Ⅲー2
時の流れとは早い物だ。まさか虎徹からツッコミを貰う日が来ようとは。
それはそうと、ますます地底湖の存在を知られるわけには行かなくなった。あれを目当てに冒険者が殺到!なんてことになったら目も当てられない。この階層が冒険者で溢れてしまえば、いずれこの地の存在も知れてしまうだろう。一旦取引は封印しよう。頼むぞ。ソエル君。上手いことやってくれよ。
ねぐらに戻り、一眠りしたら稽古までの朝の日課を消化。食事の後、昨日手に入れたブツを改めて確認する。
ソエル君・・・勘の良いガキは・・・大好きだよ!
よく用途の判らない物もあったが、概ね希望通り。きっと怪しまれない範囲で目一杯詰め込んでくれたのだろう。次の取引相手も君で決定だ。次があるか分からんけど。
「さぁ。これで下準備は整った。次の段階へ移行する。」
「ツギカ?ナニヲスル。」
「お社を建てるのだ!」
「オヤシロ?」
「お社様なのです。ニパー。」
「ニパ?」
「・・・すまなかった。忘れてくれ。」
昨日ツッコミがあったことで、つい羽目を外してしまった。真顔の真面目な返しが一番胸に刺さる。しかも解説したところで伝わらない。
「ん、んんっ。お社というのはだな。神様が地に降りられる場所。神様と繋がるところ。まぁお願いするところだ。」
「ソウカ。ヨクワカランガツクロウ。」
まぁそうだよなぁ。神様を祀るって感覚は独特だからなぁ。畏れを感じればあるいは。お方様にお会いできれば、もしかしたら伝わるかも知れん。まぁおいおいだな。
それからというもの、俺達はお社作りに没頭した。稽古と食材集めの時間を除き、日が落ちても作業を進めた。探索してモンスターを倒し、魔核を食べたところで虎徹は得るものが無いのだ。ならば最優先はこれ以外にない。
木の皮を剥ぎ、丸太のままのもの、柱状にしたもの、細長い板状にした物などある程度パーツを作っていく。頭の中の設計図のもと、切れ込みを入れたり、差し込みのくり抜きをしたりとある程度の下準備。
穴を掘り、表面を平らにした石を埋め、その上に皮を剥いだ丸太を差し込んで土を戻して固定する。さすがに埋めないと無理っす。石の土台に乗せるなんてとてもとても。
あと、釘も使います。すいませんすいません。木組み覚えてる暇ないです。最低限でいきますんで、許してください。
まずは柱を4本埋め終わる。なにか人工物という感じがして感慨深い。小さく作る事も考えたが、意外と小さく作るのって難しい。それにここでの経験が我々の家作りにも活かせると考えて強行した。
4本の柱を見上げて気付く。届かねぇじゃん。いそいそハシゴを2本作り出す。
予め削っておいたくぼみに削り出した太目の木材をはめていく。四角い骨組みキューブの完成。更に入り口側を除いた三方向に、太めの支柱も追加する。正面は入り口の分、間隔を開けて。次に地面から何本も短い支柱を生やし、木材を渡して、厚めに作った板を2重に張っていく。床完成。石器時代から高床式の弥生時代へ大幅ジャンプアップ。
屋根に取り掛かる。まずは天井に太めの梁を通す。そこを足場に屋根の骨組みを作る。三角屋根が最大の難関であった。二人でああでもないこうでもないと、何度も組み替えながら完成。支えを色んな方向に追加した物だから、下から見上げるとかなり不細工。予定になかったが、隠す為に板を渡し天井を作った。屋根は、まず仮の板を張り、その上からカエルの皮を張り巡らせ、防水性を確保。上から木の皮、最後に整えた木の板を軒の方から重ねていって、屋根の完成。
ふう、と息をつきながら、完成間近の社を見る。あとは、壁板をはめていけば完成だとほくほく見ていると、驚愕の事実に気付く。
こっち北だ。
血の気が引いた。落ち着け、充分慌てる時間だが落ち着くんだ。・・・いや、北向きはないだろう。
