第13話
「ダージリンさん。僕にスキルを教えてくれませんか」
俺は屋敷に戻り、出迎えたメイドのダージリンさんにこうお願いした。
「スキルですか?」
「はい!スキルでも魔法でも」
「……それよりアリス様はどちらに行かれたのでしょうか。姿がお見えにならないのですが」
話すべき事を話していなかった。
「実はアリスがプランダール伯爵の部下に拐われました」
「えっ大丈夫なんですか……?」
分かりやすく動揺し安否の心配をしてくれる。
「正直な話めちゃくちゃ心配で今すぐにでもここを出て探しに行きたいです。けど、今の自分にはできることがあまりにも無さすぎます。なので良かったら戦いに役立ちそうなスキルや魔法を教えてくれませんか?」
恥ずかしいが事実は強がりで変わりはしない。
なら、ここはいっそうアリスがぽつりと言ったダージリンさんはスキルや魔法系に詳しいと言う言葉を信じて聞く以外選択肢はない。
「はぁ。分かりました。今日はもう夜遅いです明日でも構いませんか?」
ダージリンさんはため息を1つ溜息を着いたが了承してくれた。
「はい。お願いします」
「では、朝お部屋にお伺いしますのでお待ちください」
________
「うぉぉぉぉぉぉすげぇえええ!!!!!」
俺は今屋敷の庭でダージリンさんにスキルを教えて貰っている。
スキルってのは魔法とは別に存在する能力で自分にバフを掛けたり、敵にデバフを掛けたり様々な能力がある。
今見せてもらったのはアバターと呼ばれるスキル。
これは自分そっくりの分身を作り攻撃とかしてくれるらしい。
「「このスキルは敵を錯乱させたり不意をついたりするのに使えるので個人的にはおすすめのスキルです。ただ攻撃や体力は生成者の10分の1になるのでご注意ください」
ダージリンさんの話によるとこの世界のスキルと魔法の定義はあまりはっきりしていないらしい。
国や地域によって呼び方が変わってくるから気をつけろとの事。
ただ魔法使いように神級魔法や神聖級魔法は使えない。
聖剣使いがデバフ等のスキルを用いて戦うのが基本的なスキルを用いた戦術らしい。
そんなことよりアバタースキルがすげぇ。
瓜二つの美人メイドが1人増えた。
声がダブって聞きにくいが。
「こんなスキルがあるのか」
「スキルを覚えるのにポイントはほとんどかかりません。ほかのも覚えていきますか?」
「是非!……それとポイントってなんですか?」
「まだ知らなかったのですか?では、冒険者カードを見せてください」
俺はポケットから冒険者カードを取り出しダージリンさんに渡す。
「ここに近くで使われたスキルが表示されますのでそこをタッチし、手持ちのポイントと交換しスキルを手に入れれますよ。ポイントはその下に書かれています。現在のユウマ様のポイントは23ですので大抵のスキルは覚えれると思いますよ」
なるほど。
よくある異世界転移となんらかわないと。
「手始めにこのアバターをタッチして覚えてみましょうか」
「はい」
俺は言われた通りにカードをタッチする。
すると自分の足元に魔法陣が展開され光が放たれた。
クッっと目を瞑る。
「習得完了です」
「アレ?もう終わりですか?」
神々しい光の割には呆気なく終わっていた。
もっとこう脳に刻まれるような感覚がある物だと思っていたがどうやら無さそうだ。
「アリス様と次女メデラン様。この両肩の身の安全を早急に確保する為にも今からこれと同じ体験を少なくとも15回程やっていただきます」
ダージリンさんは少し切羽詰った声色で言った。
5回目
「ふぅうううう」
大きく深呼吸をし意識を保つ。
10回目
「うぉぉおおおおおお」
叫び声を上げ気を上げ魂をふるわせ意識を保つ。
n回目。もう何回目で何を覚えているのかすら分からない。目眩もするし意識が朦朧とする。
「…………」
