第4話 トラップ
「私の名前はテレサ。貴様らが言うとこの魔王軍ダンジョン3階層守護者にして魔王軍調理隊調理長」
堂々と高らかに名乗るモンスター。
右手に髑髏の水晶を持ち顔もよく見れば顔は骸骨だ。
ゲームによく出てくるゴースト系のモンスター。それがまんま目の前に現れたのである。
「私の登場に誰一人として声をあげれないとは。いや早、歓喜に打ち震えているのか。……そんな感じでも内容だな」
裏門に広がる冒険者を見渡しテレサは言った。
「今回は要件を伝えに来ただけだ。そもそも私は命は取らん主義でな。攻め込んできた愚か者を覗いてだが」
深紅の瞳がボッと燃え、威圧を振りかざす。
「その要件とは……!?」
俺は問う。
「これ以上魔王軍敷地内に人を侵入させるな。さもなくばこうなるぞ」
そう言って冒険者の亡骸を投げ捨てる。
「エーデイ!おい!エーデイ!」
どこからかそんな焦りと震える声が聞こえてくる。
「こいつは私がウキウキで調理していた所に乗り込んできた愚か者だ。晩飯を焦がした罪として先程殺した。今なら蘇生も間に合うかもな」
「おいおい……しっかりしろよ!?」
「要件は伝えた。もうこんな愚かなことはするなよ。俺は魔に身を染めたが元は魔法使い。侮られちゃ困る」
目の前から消えるテレサ。
街に対しての被害はゼロだが冒険者が1人亡くなった。
「ち……ッ」
何人もの冒険者がこの出来事に何も出来なかったことを舌打ちし自責の念に駆られる。
何をするのが正解だったのか全く検討のつかない俺はそっと横に目をやる。
「真紅の宝石に刻まれし天力を持ちし我が眷属よ。勇敢な冒険者の無念を晴らすためにせめてもの救いの罰をかの者に与えよ 。天への道!今こそ咲け!」
アリスの周りが光り輝くと遥か遠くの方に向かって杖を振りかざす。
数秒後遥か遠くで爆煙が上がった。
……これはどっからどう見てもアリスの仕業だな。
「おいアリス。何をしたんだよ」
俺はアリスに耳打ちをする。
「私の仕事―じゃなく本能的の中で少し許せない事があったのでさっきのテレサとかいうやつの住処にトラップを仕込みました」
「トラップ!?この距離で!?」
周りを見渡すが皆この爆音に呆然とする。
すると突然目の前に巨大な魔法陣が描かれる。
……何となく先が見えた。多分これテレサが戻ってくるパターンだ。そして誰か死ぬやつだ。
「誰だァァァ……ッ!俺の別荘に魔法を打ち込んだ愚か者は誰だァァァ……!?」
……俺の予想は当たったみたいだ。
「夏の太陽だってさらに熱く、知性の塊のようなトラップを使える魔法使いは誰でしょう」
……何を言おうとしてるんだ?アリスは。
1歩ずつ前に出ながらどこかで聞いたことあるようなセリフ。この後は……。
「そう。私です」
……やっぱりいいやがった。
「お前が別荘に魔法を打ち込んだのか」
「魔法ではありません。神聖な爆破トラップです」
「どっちでもいいわ!」
テレサは手に持っている髑髏の水晶を地面に叩きつけた。
すると突然地面を高速で動く黒い謎の物体が伝ってこちらに向かって来る。
「おい……ッ。なんだよこれ」
黒い物体は冒険者に纒わりつかれた冒険者が声を上げる。
ギルドで買ったばかりの短剣を襲いかかってくる謎の物体を切りつける。
すると切り落とされて物体は地面に吸い込まれ消えていく。
「そいつらは爆発に巻き込まれて消えた私の眷属たちだ。自分がしたことの愚かさを悔いるといい」
「さてそれはどちらのことを言うのでしょう」
「な、なに!?」
テレサの驚きも当然。謎の物体が通り過ぎるとあちらこちらで遠目で見た爆発が起きていた。
さらにテレサの周りに複数の魔法陣が展開していく。
「ゴーストになったことを懺悔なさい」
「て、撤退……ッ!!」
テレサは叫ぶとアリスの魔法発動前ギリギリに消えていく。
「助かったよアリス」
アリスの元に駆け寄りお礼を言う。今回命あるのは多分アリスのおかげだ。
「気にすること無いですよ。さっ、ギルドに帰って報酬を受け取りましょうか」
「そうだな―」
……なんということでしょう。振り返ると今も尚爆発を続けるアリスのトラップ。そして半壊していく裏門とその周辺の塀。
クイッと目を点にしてアリスの方を向く。
「ちょっと本気でやりすぎましたね。てへぺろ(´>ω∂`)☆」
反省の色がほとんど見えないアリス。
「おいこれ。どう考えてもやばいだろ」
爆発は終わった。
が、今も尚崩壊していく街の建築物。そしてそれから逃げ惑う冒険者の姿が目に映った。
これまで街を守っていたレンガや木の破片が頭上から不定期な振り方をする。
1人また1人と怪我で走れなくなっていく。
「行くぞアリス。テレサを撃退したとは言えこの被害は流石にヤバすぎる」
「そ、そうですね。汚名返上と行きましょうか!」
最初こそキョドったがセリフを言い終わる頃にはいつものアリスに戻っていた。
何本か頭のネジが飛んでいる気もしなくは無いがやっぱりこいつとパーティー組んで良かったな。
「お兄さん!大丈夫ですか!?」
「あぁ大丈夫だ。……悪いんだが肩を貸してくれないか。上手く足に力が入らなくてな」
「はいよ。掴めるか」
肩を掴める体制にし身体を起こす。
「すまない。名前も知らないのに助かったよ。ありがとう」
「お礼なんて大丈夫ですよ。俺は仲間のやった事の尻拭いをしてるだけです」
「そうか」
冒険者の男はそう呟くと。
「俺はもう1人で逃げれる他の人のとこに行ってやってくれ」
「あぁ」
冒険者の男を見送ると俺は倒れている女性の元に駆け寄った。
これが悪夢の始まりであり逃亡劇の幕開けになることとも知らずに俺は声をかけた。
「おい!しっかりしろ」
瞼が閉じられ口も半開きになっている。
手と足それと胸元に破片が掠ったのか切り傷が出来ていて血が滲む。
肩を持ち揺らしながら声を掛ける。
「おい!おいッ!」懸命に声を掛ける。
……息はしている。ただ気を失っているだけか?畜生!こんな1人の少女も助けれないなんて……ッ!
自分の無力さ、不甲斐なさに打ちのめされる。
あれだけ時間がありあれだけのお金を親に掛けて貰って高校大学と進学し得た知識の1部をやっと使える場面で俺は何も出来ない。この絶望の焦燥感に心を焦がされる。
絶望の中1つ聞いたことのある声が耳を触る。
「離せ!ッてどこ触ってんですか!?」
声の聞こえる方に振り向くとそこには完全武装した兵士とアリスが取っ組み合いをしていた。
「この私とやり合おうって気ですか!?良いですよ!とびきり神聖なのをくれてやりますよ!」
「うるさいぞ。テロリスト」
3人の兵士がアリスを取り囲む。アリスが人影に隠れ見えなくなってものの10秒程でアリスはお縄に掛かっていた。
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