ゴロゴロ転がった。
ちらりと虎徹を見る。できあがりつつある社を見て頷いている。・・・言えねぇ。今更向き間違ったなんて言えねぇ。どうする。支柱を抜くか?いや怖すぎる。素人が作った建物の支柱を抜くなんて、崩壊する未来しかない。支柱を挟んで入り口を・・・。だめだ気持ち悪い。それも嫌だ。柱の数もチグハグだし・・・
・・・いや、まてよ。そもそもこっちが北だなんて決めたのは俺だ。しかも、なんとうなく、なんてくだらない決め方をしただけだ。太陽だって出てないし、木の年輪だって偏っちゃあいない。いやいや簡単なことじゃないか。ふぅ。焦ったぜぇ。俺が頭を柔らかくすればいいだけさ。決めた。今この瞬間からこっちの角は北西です。岩の切れ目に向かって、お社は南を向いております。はい。きーめーまーしーたー。
「虎徹。今から大事なことを言う。」
「ナンダ。」
「あっちは南だ。今決めた。」
「ダイジナコトカ?」
「そうだ。」
「ソウカ。」
「そうだ。」
一件落着。
さあ、壁に取りかかろう。細い板を柱や支柱の溝に差し込んでいく。真ん中から上は、通気性を考えて
お社完成。突貫工事約一ヶ月。真新しい木材の色一色だがなかなかに美しい。
どうだろうか。正直、隙間もあれば歪みもある。勿論職人には足元にも及ばないが、素人にしてはやるじゃん!くらいにはできたのではなかろうか。少なくとも今、俺達ができる全力だ。これ以上は絞ってもでない。
「できたな。」
「デキタカ?」
「ああ。完成だ。どうだ?」
「ウム。スゴイナ。ヤハリコハクハ、スゴイ。」
「よせやい。こういう物が作れるって示してくれた、昔の人達が凄いだけさ。さ、次はお供え物のでも集めようか。」
「オソナエモノトハ、ナンダ?」
「そうだな。鹿と猪に兎。ザリガニに芋虫と木の実。岩塩と山椒あたりを集めてみるか。」
「カリニイクカ?」
「ああ、神様に捧げるんだ。」
「カリノホウガ、トクイダ。」
「フッ、頼りにしてるぜ。相棒。」
当日の午後と、翌日を丸々使って狩りを行った。途中、大湖で例の槍士達とニアミスしたが、虎徹は意外にも冷静で、「イマハイイ」と遠目にみながら背を向けた。別に憎んでる訳じゃないんだろうな。何度も挑んだのは聞いたが、戦士として悔しかったんだろうと勝手に納得した。
当日は、稽古終わりにもう一度身を清めて準備完了。お供え物は社の前に並べた。
「じゃあ、はじめよう。教えた通りに。」
虎徹と並んで社に向かう。御神体も何もないが俺の中ではもう立派な社だ。
ニ拝
ニ拍手
一拝
「畏れ多くも天上の方々様に言上
いや、もう何と呼び掛けていいのか解らないから勢いで。
暫し待つ。
もう一度。
「萩月様。涼竹様。何卒お姿をお示し頂きたく伏してお願い奉る。恐み恐み申す。」
来ない。
諦めない。
「お願いの
「はいはーい。今いっくよー!」
ゾワリという感覚と共に、気の抜けそうな軽いお返事。顔は伏せたままだがこの声は涼竹さん。・・・あんたもか。威圧感と差がありすぎて気持ち悪い。何はともあれ来てくれた。
隣で虎徹が後退る。
そうだよね。初めてだもの仕方ない。俺はある程度心構えができてたから堪えれているだけ。お方様がいるともっと凄いぞ。
「コハク・・・ナニカワカラナイガ、フルエル。」
「多分。畏れてるんだ。心配ない。普通のことだ。」
「人のこと呼んどいて畏れてるとかひどくなーい?おこっちゃうぞ?」
「すいません。言葉の綾です。涼竹様。」
顔をゆっくりあげると、怒るどころかニコニコ顔の涼竹様がいた。
「かたいなー、コハクっち。僕のことは
いきなりハードル高ぇよ。
「せめて涼竹さんではいかがでしょうか?」
「だめー。僕が決めたからだめー。言わなきゃお願い聞かなーい。萩っちから聞いたでしょ!僕らは堅苦しいのきらいなの!」