_________
「流石に今回の習得スキル量は多すぎます。次からはもうちょっと計画的に教えてあげてくださいね」
「ジャスミンの言う通りだな。そこは反省する。しかし、2人の少女の命があの男に掛かっているのだから……多少は」
ジャスミンさんとダージリンさんは黙る。
「……そうでしたね。今この屋敷であの肉ダルマに対して干渉できるのは彼とアリス様しかおらっしゃらないですし、その気持ちもとても理解できます」
「分かってもらえて嬉しいわ。救護の件も助かったわ」
「お礼は美味しい紅茶かイケメンの精気で待ってまーす」
ジャスミンさんは軽い足取りでるんるんと部屋を出ていった。
「ふふ。相変わらず他者に聞かれたら危なっかしいことを口走りますね」
「今の話本当ですか?」
「起きていらっしゃったのですか?でしたら次からはお声掛けをください。それに女性の会話を盗み聞きなんて褒められたものではありませんよ」
ダージリンさんは少しバツが悪そうな表情で続けた。
「ジャスミンがイケメン好きなお話ですよね。ええ彼女は大変イケメンが大好きらしく―」
「その話じゃないです」
「てことはアレですね。美味しい紅茶。もしかして紅茶がお好きなのでしょうか?でしたらこの後飛びっきりの茶葉を使った特製ブレンドの紅茶をご用意致しましょうか?」
「それは後で是非とも後で頂きたい。それより今俺が聞きたいのはこの屋敷であの肉ダルマに干渉できるのは俺とアリスだけってとこだ」
「……隠してしまっていて申し訳ございません」
騙しきれないと判断したダージリンさんは謝罪をし言葉を続けた。
「実は我々はプランダール伯爵の領土内に入ることが出来ないのです。理由は話すとあまりにも長くなってしまうので省略させて頂きます」
話し合いができない程度だと思っていたが事態はもう一段階上の状況だったようだ。
少し予想とは違った答えが帰ってきて、用意していた言葉が上手く機能しない。
「何があったら領土内入らないなんて事があるのですか?」
「資源問題が一番の理由です。プランダール家とクローバー家は代々ちょうど半分になるよう土地を分けこの国3分の2を治めてきました。しかし、ここ数年クローバー家側の領土内で宝石が採掘されるようになってから関係は崩壊し、立入禁止を言い渡されました」
「たった宝石だけで?」
「たったではありません。宝石はこの世界で一番の貴重品とも呼ばれている品で1級品だと100億バイツの値が着くと言われております。更にクローバー家側は元々金や鉄の採掘でも有名でしてそれに乗っかる形で……」
だいぶ世間知らずな意見をしてしまったようだ。
しかし、土地を半分にしてたとはいえこちら側の利益が余りにも大きすぎる。これは関係が崩壊してもしかないとしか。
「しかし、昔は他国との繋がりはなく西のプランダール家、東のクローバー家としてプランダール家からは食料をクローバー家からは鉱石をと分け合い争いなく過ごしてきました」
ダージリンさんは俺の考えを見透かしたように言った。
「なら、それを今もすればいいのでは?」
「時代が変われば在り方も変わってしまうものなのです」
しみじみとしたもの言いでダージリンさんは呟いた。
これだいぶめんどくさい問題に首を突っ込んでしまったなぁ。
正直めんどくさいことこの上ない。
が、ここで見捨てれば家もアリスも全部失っちゃうしダージリンさんにはだいぶ良くしてもらっちゃったし。
俺に出来ることがあるのかは分からないがやれるだけやるとしますか。
俺は上半身だけ起こしていた身体をベットの外に出し立ち上がる。
「大変です!ダージリン様!プランダール家から使いのものが来ています」
ノックもせずにメイドのジャスミンが言ってきたかと思えばこんなことを口に出した。
やっぱ逃げ出そうかな。
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