第5話
知らない天井だ。
目が覚めるとこの前と違って天井があった。
石で作られ蜘蛛の巣があるその天井。
俺は、ムクリと起き上がる。
左右上下キョロキョロすると、左には鉄格子、右は直径15cmほどの小窓のみの壁。その小窓にも鉄格子がついている。
よく見ると反対側にも鉄格子があり人が寝ている。
地面は冷えており背中が冷たい。
ここでようやく俺は昨日の事を思い出した。
守護者テレサ撃退後、撃退の一任者、アリスのトラップは街をも消し去る勢いで人や建物を巻き込んで言った。
回復を専門とする魔法使い『ヒーラー』のおかげで死者こそ出なかった物の一時的な重症者はかなり多かった。
俺達も倒れた人たちの救護に当たっていた所、駆け付けた王国警備隊の兵士に魔王の関係者又はテロリストとして身柄を拘束されていた。
その後近くの交番に連行された俺とアリスは取り調べを待っていた。
最初に呼ばれたのは俺だった。
「何故このようなことをした」
……いきなり難しい質問だ。
「仲間のアリスってのが、テレサに何かしら癇に障る事をされたらしく気づいたらぶっぱなしてました」
「では何故止めなかった?」
……止められる状況ではなかったと言いたいがそれで許されるのだろうか?
「……同じ冒険者仲間が瀕死の状態だ投げ捨てられたからムカッとして」
「なるほど」
女性刑務官は頷く。日本で言う警察官という仕事に就いているであろう彼女。やはり仕事で同僚の命を落とすこともあるのだろう。彼女はそれ以外言わなかった。
「貴方が魔王の手先という線は薄くなりました。が、もうひとつ余罪があるのでそちらを調べさせてもらいます」
「余罪!?」
「お、俺は何もやってないぞ」
興奮と焦りで机をバンと叩いて立ち上がる。
「救護に当たった際、貴方は女性冒険者の胸を弄りましたね」
……何を言い出すんだ?この女は。
「なんの事だ!本当にやっていない」
「ですが被害者本人から貴方の名前が上がっている」
「た、たしかに身体には触れた!けれどそれは気を失っている彼女を起こそうと肩を揺らしただけだ」
「犯罪者は皆そう言い訳をする」
一喝し話を聞かない女性刑務官。
……これは、あれだ。痴漢冤罪と同じだ。やってなくても女性がやったと言えばその冤罪ははなんの証拠もなく立証され犯罪になる。おかしいだろ!こんなの……。
「裁判でまた会おう」
女性刑務官はそう言い俺の説明はする暇なく捨てられた。
アリスはと言うと、呼ばれた際階段を踏み外し腕の骨を折る大怪我をし教会に運び込まれているらしい。ヒーラーなのに自分は直せないのか?あいつわざとだろ。
自分の身も心配だがアリスも心配だ。
「ふぅぁ〜」
囚われの身ではあるが眠気は来るもの。
俺は欲望に素直な人間を目指して生きている。
朝日も出て居ないし。、
「寝るか」
カンカンカンカン。金属と金属を叩き合う不快な金属音で俺は冷たい海底から地上へ釣り上げられる。
「起床の時間だ。こっちに来い」
昨日と同じ刑務官が鉄格子の前にたっている。手には警棒のような鉄の棒を持っている。
「手首を前に差し出せ」
言われた通りに手を差し出すとカチャリと手錠を掛けられる。
……本格的に犯人扱いだな。
手錠が着くと俺はやっぱり何かやらかしたのではと自己否定してしまう。
手錠が外れないのを確認すると。
「では、付いてこい」
静寂が支配する廊下を歩く。
「これからどこに向かうんですか?」
俺は怖くなりつい、聞いてしまった。
「裁判所だ」
「裁判所!?」
驚く俺に冷静さを崩さず刑務官は言う。
「そこでお前の罰を決める多分死刑だろうな」
刑務官の言う言葉に声が一瞬詰まる。
「……死刑!?冤罪で死刑!?」
「この国では性犯罪は最も重い罪の一つに数えられる。無知とはなんとも残念な結果を産む物だな」
「おかしいだろ!」
「おかしい事なんて何一つ無い。悪いのは失神して弱っている女の子に欲望のままに迫った己を呪うことだな。いいかそもそもだ。男なんてろくな生物じゃない。女性をものとしか見ず、使うだけ使って要らなくなったら捨てるようなゴミ集まりだ。大体……」
その後1人ブツブツと男に対する文句を垂れ流す刑務官。
……話が通じない。せっかくの異世界転移だ。何もせずに死ぬなんてごめんだ。逃げよう。
留置所から裁判所への移動は徒歩で周りを見ても警備らしき人はこの刑務官含め3人しか居ない。
街の図は分からないが一か八かであそこの角を走り抜けて何とか振り切れるか試してみるか……?
