Ⅱー9

狩ったカエルはその場で開く。まずは一番大事な魔核を取り出す。水色の淡い光を宿す、ハンドボール大のそれ。体に見合った大きさをしている。倒したばかりなので柔らかい。


魔核について判っていること、判ってきたことは


1、時間が経つと硬化する。

2、モンスター毎の生態や、持つ属性?によって魔核の色が違う。

3、強い個体の物は質が良い。同種、同格のモンスターでも質に差がでる。

4、大きさと質は必ずしも比例しない。


虎徹と組むようになり、サンプル数が一気に増えたので見えてきた。魔核はどの個体の物も、持ち主が死ぬと時間の経過と共に硬化する。


次に、地属性に分類されそうな者は黄色、水属性は水色、火属性は赤というところまで発見している。赤はね、辛いんですよ。それこそ火が出そうな程に。トウガラシだった。もう少し捻ってくれても良かったと思う。


魔石を見れば、その者の属性がわかるとも言える。そこで気になるのが自分だ。見たことがある虎徹に聞いてみた。見たことがない色らしい。味は好きではないとのこと。なんか悔しい。次があったら取っておいてくれと頼んだ。


質というのは、まず輝きが違う。食べれば熱さが違う。戦闘能力の高さ、生命力の強さに比例して上がって行く。同種内での違いは、微々たる物だがやはり在る。現時点で顕著に差があるのは虎徹くらいだが、今後、種族毎の強個体を発見し倒せたら、確信が持てるだろう。


同じ水属性の青ザリとカエルを比べると、大きさはカエルが勝るが、質は青ザリの方が上だ。量か質かの話だが、これは結論が出ないので一旦棚上げだ。




魔石の取り分は、戦闘単位で二人で戦えば二等分、一人でやれば一人でと取り決めした。今回は半分ずつ食べる。これだけの大きさがまるっとバジル味というのも苦行に近い。だが残さず食べる。熱を感じる内は、調味料にはあまり回さないようにしている。それと最近、熱さが体に残るようになってきた。次の進化も近いかもしれない。


残ったカエルは、内臓と頭を落として持ち帰る。でかいので二人がかりで運ぶ。石を敷き詰め、石畳の様に広げた解体場を新設した。皮を剥ぎ、肉を切り分ける。


皮のおかげであるものを作ることができた。氷室だ。とは言っても地面に穴を掘って、石で補強し形を整えただけの簡易な物。カエルの皮は防水性が極めて高い上に、伸縮性にも優れている。この皮を木の枝を使って成形し、その中に水を張り、鬼火で氷のブロックにする。これを何個も作って敷き詰め、枝の戸板と枯れ葉で蓋をすればかなり温度が下がる。食材の保管が楽になった。




探索についてはかなりの進展があった。探索はその時によって、日帰りしたり、野営してみたり様々だ。帰るときは目印代わりに石のナイフを突き刺して帰る。次回スタートはそこからだ。


とにかく土地勘のある虎徹がいてくれるのがかなり大きい。まず。西の端を見つけた。東端から西端まではおよそ30km、誤差±5kmぐらいではと考えている。正直自信は無い。丘を越え、木々を抜け、川を越え、草原を越えた先に壁はあった。途中、モンスターやら冒険者やらをやり過ごしながら進んだので、時間の感覚も曖昧だ。ざっくり夜明けから日の入りまで12時間とした上で、子供並みの歩幅、鬼の健脚、やりすごした潜伏時間、渡河の時間、休憩時間諸々を加味した上での概算だ。


ちなみに川辺では、鎧の様な皮を着込んだ体調2m程のトカゲを。草原では、すっごいサラッサラ直毛の、たぶん羊と、炎を吐くつの付きの馬を発見した。馬が赤い魔石を持っていた。群でいたため倒すのは大変苦労したが。羊はよく冒険者に狩られているのを見かける。襲われると全身の毛を逆立たせて硬化させ、ウニの様な見た目になって身を守る。こちらの方がよほどイガ栗だ。




壁伝いにそこから北上。俺の拠点から見てはるか北西にあった、色味の違う山を真北に見て進む。平原が半日ほどの距離まで広がり、この先は森林。見通しが効かない。そしてこの辺りからゴブリンや狼との遭遇が増える。


緩やかに登っていく。数時間進むと遠目に見えていた山にだいぶ近づいた。木の種類も増え、足下にも様々な草が生い茂る。この辺りで背の高い木に登り、山の全景を確認する。休日登山に丁度良さそうな山。そんな印象。所々禿げ上がり、黄色みのある山肌が見える。頂上付近は意外と木が多く、平らになっているようだ。皿に開けたカッププリンのよう。方角的に見て、草原に流れ込んでいる川は、あの山から湧き出ているようだ。




