Ⅱー2

ああ、お茶が美味い。2人並んで茶をすする。


「皆様は日本から来られたんですよね?」


「そうだね。生まれも育ちも日本の山野。」


「お三方とも?」


「うん。」


「いずこかで祀られていた神様なのでしょうか?」


「うーん。お茶がおいしいねぇ。」


これ以上は駄目らしい。


「私って、所謂ダンジョンのモンスターなんですね?」


「そうだね。」


「私に何をさせたいのですか?」


「今はただ、強くなって欲しい。」


「強く?」


「そう。ひたすらに強く。強くなるための道筋は用意してある。そして琥珀が我らと共に歩めるほど強くなったとき、お方さまは全ての問いに答えられるだろう。」


「それって私は得るものはあるんですかね?」


「やりようによっては富と権力。地位と名声くらいはいけるんじゃない?」


あらやだ、凄い。


「強くなった私が裏切る可能性は考えないのですか?」


「そうだね。だからこそ今は話せない。我々の目的は特にね。それに、強くなると簡単に言っているけど、決して楽な道ではない。正直に言ってしまえば、この先、君が終わりを望んだって驚かない。ちなみに、道を違えるくらいなら、お方様はお許しになるかもしれないけど、立ちはだかるようなら消す。」


あらやだ、怖い。


「まぁ、無理強いはできないからね。したところで意味はないんだ。我々には。だから、琥珀が我々と共に歩めることを願っているよ。」


「お方様のお名前は教えて頂けますか?」


「禁則事項です。」


「・・・元ネタ知ってますね?」


「禁則事項です♪」


茶目っ気たっぷりにウィンクされた。


「ははは。冗談はそれとして、お方様はお優しい方だよ。もしかしたら君は、自分をこんな境遇においやった悪魔のように思っているかも知れないが、望んでいないものは連れてきていない。君を含めて。この地の環境だって、最低限のものは用意してくださっている。もっとも人間と狐の価値観の相違はあるのかもしれないけどね。」


なるほど、それか。確かに野生の狐の視点で見れば、案外イージーモードかも。ねぐらはあって、水はあって、獲物はいて、あるいは枯れ木を削ったり、地面掘ったら虫くらいいるかもしれん。気配の察知も自然とやるだろうし。


「なぜ餓鬼とされたのでしょうか。」


「決めたのはお方様。大きな理由は先に述べた通り、魂の器として人と大差ないこと。姿形が前世と極めて近いこと。また、それでいて人外であること。最後に、苦難に立ち向かう精神力を有しているかの見極め。」


「人外である理由は何ですか?」


萩月さんは、笑みを目に浮かべたまま口をつぐんだ。


意外だ。これもだめとは。案外下らない理由だと思っていたのに。鬼って強いじゃんとか軽く言われるかと予想してた。


「では、先程さらりとおっしゃってました、お方様が環境を用意したとのこと。管理か何かされてらっしゃるので?」


「グッ・・・き、禁則事項でっす♡」


このひと意外と抜けてるのね。




そのあと、気を取り直した萩月さんから進化について大まかな説明を受けた。正直、情報が歯抜けで全て納得できたわけではない。だが充分飲み込める範疇だろう。


あの砂肝ニンニク(仮)は、魔核または、魔石であるとのこと。他のモンスターから奪い、食い続ければいずれ進化に至ると。


食って力を溜めて進化して魂を研鑽しつつ、また食って力を溜めるの繰り返し。魂の研鑽が抽象的過ぎてしっくりこないが、平たくいうと艱難辛苦を幾度も越えろとの事らしい。


気になっていたリスポーンについて聞いた。


「復元された私は私なのでしょうか?」


「ああ、もっともな疑問だね。ダンジョンを一つの世界だと考えてくれ。完結した一つの世界。その中で魂は輪廻する。自分の身体と寸分違わぬものに転生している。」


との事。


小鬼という存在について聞いた。


「恐らく薄々気付いているかも知れないけど、餓鬼だった頃に比べて格段に能力は上がっているよ。見た目は可愛くなったけどね。」


チラリと角の辺りを見てる。まぁだいぶ縮んだからな。そういう表現も当てはまるかもしれない。


「身体能力の上昇については自分で確かめるしかないね。しっかりと把握しなさい。でだ、僕が残った理由の大部分になるんだけどね。それを君に教えようと思う。君は小鬼になったことであるを得た。その使い方だ。」






