第14話
慌てた様子のメイドジャスミンさんについて行く俺と同じくメイドのダージリンさん。
屋敷内は昨日より騒がしく落ち着きなく何人ものメイドが廊下を行き交っていた。
「なんでこんなに慌ただしいんですか?ただプランダール家から使者が来ただけですよね?」
「ただ貴族の使者が来ただけなら我々もここまで慌てることは滅多にないです。しかし、相手はプランダール伯爵の使者。しかも相手は平の人間では無い。騎士団長インハルド様だ」
インハルド様だ!と言われてもこの世界に来てまもない俺にはよく分からないが、とにかくすごい人が来ているようだ。
これって俺がついて行っても大丈夫なものだろうか?
怒られそうな気もしなくもないが、面白そうな香りがプンプンと漂ってくるので知らん顔でついて行こう。
それに、アリスに関することも何か分かったりするかもしれない。
コンコンと2度ノックしダージリンさんは扉を開く。
「お待たせ致しました。騎士団長インハルド様。私はメイド長のダージリンと申します。以後お見知りおきを」
ダージリンさんは完璧すぎるほど綺麗に丁重な挨拶をした
部屋は応接間で2人がけの椅子が装飾された机を挟む形で対面式に置いてある。
壁には絵画や花が活かされている。
「それはどうも丁寧にありがとう。今回はその少年に用があって来たんだ。悪いんだけど席外してもらえるかな」
椅子に座っていたインハルドって言う青年がそんなことを言った。
「かしこまりました」
横にいたダージリンさんは既にお辞儀をし退出の準備は整っていた。
「くれぐれも言葉遣いと今回の件は隠し通してくださいね」
部屋を出際そう耳打ちされた。
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「初めましてユウマくん」
オールバックに纏められた金髪は光を反射し目を少し細めたくなるほどに輝いている。
スラリと長く程よく肉好きのいい四肢はJKが見たら発狂物だろう。
指先には高そうな宝石の指輪を付けてある。
エメラルドグリーンの瞳と同じ色の宝石だ。
服装も騎士団長っぽくは無い。
そんな相手の分析より気になることを言った。
「お初にお目にかかります。インハルド様……なぜ僕の名前を知っているのか教えて貰っても大丈夫でしょうか?」
普段使わない言葉遣いにあやふやになるが聞きたいことを質問はできた。
「キミも僕の名前を知ってるじゃないか。お互い様さ」
「……知名度の差ってやつがあると思うんですが」
「ハハハ、キミは面白いね」
なにやらツボに入ったらしく笑っているインハルド様。
「そうだね。確かにそうだ。実はキミの事はとある少女から聞いているんだよ」
俺のことを知っている少女……この時点で2択になった。アリスか隣国で俺を訴えたあの女かのどっちか。
……これは殺されるかもしれない
「それって……まさか」
「察しがいいね。あぁアリス君だ」
ひとまず安堵する。面白半分で着いてきたらまさかの展開だ。
「アリスは今どこにいるんですか。無事なんですか?ちゃんとご飯食べてますか?生きてますよね?」
「まあまあまあ。とりあえず落ち着いて。席に座ろ」
気づいたら椅子から立ってしまった。
「アリス君は……すまない。守りきることが出来なかった」
さっきまでの明るい声色とは打って変わった暗い声色で話すインハルド。
しかし、そんな言葉の違いに気づけるほど、心の余裕は無くなっていた。
「そ、そんな……そんな、あんまりだ」
自然と涙が溢れ、声が掠れ、鼻水が垂れてくる。
顔をぐしゃぐしゃにしながら涙を流す。
出会ってまもないただの友人で同じ国出身でどこかその背中は安心させてくれて、一緒にこれから魔王を倒そう、そう思っていた。
が、それは叶わなくなってしまった。
10分程泣き続けたが、インハルドはそれを止めずに泣き止むのを待ってくれていた。
「……突然のこんな報告になってすまなかった。しかしまだ確実な死って訳では無いんだ」
「それは……どういうことですか!」
涙と微かな希望を含んだ声で聞く。
「彼女は現在魂を抜かれた状態になっている」
「魂を抜かれた?」
度肝を抜かれるような、日本にいた頃ならありえないセリフが飛んできた。
「ああ。我が父プランダール・P・プランダールは永遠の命を欲している」
永遠の命。それは太古、日本や世界にあった不老不死に似た人間が望む欲望のひとつ。
てか、名前にツッコミたい。
「それとアリスが何の関係があるんだ?」
「その理由はよく分からない。そもそも永遠の命を欲している事すら知っているのは指で数えれる程度の極小数だ」
「そうか。……なんでインハルド様はそのことを俺に言いに来てくださったんですか?」
これは聞かなくては行けない。普通に考えて忠誠を誓っていて更に財、権力、地位の全てを持っている人間の騎士団の団長様が殺される可能性すらある行為に及ぶ理由はなんなんだ?
