Ⅰー4

「嘘だと言ってよ、バーニィ・・・」


ケン○ファーこそ至高。異論は認める。

違うそうじゃない。


その内、巨人の顔が空から覗き込むなんてことはあるまいな。そんなサイズは流石に駆逐できないだろ。


限られた空間の中に、擬似的な自然環境を作って実験?あれ?俺はモルモットか?だとしたら嫌過ぎる。ただ、生き返るんだよな。神々の遊び?


箱庭。擬似空間。遊び。人為らざる者。甦り・・・。




!?




「ま・・・まだ慌てる時間じゃない。」


言葉とは裏腹に、四肢から力が抜けて行く。思い至った結論に揺さぶられる。これは何だ。人生の努力をことごとく空振ってきた俺への追い打ちか?はたまた心折れて無為に垂れ流してきた事への罰か。


始まりから、ギリギリのところで押し留めていた弱さが溢れ出そうとする。緩む。ほどける。恐怖、不安、悲哀、後悔、憐憫。止まらない止められない。


自らの意を介さず涙が溢れ出る。全身の毛穴から何かが噴き出し、凍えたように震えだす。


「ぅあ・・あぁ・・・えぁ?」


勝手に音が漏れ出す口に手をやれば、締まり無く開いたそこから、たらりと涎が垂れていた。


瞬間ぐるりと振り返り、両の手を壁に付き、額を力の限り叩きつけ有らん限り叫ぶ。


「壊れるなッ!壊れるなッ!壊れるなあッ!!」


1回、2回、3回と叩きつける。恐怖を消す。不安を消す。悲哀、後悔、憐憫その他諸々消す。痛みで上書きする。


「痛い、痛い、痛いッ!まだ大丈夫!目を開けろ!」


まだ弱い。怒れ。怒りも追加だ。

この状況を仕組んだやつがいるんだろ?いるよな。いろよ!この際絶対いてくれ!こんな感情味わわせてくれやがって。ただじゃおかねぇ!


「けつの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガッッッタガタさせてやるっ!!うがあああああ!」


ぜえ、はあ、と肩で息をする。すう、はあ、と深呼吸を繰り返し、ゆっくりゆっくり落ち着きを取り戻す。もう一度締め直す。緩んだたがをきつく締める。蓋をして押し込める。大丈夫。まだ何も始まっちゃあいない。最後に大きく息を吐く。


「ふうぅぅぅ。・・・食べるもの探しにいこ。」


切り替えの早さには定評があります。

溜め込む悪癖があります。

納得できないと飲み込みません。




水が飲みたい。

そりゃそうだ。起きてから葉っぱしか腹に入れてない。視野が狭くなる癖も治さないとなぁ、と幾度目かも分からぬ反省。足取り重くとぼとぼ下山。


下を向きながら歩いていると、途中で目を惹く物体が。水晶の様にも見えるがやや濁り、淡くほんのり桃色掛かっている。

おや、おやおやおや。これはもしやと、ぺろりと一舐め。


「しぃいいいいぅおおおおおおおッ!しょっぱい!岩塩!しょっぱい!ミネラルッ!ふぉおおおおおうッ!」


語彙が消え去った。久しぶりのまともな味覚に歓喜する。ぺろぺろ舐めた。結果


めっちゃ水飲みたい。阿呆。


探せばもっとあるかもしれない。だが、探索は後に回すことに。石のナイフで叩き割り、塊を大事に抱えて下山する。恐らく、岩塩ができる工程をまともに踏んでなんかないんだ。




ただのなんだろう。




なんにしろ塩は有り難い。想定した状況は最悪だが、最低限の環境はあるのかもしれない。いいだろう。やれるだけやってやるさ。


寝床に戻り、思いがけず得た戦利品を大事にしまい込む。次の目標は当然、水と食料。勇んで歩き出す。待ってろプレーリー。効率を考えれば、プレーリーからの水。だが渇きが異常だ。完全に塩のせいだよ、阿呆。


以前襲われた辺り。背の高い草が生えた一帯を大きく迂回する。迂回する際も周囲の警戒は怠らない。森との境まで辿り着く。次に警戒すべきは緑のやつ。俺の記念すべき初めての死を奪っていったあいつ。そろりそろりと忍び進む。水辺が視界に入り始め気が逸るが、目を凝らし、耳をそばだて一歩一歩と慎重に。


「・・・いないな?」


いいか?フラグじゃないぞ?

