンネル型の滑り台を滑り落ちているかのように、暗闇を下に下に滑っていった。



 ドスンッ!



 どこから出てきたのかわからないが、私はまた聖ミレン教会の敷地の裏にある井戸の横にいた。

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