だがもし、失敗した場合冤罪ではなくなり怪しさが増すと同時に公務執行妨害をかけられてしまうかもしれない。損害賠償請求やらなんやらも請求されそうだな。やっぱ逃げないべきか……。
頭の中でやろうと思うこと全てのダメな結果を想像してしまう。
機転の利きそうなアリスならこの状況を打破出来たんだろうけど、俺にはお手上げだ。
が、とりあえず逃げるか。
となればよくある。
「アーッ!」
反対方向に指をさしながら叫び声を上げ刑務官達があちらを向いた瞬間俺は走り始めた。
「なんだ!?」
「……なにも……ない?いいか貴様。これは忠告だ。これは以上罪を重ねるな。そんなに早死したいのか―」
刑務官が何か言っていたが振り返った頃には俺は路地を曲がっていた。
走る。走る。走る。とにかく全力で走り逃げる。
右に左に路地から路地へ駆け回っていく。
大通りに飛び出しそこも駆け抜けていく。人にぶつかり、商品に躓くが一言謝罪し再び走る。
「止まれ!貴様が逃走している今こそ時も罪が増しているんだぞ。それを理解して行動しろ」
刑務官は未だ振り切れず追ってくる。5分10分カチカチカチと時計の針は進んでいく。
その頃
裁判所ではギャラリーが溜まっていた。
なんせ被告人が現れないのだから。
何があったのか事件のことを知らない野次まで集まり始め騒がしくなる。
被害者は盗賊の女で今回でこのような痴漢等の被害が8件目らしくその全てで裁判を起こしており、毎回1000万程の賠償金と死罪を要求しているらしい。
全ての事件に目撃者はおらず事件の証明は何一つ行われておらず、無理やり判決が言い渡されるらしい。
「おい!やっと来たぞ」
「ほんとだ。……なんであんなにボコボコにされてるんだ」
あの後俺は呆気なく捕まった。
あいつら大通りで魔法を使い始め俺を逃げ場のない隅に追いやり始めた。そこに電気の魔法をうちこまれ髪は少し焦げ身体の感覚がヒリヒリし始めた。
その場に倒れ込み首輪を巻かれ紐に繋がれた俺は無理やり立たせられここまで連れてこられた。
「血祭りにあげちまえー!」
「もう拷問を受けてきたのか?いい気味だな」
野次の歓声が上がる。どうやら俺は本当に犯罪じゃ扱いをされているらしい。
「静粛に!」
青空裁判所とでも言えばいいのか。
日本の裁判所と比べたら天と地の差がある。
室内ではなく屋外で行われており、もちろん屋根や壁などは一切ない。
左にさっき俺を捕まえた刑務官。右に普段なら弁護士がいるはずの席がある。
そのちょうど真ん中の位置に分厚い木の板が埋め込まれており、そこに俺は両手両足を結ばれた。
裁判長らしき男がニヤリとゲベた笑みを浮かべ俺を見る。
「これより被告人加藤 佑真の裁判を執り行う。検察官。罪状と証人を」
「はい。まず今回の罪状はテロ及び魔王軍関係者の疑い、そして公然わいせつ罪に当たります。証言人をここに」
茶髪で満身創痍の1人の少女が車椅子に押されながら証言人席に着く。
……あれどっかで見たことが。
「私は胸を触られた本人です。この男は気を失っていた私をゲスの笑みを浮かべニヤつきながら近ずき身体のあちこちを弄り……ました」
涙を浮かべ裁判長に訴える。
被害者直々のお出ましとなり自体はややこしさを加速する。
「何故私は胸を触られなくてはならなかったのでしょうか。ねぇ!」
今度は俺にも涙ながら情に訴えてくる。
何もしてないし反論をしたいがしたらさらに状況が振りになるかもしれないと思いなんとか感情を殺し沈黙する。
「なんとも可哀想な……。被告人証言台の前にたってください」
立てと言われても両手両足を鎖に結ばれているので立ち上がることすら出来ない。
「鎖が邪魔で立てないのですが」
裁判長は俺の指摘に面倒くさそうな顔をするが部下に解くよう命じる。
ようやく訪れた手足の自由に感動を覚えるがやることは違う。
やるのはただ1つ。全力でこの裁判を否定し続ける。
「被告人。罪状及び被害者の仰ってる事は事実ですか?」
「全てがデタラメだ!俺は何ひとつやっていない」
「しかし、貴方の仲間が放った魔法により街の裏門は破壊され住民、冒険者の住処は燃え果てました。この事実はどう説明しますか?」
「た、確かにうちのパーティーメンバーが魔法を使ったのは事実だ。しかしだ!アリスが魔法を放た無かったら街の被害はより深刻だったことが容易に想像出来る。だから魔法を打ったことを責めるのはどう考えてもおかしい!」
「魔法を放ち自己防衛をするのは冒険者なら分かります。が、いくらなんでも威力が強すぎやしませんか?こんなの魔王軍と結託しこの街を潰しに来たテロリストと考えるのが1番筋がと思っている。これは私だけの意見では無く、国王様の意見でもございます」
国王。中世に置いて圧倒的最強の権力者の名が飛び出す。
その時裁判長の後ろで何かが動くのが見えた。
「…………」
俺は沈黙する。
「よって被告人加藤 佑真氏は今この場で死罪とする」
あっけなく死罪が決まる。
俺は刑務官に取り押さえられギロチン台にセットされる。
最後の抵抗をしようと手足をバタバタ指せるも不屈な男3人にはなんのダメージもありやしない。
いよいよ自分の命が聞きに晒されると脳が理解をし冷や汗が止まらなくなりキョロキョロとギャラリーを見てしまう。
ギャラリーが俺に向ける視線は汚物を見る目その物をしていた。
「さぁその刃を落とせ!」
裁判長は部下にそう命じた。
「やめろぉぉぉぉッ!」
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