他にも細々したことを聞いていたが、少し会話が切れたところで萩月さんは、すくりと立ち上がった。


ここまでか。聞きたいことはいくらでも湧いてくるが、俺が甘えを持つのも、きっと意図に反するだろう。


「最後に一つだけお願いします。」


「どうぞ。」


「お方様が飲ませてくれたお酒はなんですか?あれを飲んで私は力を得たのですよね?」


「あぁ、あれね・・・。あれは本来、・・・過ぎたものなんだよね。確かに君はあれで力を得たよ。」


「私は幸運を得たということですか?」


「んー、・・・んんんッ、まいっか!包み隠さず言えば、お方様が直々に会いに来ること自体、異例なんだよね。さらには、お方様は間もなくなどと仰られたが、君の進化はもう暫くかかる見込みでいた。さらには名前まで。異例づくしで驚いたよ。」


「そ、それは恐縮です。」


「単純に驚いてるだけださ。お方様と何かあった?フフッ。なんてね。まぁ、余程見込まれてるみたいだし、僕も期待させてもらうよ。」


「お腹いたくなるんでやめてください。」


「ふふっ。ところでさ、実は僕からもひとつお願いがあるんだけど、いいかな?」


何やらいたずらっこの笑み。


「ええ。私にできることでしたら。」


「では。」


そういうと萩月さんは、俺の前に立ち、その手を俺の頭の上に置いた。


え?撫でられるの?さすがに抵抗あるんだけど。ん?あれ。感触がおかしい。


「ふははははは!面白い感触!ぞわぞわするぅ。わははははは。」


大爆笑しながら俺の頭を撫で回した。


遠い記憶が甦る。あれは随分と小さかった頃、連れられた床屋で目を覚ますと坊主頭になっていた。猛抗議も覆水盆に帰らず。その後、まだ関係の良好だった家族や親戚。友達や、近所のおっちゃんおばちゃんやらによく爆笑しながらぐりぐりやられたものだ。


別に触られたくないという訳ではないが、身長差もあって、可愛がられてるような、馬鹿にされてるような、何とも言えないなすがままというのが、ね。


何か軽いなぁとは思ったんだよ。しかもこれあれだね、おしゃれ坊主カット的なものじゃないね。五分刈り完全体だね。感触均等だもの。


そもそもラノベ展開ならば、俺がもふもふする側ではなかろうか。まぁ恐れ多くて頼めないが。そうか。これがもふもふされる側の気持ちか。機会があったら容量用法を守っておモフりください。


「ふぅう。堪能した。癖になっちゃうね、この感触。つい夢中になってしまった。これなんていうの?」


「髪型のことですか?五分刈りとか坊主頭とかいが栗頭とか・・・」


「いがぐり・・・いが栗!たしかに。ふはははははッ!たしかに栗だ!若いやつ!ちょっと柔いやつ!あはははははッ!いたああああ!お腹いった!あはははははやめてぇぇぇ…」


ツボに入ったらしい。もう好きにしてくれ。


落ち着くまで数分を要した。




「ではそろそろ行くよ。次に差し入れをするときは、栗ご飯を持ってきてあげよう。」


くっ、ニヤニヤしおって。いや、まぁ有り難いのだけどね。


「ちなみに、今まで小鬼になった方はいました?」


「うん。いたよ?」


「その方はやはり、いが栗で?」


「ぶひゅ!やめて、それ言わないで。違ったと思うなぁ。初めてみたもの。」


解せぬ。少年時代でも反映されるのか。


俺がやや微妙な顔をしていると、慰めがてらか教えてくれた。


「僕が作ってきた差し入れなんだけどね。全てダンジョン内にある食材を使ったものだよ。入手が難しい物もあるけれど、いずれ君でも再現可能になるかもしれない。お方様が進められている環境作りは多岐に渡る。これもその一つ。全ては君の頑張り次第さ。」


おお。それは夢がある。


「ではね。琥珀。しばしの別れだ。また会おう。」


そう言い残し、柏手を打って忽然と姿を消した。


「そんな急に・・・、ありがとうございましたぁ!」


礼を言う間もなく消えてしまったので、大声で叫んでみる。


あ、重箱とお茶のみセット忘れてる。やはりそういうキャラなんだろうか。ありがたく使わせてもらおう。しっかしそんなにさわり心地いいかなぁ。


後頭部を撫で上げる。ぶるりと来た。いや、そんないいもんでもないっしょ。


シャリシャリ、ぶるり

シャリシャリ、ぶるり

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