Ⅲー8

ま、日本語で言ってるから伝わらないんだけどね。


冒険者二人を改めてよく見る。槍士は腹の刺し傷をはじめ満身創痍。重傷といって差し支えない。冴えない剣士は大した傷も無く、ガクガクと震え続けている。持ってる剣を見れば血に濡れている。槍士を刺したのはこの男か。


「虎徹。やるか?」


「ああ。俺がやる。」


虎徹が大股で近づき、二人を正面に見据えた。


「戦士なら、俺と戦えッ!」


一喝


途端、踵を返し逃げ出す剣士。槍士はゆっくりと力なく顔をあげて虎徹を見据える。


「・・・ゴブリン?・・・mosecnee」


槍士がぼそりと呟く。あまり聞き取れなかったがゴブリンと言ったか?虎徹の姿に何か見出したのか?だとしたら相当勘がいい男だ。


虎徹は剣士に狙いを定め走り出す。あっという間に追いつき頭を掴んで持ち上げる。頭の骨が砕けそうだ。絶対にやられたくない。


「琥珀。なんと言ってる。」


「はいはい。ちょっと待ってね。」


少し近づき、翻訳を試みる。


「えー、やめろ、離せ・・・みる、逃げる・・・見逃してかな?ゆーぶるふぇるな?・・・痛い。・・・・あるとらーぜ、・・たすかる、助けてか。恐らくそんな感じ。」


「命乞いか。」


「助けるの?」


「価値を見い出せん。」


虎徹は頭を持ったそのままに、地面に勢いよく叩きつけた。


ドォォォオン

グゲッ


轟音とともに地面が凹む。剣士から音か声か判らないものが聞こえる。


「ん?」


もう一度持ち上げ確認している虎徹。頭が潰れるイメージだったんだろうか。頭蓋骨って固いからね。地面が柔らかいと割れないかもね。


その後2度、3度と叩きつけた。ひしゃげた頭から、血と共に白っぽいものが出た。脳みそかな?その前に鈍い音がしたから、恐らく首の骨でも折れたんだとは思う。


ジャリ


ふいに背後で音が鳴る。振り返れば槍士が槍を支えに立っている。無理するなよ。血を流し過ぎてか、顔真っ青じゃねえか。


振り返り、槍士と向かい合う虎徹。槍士が踏み出そうとして、そのまま力なく倒れた。意識を失ったか。


「琥珀。」


「何だ?」


「あいつは死ぬか?」


「死ぬだろうな。」


「・・・助けたい。」


「えええええッ!あいつ虎徹のこと殺したんだぜ?忘れたの?」


「俺が弱かっただけだ。卑怯な手は使わなかった。いい戦士だ。それに俺だって琥珀を殺した。」


相変わらず器が大きいというかなんと言うか。


「いや、まぁそうなんだけどさ。・・・・助けるって言ったってなぁ。」


今から冒険者の拠点に担いでいったって、間に合いそうにないし・・・。


周囲を見渡す。


あるのは冒険者の骸ばかり。・・・冒険者か。ああ、あるかな?あるかもしれない。定番のあれ!回復アイテム!


「虎徹、冒険者の死体集めてくれ。もしかしたら、何か傷をふさぐ道具があるかもしれない。」


「わかった。」


虎徹と二人、死体を集めては荷物を漁る。


これ端から見たらただの賊よね。そんなことを思いつつも体やら背嚢から、手当たり次第引っ張り出し並べていく。




・・・候補としてはこれなんだけどなぁ。数本の液体の入った瓶やら陶器やら革袋やらを前に悩む。一番数が多く、瓶入りのもの。蓋を開け匂いを嗅いでみる。ハーブのような鼻を抜ける匂い。肌に垂らしてみた。反応無し。一口舐めてみる。うっすいハーブティーみたい。


一滴、槍士の肩の裂傷に掛けてみる。ジュッと音がして傷口で泡立つ。一瞬、強酸性のものかと思って焦った。泡が消えると、痕は残るがうっすら塞がっていた。これだ。


問題は腹の傷だ。これ内臓傷ついてるよな。この状態で塞がったら事だよね。ファンタジーな不思議パワー働くかな?いや怖いな。


飲ませてみるか。無理矢理体を起こし、口に瓶を突っ込む。口移し?するわけねーだろ。咽せつつも少しずつは喉の奥に落ちている。


一際大きく咽せた後、槍士が目を開けた。


力なく俺を見ている。瓶を見せてみる。「飲めるか?」と向こうの言葉で言ってみる。ニュアンスは伝わったはず。


僅かに顎が縦に動く。


また流し込んでやると、今度は自分の意思で飲み込んだ。よし、飲んだって事は間違ってなかったってことだな。


もう一口飲んだところでまた意識を失った。


あとは、傷に掛けとこう。ぱっくりいってる傷を合わせながらながら、2本3本と使いびちゃびちゃと振りかける。水浸しだが構うまい。用法用量などわからんのだ。傷は大方塞がったようにみえる。