「で、ではすずちゃん。」
「はーい!なにー。」
「なぜ最初は違ったので?」
「それはお方さまもいたし?最初だし?人間て儀式とか形式張ったの好きだし?そういうのが必要なのもわかるけどねー。やらなくて良いときはやらなーい。」
「・・・あ、そすか。じゃあお言葉に甘えて。」
なんか馬鹿らしくなってきた。
「うんうん。いいよいいよ!」
こうなりゃヤケだ。
「それでね。涼ちゃん。お願いあんだけどさ。お方様に会いたいんだけどどうかな?あ、その前に来てくれてありがとう。」
「どういたしまして-。お方さまかー。なんで?ギブしちゃうの?」
「しないしない。むしろやる気満々よ、今の俺。」
「おお!いいねいいね。じゃあなんで?」
「実は、ここにいる虎徹の事で相談があってね。実はゴブリンなんだけど仲間になってさ。ちょっと悩んでるんでお力を貸して頂けないかと思って。」
「えーやるじゃーんコハクっち!モンスター仲間にしたのコハクっち初だよ、初!こてっちゃん。よろー。」
こてっちゃんて・・・虎徹は直立不動で固まってるし。無理もない。話せる相手が俺しかいない虎徹にとってもはや未知との遭遇レベル。覚えておけ虎徹。こういうのは抗うな。流れに身を委ねるしかないんだ。そうやって色んな事を覚えて大人になっていくんだ。
「お方様ねー、忙しいんだよ。ダンジョンて広いしさ。やることいっぱいなのさー。前任者から引き継ぎもないまんま任されちゃってさーひどいよね。モンスターひとつとってもさ、配置でしょ。強さでしょ。特性でしょ。属性でしょ。魔核に武器とか。それが何百種類っているんだよ?大変なのよ!前の人の設定もガバガバ過ぎてお方様も僕らもいっぱいいっぱいなんだよね。あ、これ内緒だから僕から聞いたって言っちゃダメだよ?」
・・・ガバガバなのはお前だ。内部情報駄々漏らししてんじゃねぇ!こいつ涼竹さんの比じゃねぇ。知りすぎて消されるなんてないだろうな。・・・聞かなかったことにしよう。そうしよう。適当に話を逸らそう。
「ふ、ふーん大変だなぁ。魔核に武器もかぁ。・・・そ、そうそう武器と言えば、実は虎徹がリスポーンする時、武器持ってたんだよねぇ。手斧って言うの?俺もさ、なんか武器でもあったら嬉しかったなぁって。俺ってば腰布ひとつじゃん?もしだよ?俺がダメだったら次の人には武器あった方がいいと思うなぁ。なんて。」
「はぁ?何言ってんの?短刀あったでしょ?前の子達も使ってたよ?」
・・・はい?
「ないよ?」
「うっそだー。見つけなかったんでしょ!ドジだなーコハクっち。」
「いやいや。もうかれこれ6回目だけど。一度も見たことないよ?」
「えー。そんなわけないよー。『パン』・・・あれ?『パン』んー?なんでこないんだろ・・・あ、」
柏手を打っても何も出てこない。あ、ってなんだよ。あ、って。
「あー・・・そうだ。前回の子の最後で丁度在庫切れたんだった・・・うん。」
「ぅおい。お前か!お前のせいで俺はいらぬ苦労を買わされたのか?あ゛?」
「・・・・・ゆ、許して。コン♪」
クッ!あざとい!瞬時にしてきつね耳としっぽ出してポージングだと!?あざとすぎる!可愛いすぎる!許せないけど、ゆるしあああ!
「ちょっと僕、お方様に聞いてくるねー。うんうん聞いた方が早いよー!じゃちょっと行ってくるねー。あと内緒にしててね!お願いね!ね!」
「いや、どれのことだよ!」
「全部!」
パン
・・・逃げやがった。
「スゴカッタナ。ヨクワカラナカッタ。」
「ああ。」
「アレガカミサマカ?」
「・・・・・」
何も言えねぇ。
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