Ⅳー3

突入前に目標の確認。


①坑道の把握と採掘ポイントの調査

②ゴブリンの生態調査

※戦闘は最小限に留め、やむを得ない場合に限り静かに迅速に排除。


3人で確認しあい、いざ洞窟へ。冒険者が出入りする大きな入り口から入る。減っている冒険者の方が、ゴブリンよりも遭遇率が低いと考えた為だ。3人それぞれ鬼火を出し洞窟内を照らす。思っていたよりもかなり幅も高さもある。ひんやりとした空気が流れ、鬼火の明かりが届かない暗がりから独特の怖さを感じる。


暫く進むと大きく開けた場所に出た。そこには複数の登り道や下り道を伴った割れ目。更には無造作に開けられた大小様々な横穴や縦穴まで存在していた。選択肢の多さに目眩がする。


「虎徹。ここ来たことある?」


「いや、正面から入ったのは初めてだ。生き返って出て行くときは、山の中腹あたりだった。」


「少し足跡を探してみるか。靴の跡なのか、それ以外か。それと向きな。入っていったきりなのか戻りがあるか。下が岩盤で付かないところもあるだろうが。ついでに壁面も見とけよ。戦闘痕なんかもあるかもしれねぇ。生き物が動けば何かしら跡は残るもんだ。」


さすが元冒険者。頼りになる。手分けして痕跡を探す。




探し回った結果、候補としては3つ。昇っていくように伸びた道、まっすぐ伸びた横穴、割れ目を下っていく道。それぞれ靴跡らしき跡や、壁に何かを引っかけたような跡など誰かが通ったであろう痕跡を見つけた。他に手がかりもなし。この3つに絞り、手当たり次第行ってみるかという話になった。


一番近場にあった下りの道を進む。何度も曲がったり上がったり下がったり。方向感覚がおかしくなる。分岐も出始めた。分岐の度に目立たぬ場所に印を打っていく。更には地上で見ぬモンスターも出始めた。ネズミや蛇、ムカデやゲジゲジなど。然程強くはないがそこそこ身体は大きい。小さいながらも体内に魔石を持っていた。戦闘痕もあり、折れた刃の欠片なども見つけた。冒険者が出入りしているのは間違いないだろう。


奥へと進む。ふと見つけた横穴へ鬼火を走らせてみる。すると奥の方で何かが光を反射したように見えた。横穴へ入り、正体を確かめる。すぐに行き止まりであった。だがその行き止まりの壁が周囲の壁と色味を違えている。ピッケルで叩いてみる。質感が周りの壁とは明らかに違う。


「これ鉄かな?」


「わからん。」


「石集めは趣味じゃねぇ。」


誰も鉄鉱石知らねぇじゃん。くずおれた。


「た、たとえば、冒険者がこの横穴見つけて掘ってみて、出てきたのが鉄だったから掘るの止めたって線は?」


鷹迅に確認を取る。


「あり得るかもな。」


「そうだよな。あり得るよな。少し削って持って帰ろう。とりあえず持って帰って、萩月さんにでも見て貰うしかない。これが鉄鉱石だったら改めて集める方法を考えよう。」


「ま、それしかないわな。てっきり見極めできるのかと思ってたぜ?そんなんじゃ自分たちでどうこうするのに相当時間掛かるんじゃないか?」


「とは言え、他に手に入れる手段がなぁ。」


強いて言うなら商人のソエルだが、大工道具とは違いこっそり持ち込むというわけにはいかないだろう。


それからは横穴にも目を向け始め、何種類か色味の違う鉱石を採掘した。この中に使えるものがあるといいのだが。




「とりあえず、何かが採掘できるということは分かった。」


3人揃って乾いた笑いで締める。


「じゃ、ゴブリンの巣でも探すか。」


「そうしよう。」


鷹迅と虎徹にも促され切り替える。


「そう言えば、ゴブリンに出くわさなかったな。繋がってないのか?」


「どうだかな。外で出くわすから、あまり中には残っていないだけかも。」


「虎徹の見解は?」


「食い物の事を考えると、この辺りは魅力がないのかもしれん。ここに来るぐらいなら外に行った方がマシなように思う。」


「それは言えてる。」


その時、後方でガリっと物音が。3人で身構える。ゆっくり近づいてみると、アラクネが捕まえたらしい蛇を頭から囓っていた。いるのすっかり忘れてたよ。こちらに気付いたアラクネが食べかけの蛇を差し出してきた。いや、いらんて。