「俺達にできることはここまでだな。」


虎徹に振り返り告げる。


「ああ、この後どうする。」


いや、考えてなかったんかい。


「冒険者の拠点にでも運ぶのがいいんじゃないか?このままここに居たって回復するとも限らないし。人間のことは人間さ。」


「そうか。ではそうしよう。」




背負子しょいこに槍士を括り付け、俺と虎徹がそれぞれ両脇に仲間の死体を抱えた。仲間の死体については、流儀も分からないので一緒に運ぶことにした。


拠点の近くまで来た頃には辺りは暗くなっていた。5人を木陰に寝かせる。さて後は、と。




冒険者の拠点を、木の上から少し遠目に覗く。暗視モードを最大活用。そこそこいるな。お、前に見た、できそうな5人組もいるじゃん。さあ、冒険者の肝の太いところ見せてくれよ。


霧をそろおりそろりと這わせていく。薄く広範囲に。拠点にも徐々に霧が入り込む。拠点を越えて向こう側にも。


霧に気付いて少し騒ぎ始めた。周囲を見渡す者、身構える者、荷物をまとめる者、祠に走り出す者様々だ。


ゆっくりゆっくり霧を濃くしていく。こんなもんかな。次。


槍士の仲間の女を霧でかたどり、拠点に向かって歩かせる。鬼火を二つ添えて。暗いと見つけにくいからね。鬱蒼とした森の中で出くわしたら、おしっこチビっちゃうよ、これ。自分で用意しといて何だけど。


冒険者が気付いた。何か叫んでる。


霧の女に手招きさせる。2、3歩進んで振り返り、もう一度手招き。おいでおいでー。変なことしないから。お。5人組の内のエルフが動き出した。仲間に声をかけ行ってみようと誘っているようだ。助かるよ、その好奇心。


霧の女を進める。時折振り返りおいでおいで。よしよし。5人組は完全に追ってくれてる。もう少しで着くというところで速度を上げる。本人の死体のあたりで一気に消した。5人組が走って追ってくれたので霧も霧散させる。発見してくれたようだ。後は頼むよ。人間さん達。


さて、戻って惨状を片付けねば。




大湖の畔に戻り、死体の処理を考える。冒険者の死体は流石に消えないよな。朝になったら消えてないかな。聞いておけば良かった。装備品は外しておくか。大したものなさそうだけど。


暗視を使い、鬼火で照らしながら作業する。集めると武器や防具、装飾品に道具類、硬貨らしきものに背嚢などなど。こんもりと集まった。


湖を眺める。カエル狩られたんだよな・・・。いや、こんだけ大きな湖にカエル一匹ってことはないだろう。試しに頭の潰れた剣士の死体を流してみる。


岸から離れて、そろそろ深いかなというところで、死体の周りに大きな気泡がでた。


バクン


突如、なまずのような顔が出て一口で飲み込んで行った。


でっか。驚いて虎徹の顔をみる。


「初めて見た。水の中はよくわからん。」


とりあえず全員水葬ということで。二人で次々投げ込む。すると出るわ出るわ。今までは静かだった湖面が、ばちゃばちゃばっくん。


さっきの鯰より小振りな魚から鰻みたいのまで。亀もいるな。お、あの尻尾はザリガニでは?あー、もしかしたらここ地底湖と繋がってるのかも。小湖も怪しいよね。高低差を考えれば、地底湖が水源になってここに流れ込んでると。あり得る。繋がってる穴に柵でもつければ、地底湖の危険度が一気に下がるかも。覚えておこう。


「さ、帰るか。」


「そうだな。随分と遅くなった。」




背嚢や背負子に戦利品を積み重ね、家路につく。歩きながら考える。人間とのこれからの付き合い方。


俺は確実に人を屠れるだけの力を手に入れた。人にしたら脅威そのものだ。いずれ発見され敵視されるかもしれない。その時どうするか。


とは言え、俺にしてみれば積極的に人間を襲う理由はないんだよな。消極的友好関係が理想かなぁ。


ただ、今日は多くの人間を殺してしまった。さすがに噂の一つや二つ立つだろう。槍の男がどこまで話すかだな。もしかしたら大々的な調査が入るかもしれない。あまり悠長に構えてる暇はないのではなかろうか。


さて、どうしたもんか。


「考え事か?」


「ん?あぁ。あの槍の男。俺たちの事話すかなぁってさ。」


眉間に皺を寄せる俺に気を利かせたのか、虎徹が話しかけてきたので正直に答えた。


「そうか、すまない。」


「いやいや、俺もつい驚くような真似しちまったけど、助けに行ったのに見殺しってのは可笑しな話さ。あれで良かったんだよ。」


「そうか。ならいい。」


「ま、考え過ぎても仕方ないか。虎徹がいてくれりゃなんとかなるさ。」


「ああ。琥珀と二人なら何でもできる。信じている。」


おっと。こりゃ分厚い信頼だ。


「そうだな。今は独りじゃないんだ。一緒に考えていこう。」


「いや。考えるのは琥珀に任せる。」


ベタにずっこけた。


「なんでだよ!」


「フッ。冗談だ。」


「そうかよ。フッフフフフ。」


「ああ、冗談だ。カッカッカッカ。」




冗談言い合い夜道を歩く。

たった二人の道行きなれど、鬼火灯して闇路やみじ行く。

空を見上げりゃ偽の星。

星の数ほど未来があると、勇む心に曇りなし。

行きはよいよい、帰りはこわい。

帰る道などありゃせぬと。

茨かき分け歩む鬼道おにみち


っとくらぁ~!ベンベン


お粗末!


by琥珀

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る