それが分からない限り、この男を信頼できるかすら怪しい。
「私は父上を殺そうと思っている」
真剣な眼差しでこれは冗談ではないと銘を打つ様にインハルドは言った。
「それはまた……てか、父上ってプランダール伯爵の息子さんなんですか!?」
「言って無かったっけ?まあいい。公には内緒を保っているから秘密で頼むよ」
「それはもちろん守りますが……その、なんで、父上を殺そうと思ったのですか?相当な理由がないと」
聞にくい質問をし少し口ごもる。
「長話になるが構わないかい?」
「ええ」
俺が頷きインハルド様は話はじめる。
「私は父上を世界で一番の尊敬していた。先代の手腕を超えるその才をまじかで見ていた幼少の頃の私はそれはそれは大きな尊敬を念を持っていたよ。
領地は拡大し潤いそれをばら撒くように使って街も潤した。
世界と繋がりを必要とされるようになったと私がハッキリと認識できるようになった頃もその手腕は確かだった。
しかし、3年前。15の時全てに気づいてしまったんだ。
偶々だった。本当に偶然見かけてしまったのだ。
用事を思い出し父上の部屋に入った時壁の中に入っていくのを偶然見かけてしまって、興味本位で後を付けたら、悪魔のような声で話す父上と本物の悪魔が居たんだ。
3匹の魔物<ヴィシュヌ> <ラプラス> <ファウスト> が常に父上には付いていたのだ」
「3匹の魔物?」
俺は思わず割って質問した。
「はい。この魔物達は全てに上位悪魔で様々な権能を持っています。父上派その力を酷使し、全てを意のままに操っていただけだったのです」
……これで終わりか?なら、殺すまでの理由になるのか?
「意のまま操るだけなら、私は今まで受けた御恩と引き換えに見逃すつもりだったさ」
見逃すのはどうかと思うが分からなくもない。どうやら話はまだ続くみたいだ。
「父上は親しい貴族の友人を殺しかけ、その仕業をその貴族の側近だと事実と記憶をねじ曲げていたのです。父上が作った信頼と地位と富は知らない人からすると厚く硬いものですが私からすると脆く細い1本の糸でした。
父上の暴走はこの1年で悪化し、等々人の魂を抜き取ったり殺めたりし始めたのです。
私はこの行為が到底許せなかった……!」
「…………」
インハルドの話は20分以上続いた。
要約すると、プランダール伯爵の後ろには3匹の悪魔がいてそいつらを使って悪い事をしているらしい。
それにアリスが巻き込まれてしまい、わざわざ伝えにやってきてくれたわけだ。
「言いたいこと、伝えたい事はわかった。けど、一つだけ分からないとこがある」
「なんだい?」
「結局お前は―インハルド様は俺に何をして欲しいんだ?なにか目的がなきゃわざわざ駆け出し冒険者の元にこんな超重要な情報付きで持ってこないよな」
「キミってさニホンジンだよね」
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