「気持ちだけもらっとくよ。自分で食べなさい。」


ジェスチャー混じりに、いらんいらん自分で食えと言う。


「なんだよ。せっかくだし貰ってやれよ。」


鷹迅がニヤケ面で貰えという。


「あ?だったら鷹迅が食えよ。」


「意外と旨いかもしれねぇぞ。だが虎徹に譲るぜ。」


「いらん。飯を分けたのは琥珀だ。応えてやれ。」


「え?そうかな。じゃあ貰う?」


「「どうぞどうぞ。」」


「いや、いらんわ。」


そんな三鬼のやりとりにアラクネは首をかしげながら、またボリボリと食べ始めた。ヤツなりの飯のお礼なのかもしれないが、流石に食いかけの生の蛇はもらっても処理に困る。


「フッ。ヤツはどこでも生きて行けそうだな。」


「順応性は高そうだ。」


虎徹が微笑み、鷹迅が返す。


場が和んだところで最初の大きな分岐のある空間まで戻ることにした。




今度は上に伸びる道を選択する。うねる道を進み、分岐を何度か過ぎたところで異変が。


「臭うな。」


「ああ、獣臭というか、ゴブリン臭だな。」


身体を洗わずに放置したような体臭を、更に煮詰めたような悪臭が漂い始めた。


「絶望的に臭い。琥珀に教えて貰って良かった。」


しかめっ面で虎徹が言う。


「いや、虎徹はここまで臭わなかったぞ。心配すんな。」


「一体や二体って感じじゃねぇな。先にたまり場でもあるんじゃねぇか?」


鷹迅を先頭に、慎重さを増しながら先を進む。曲がり角のある分岐についた時、鷹迅が止まれと合図を出した。


「鬼火を消して、暗視に切り替えろ。」


小声で囁く鷹迅の指示に従う。くいくいと覗けとハンドサインがあったので、虎徹と二人で顔を出してみると、数匹のゴブリンが仕留めてきたらしい獲物を担いで横穴に入っていくところだった。松明を手に持っている。


「行くか?」


聞いてきたので、虎徹と二人迷わず頷く。


ゴブリンを追い横穴を進む。すると暫くして行き止まりの壁と共に、下へと続く縦穴を発見。遠目に見るだけではこの縦穴は見つけられなかっただろう。どうやらここを飛び降りたらしい。一歩通行の帰り道なのだろうか。覗いて見るも下には気配は感じられない。すでに先に進んだか。


一番跳躍力のある俺が先陣切って飛び降りる。臭いが一段と増した。どうやらこの先に集団がいるのは間違いなさそうだ。通路は更に続いている。ゴブリンの姿は確認できない。上に合図を送ると二人が降りてきた。


また先頭を鷹迅に譲り、暗闇を進む。分岐を数回進むと何やら先が明るい。息を殺し慎重に進む。開けた空間が見えてきた。先の地面が途絶えている。先は中空か。強烈な臭いと共にガヤガヤと大勢が出す声や音が聞こえてくる。意を決してそっと顔を出した。


「ッ!」


驚きの光景に思わず仰け反る。


松明に照らされた広大な空間に、100や200では利かないゴブリンが所狭しと存在していた。雄もいれば恐らく雌であろう個体もいる。取ってきた獲物を食らう者。ゴブリン同士争う者。構わず寝そべる者。中には交配してるらしきゴブリンもいる。喧噪極まれりだ。俺達はそれらを見下ろせる崖の上にいるようだ。


鷹迅があれを見ろと目配せを寄越した。


鷹迅の目線を追うと、そこには一段高い岩盤の上に石を積み上げた玉座のようなものが。その玉座にゴブリンとは思えぬ体躯をした個体がふんぞり返っていた。肌の色はゴブリン同様だが、シルエットは人種に近い。冒険者から奪ったのか、随分と豪奢な銀の鎧を着込んでいる。その周りには同じような体躯をしたゴブリンが数体控えている。みな冒険者から奪ったであろう様々な鎧を着込んでいた。一際目を引くのが、暗めの色の革と鈍色の金属で作られたドレスアーマーのような鎧を着込み、長いブロンドヘアーをなびかせる雌型ゴブリンである。背には長剣を備えている。


ゴブリンの姫騎士かよ。


「ホブゴブリンってやつか?」


鷹迅に確認を取る。


「多分な。完全にゴブリンを従えている雰囲気だな。」


「あの戦士達とは戦ってみたい。」


虎徹がうずうずしている。


「ホブゴブリンが生まれて、ゴブリンを組織的に使うようになったってことか。」


「その可能性が高いんじゃねぇか?」


「それにしても数が多いな。」


「ゴブリンの繁殖力はすげぇからな。成長も早いらしい。冒険者が来ない分増えたい放題ってとこじゃないか?」


一旦戻ろうか。


そう言いかけた時、入ってきた方向から気配が。三者一斉に振り向く。そこには一体のホブゴブリンと複数のゴブリン。ホブゴブリンが雄叫びを上げながら大きな鎚を振り上げ、俺達に向かって走り出した。