「ヤマ、オレ、オキル。シヌ、アト。」


山を指しながらの虎徹の談。あの山にある洞窟の中に、虎徹のリスポーン地点があるらしい。他にもゴブリン沢山との事。更に頂上付近を指さし、


「ウエ、ツヨイモンスター、オオキイツヨイ、イル、スグシヌ、オレ。」


「上に凄く強いモンスターがいる?虎徹もすぐに殺される?ってことか?」


「スゴクツヨイ。スグコロサレル。」


自分の言葉使いを、俺の言い直しで学んで訂正し、肯定した。


「どんなの?」


虎徹は少し考えた後、ジェスチャーで伝えてくれる。


「んー、体が大きくて、うん。4つ足で歩いて。はい。バッサバッサ?え?飛ぶの?」


「カラダガオオキクテ、ヨツアシデアルイテ、バッサバッサトブ。」


繰り返して頷く。


「いやー、まじかー。鳥を見ないから、ここには空飛ぶモンスターはいないかと思ってた。しかも虎徹が瞬殺とか相当だな。これで特上クラスが2体目だ。」


暫定的にモンスターを自分の中で格付けしている。もう一体の特上は、大湖で見た放電猪である。




すぐに飛んでくるとは思わなかったが、怖かったので直ぐに木から下りた。


やや東に進路を取る。川があの山から流れているのなら、川を辿ってみようと思ったのだ。数刻歩くと、渓流と呼ぶにふさわしい、苔むした岩場に挟まれた川の流れを発見。こういう雰囲気は好きだ。ただし、モンスターがいなければ。


やはり、水場は生態系の動きが活発だ。小さな虫も飛び交い、川の中には魚の姿が煌めく。沢蟹のような小さな蟹も見つけた。いいなぁ釣りしたいなぁ。モンスターがいなければ。


水を求めて集まるのだろう。この辺りに生息しているであろうモンスターを数種発見。ゴブリン、狼、猪、鹿、あと、水中にサンショウウオ。呼び名は似ているから仮称しただけで、俺が知っている前世の物とは微妙に違う。総じて攻撃力は高そうだ。ちなみに猪は特上のヤツではなく、体高1メートル程の小さな個体。いや充分デカいんだがね。


川に沿って北上していくと嬉しい発見があった。小さな赤い実をつけている、ある木を見つけ近寄る。なんか見たことあるなとマジマジ見ていると、


「カライ、ウマクナイ」


と相棒から助言。ものは試しと噛んでみると、確かに痺れる辛さ。だがこれはあれだ。山椒だ。やっほーい。ジャパニーズペッパーきたーっ!と喜んで摘む。そんな俺を訝しんでいた虎徹に、これがあると飯が美味くなるぞ、と言うといそいそ手伝ってくれた。


前々から胡椒が欲しいとは思っていたが、階層の雰囲気というか気候的に無さそうだなぁ、と諦めていた。異世界ならではの突飛な展開で、何故かそこにコショウの蔓が巻き付いている!なんてのも期待したんだがね。環境についてはとんでも展開は少ない。あるとすれば、魔核が胡椒風味か、別な階層と考えていた。風味は違うが胡椒代わりにはなるだろう。




山の麓までやってきた。このあたりから勾配がつき始める。洞窟の出入口を聞くと、複数ある内の一つを教えてくれた。大きな横穴がぽっかり口を開けており、丁度、冒険者がその中へ入って行った。何か有用なものがあるのだろうか。ピッケルやつるはしを背負った運び手も一緒だ。採掘ポイントがあるらしい。


また壁際に向かって西へ。山をぐるりと迂回するように北進。山の裏側にも小さめの穴がいくつか見える。あれも出入り口かと聞くと、そうだと言う物と、違うと言う物がある。何かあるのかなと、しばらく眺めていると、そうだと言った穴の一つからデカい蟻が顔を出した。遠目だが体高で7、80cm。口に自分と同じくらいのゴブリンを咥えて引き摺りながら出てきた。そのまま違うといった穴の中に消えていく。改めて自分のねぐらの恵みを実感した。


山の裏手にまわり、北に歩くこと数分。ついに北の壁に到達してしまった。風景は先も山林が続いているが見えない壁がある。北の壁を伝い、西へ行くとかども見つけた。


出した結論は、一辺およそ30km前後の正方形。広さにして900平方キロメートル。もしくは切りよく1,000平方キロメートル。それが俺がいる箱庭の広さ。どうだろうかと考える。生きる世界と考えるとやたら狭い。だが住む場所と考えるとなかなかに広い。東京都で確か2,200平方kmくらいだったかな。約半分。俺の住んでいた地方都市が約800平方kmですっぽり入る。


前世の環境にあてはめる。移動手段は徒歩だけ。最寄りのコンビニまで徒歩5分の400m、最寄りの駅まで徒歩15分の1.2km。会社まで電車に乗って15km。これだけの自然環境がありつつ、モンスターもいて、さらに冒険者が入ってきても余りある空間。うん。1,000平方kmというのもあながち間違っていないと思う。たまたま端っこにいたから狭く感じたが、よくよく考えるとかなり広い。


なるほどね。と一人勝手に納得した。更に、他の階層もあるとなれば、ダンジョンという物の認識をもっと改めねばなるまい。どうやら生前のRPGやシミュレーションゲームのイメージで、狭いという固定観念がこびりついていたらしい。


ダンジョンという言葉に、どこかゲームの常識を当て嵌めようとしていた自分がいた。確かにリスポーンはするし、見えない壁はあるし、太陽も月もない。だが、水が無ければ植物は育たない。食物連鎖もある。モンスター同士も争う。固定ポイントがあるわけでなし、強者も自由に徘徊する。冒険者は得るものがなければ探索もしない。


このダンジョンは生きた世界だ。

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