完全に不意を付かれた。起き上がるも態勢が整わない。


「俺が受ける。」


虎徹がすぐさま判断し、巌力を腕に纏い前に出る。重たい金属同士の衝突音が響き渡る。


虎徹の横をすり抜け、俺と鷹迅がホブゴブリンに刃を突き立てた。


Gyaaaaaaaaaaa


断末魔の叫びが反響する。


勢いそのままに、後方にいた残りのゴブリンを始末する。始末し終えて戻ると虎徹が立ち上がって下を望んでいた。


「気付かれたよな。」


俺が当然な事を確認する。


「ああ。一斉に散って俺達に向かってくるようだ。」


見れば、横穴に飛び込む者や、壁をよじ登ってくる者など様々だ。ホブゴブリン達は一様にこちらを見上げている。


「狭い通路で挟まれるのは面白くねぇな。」


鷹迅が言う。


「仕方ない。いっそ、広いところで暴れるか?」


「望むところだ。」


「ま、そっちのが潔いいわな。」


俺の提案に躊躇なく乗ってくる二鬼。


「じゃ、そう言うことで。いくぞ。」


我先に三者一斉に飛び降りる。着地と同時に近場にいたゴブリンを切り飛ばす。三鬼で互いの背を守り、散発的にかかってくるゴブリンを一体、また一体と斬り倒す。


Goaaaaaaaaaaa


突如切り裂くような咆哮が響いた。その声が聞こえるや否や、ゴブリンどもは俺達から距離を取り、俺達を円で取り囲んだ。


見ればホブゴブリン共が岩盤の上から見下ろしている。さて、どう動く。すると虎徹が一歩前に進み、ホブゴブリンの首領らしき個体に体を向けた。


「お前!俺と闘え!俺とお前だ!一対一だ!来いッ!」


身振りと共に叫んだ。流石虎徹。ぶれませんわ。


相手の出方を見ていると、首領は腕を組んだまま微動だにしない。すると徐々に顔がいやらしく歪み汚い笑みを浮かべた。


あ、これはあれですわ。理解はしたけど期待に応える気は微塵もないよって顔ですわ。


首領が片手を上げ、何か発しようとした時、なぜか姫騎士ゴブリンが首領の前に出た。自分の胸をドンと叩き、今にも虎徹に飛びかからんとしている。え?君がやるの?と意表をつかれていると、姫騎士は首根っこを怒りの表情をした首領に掴まれ放り投げられた。


あぁ。空気読めないタイプね。


Guaaaa Guaaaa


首領が叫ぶと取り囲んでいたゴブリンどもが一斉に飛びかかってきた。


ですよね。


殺到するゴブリンの速度を瞬時に見極め、倒す順番を決めていく。一体に一太刀以上かけていられない。頭も身体も存分に使い、目の前の敵を捌いていく。


次第に足元にゴブリンの死体が溜まってきた。動きが阻害される。動きたいが背後が空いてしまう。特に力の劣る鷹迅が気になる。チラリと彼に目をやると傷も大分負っている。かなりきつそうだ。


「おい!気ぃ使うなって言ったろうが!さっさと動けや!クソみてぇな視線寄越す暇があんなら一体でも多く殺しやがれ!」


こちらに目線もくれずに言い放つ鷹迅。


「ったく可愛げねぇなお前は!後で泣きべそかくんじゃねぇぞ!」


叫ぶと同時に俺も虎徹も動き出す。なるべく大きく目立つ動きでゴブリン達の注意を引く。位置を変えながら、鷹迅の方に向かいそうなヤツから率先して倒していく。


四方八方から群がるゴブリンを舞うように切り裂いていく。その間に退路を探す。どこの横道もさっき散っていったゴブリンが戻ってきて詰まっている。多過ぎだろ。チクショウ!


「すまねぇ!ここまでだ。俺は置いていけ!」


鷹迅の叫びが聞こえ、振り向くと鷹迅がいたであろう場所に血飛沫があがり、槍が倒れた。


馬鹿野郎!強がりやがって!


「ぅおおおおおおあああああッ!」


虎徹が倒れた鷹迅に向かって突進していく。ゴブリンがいようがお構いないしに突っ込む。屈んだと思うと俺に向かって鷹迅の槍を投げて寄越した。


「槍を持って帰ってやれ!」


虎徹が大太刀を振り回しながら叫ぶ。


「虎徹はどうする!」


ゴブリンを舞い切りながら俺が問うと、数匹まとめて一閃で薙ぎ払った虎徹が、獰猛な笑みを浮かべ言い放つ。


「俺はあそこで見物してるやつらに一太刀浴びせてから逝く。」

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