ようやく水辺に着き、今度は両手で静かに水をすくう。


「うますぎる・・・。」


塩でやられていた喉が洗い流され、癒やされる。飢えと渇きに悲鳴をあげていた胃に、命の水が落ちるのが分かる。身体に染み渡っていく。二度、三度と繰り返し堪能する。


ひと心地ついたところで立ち上がり、森の外へと振り返る。飢えは勿論、渇きも相変わらずだが、きっと無くならないから今は充分。塩気が流された分だいぶ増し。


よし!弔い合戦じゃい!俺の!


背高の草の丘に着き、草の間からのぞき込むが様子は伺いしれない。槍を突き入れては探り、草を踏み倒す。繰り返すこと数メートル。大きさにしておよそ50㎝。横穴がぽっかり口を開けていた。


一番最初にすっころんだのはこれの所為だろう。そしてこれは恐らくやつの巣穴。近場に他の巣穴がないか少し探索を広げる。すでに危険が伴っていることは承知している。だがやつらの生態など悠長に調べてはいられない。虎穴に入らずんば、だ。


意を決して、槍を逆手に持ち、柄の先を穴に入れていく。足りてくれよぉと願いつつ中をまさぐる。槍が全て収まってしまう、と焦りを感じた時に何か柔らかい者が当った感触。直後ガツンと槍の自由が拘束された。


噛んだ!


槍を引く。腰を落として引く。かなりの手応え。拮抗するも、徐々にこちらの引きが勝り始める。堅い物を選んで柄にしたが、噛み砕かれないかと冷や冷やする。ようやく頭が見えてきた。がっちり噛みついている。


「会いたかったぜぇ。プレーリー。」


渾身の力で最後のひと引き。やつの身体が完全に穴から出たところで、槍を足で踏みつけ、地面に備えておいたナイフ(鈍器)を瞬時に手に取り、全力で頭に叩きつける。


ギィュッ


断末魔の叫び。


油断せずもう一発。何かを砕いた感触。プレーリーは、びくんと身体を反らせた後、くたぁと伸び、槍から口を離した。間髪入れず足を掴み、引き摺りながら巣穴エリアから離脱した。充分に距離を取りへたり込む。はぁはぁと、興奮冷めやらぬまま獲物を見る。頭が潰れて変形していた。裂けた部分は中身を露出させ流血している。さすがに生きてはいないだろう。


「・・・どうだ。この野郎。」


俺に食いついた固体かは、まったくわからない。だが、溜飲がわずかでも下がったのは否めない。ふと、こんな大きさの生き物を殺したのは初めてだと気づいた。思わずぶるりと身を震わせる。弱肉強食だ。喰うか喰われるかだ。躊躇ったらいかんのだ。決意新たに立ち上がる。槍を回収し、獲物を引き摺り水場を目差す。


警戒を厳にしつつ、湖のほとりに到着。森は未だに静謐を保っている。


生まれて初めての解体に挑戦。こういうのは勢いだ。獲物を転がし仰向けに寝かす。ナイフを胸に突き立て押し込む。胸骨が阻むが構わず体重を乗せる。ボグッという鈍い感触が伝わりナイフが進む。ここを起点に胸を叩き斬る。血が溢れ出すが気にせず進める。無心、無心。続いて腹の方に刃?を向け、押し裂く。よし、ひらけた。


「お、おおう。」


見慣れぬ光景にさすがにたじろいだ。ふぅ、と息を吐き出し水際に移動させる。水の中で腹の中に溜まった血を洗い流す。ある程度血が流せたところでまじまじと中身を確認する。


地球の生物と大差ない気がする、多分。肝臓らしきものを発見し、爪で切り離す。切り離した途端に一気に食べ物染みた。涎がじわりじわりと湧き出てくる。辛抱たまらん。水で洗ってかぶりついた。


ものっ凄い血生臭い。血生臭いけど、これは食える。食感は昔食べた生レバーだ。久方ぶりの食べ物らしい食べ物。味はそっちのけで食べきってしまった。圧倒的に足りない。早く解体を終わらせてしまおう。


続け様に内臓を取り出していったが、一つ異彩を放っている物を発見し掴みあげた。

なんだろうか。直径5㎝ほどの黒い塊。見た目は干したプルーン。触感は少し硬くなった干し柿。病巣かなにかか?ただ、どう見ても中心が淡く黄色に光っている。ええい、ままよ!と口に放り込み噛みしめた。


ざりっとした食感。・・・これは砂肝?からの、瞬時に広がる独特の辛み。そして鼻に抜ける風味。ニンニク味ですね、これ。んな訳あるかい!と脳内で否定しつつ、ごくりと飲み込むと胃の中がカーッと熱くなりそれが体中に伝播していった。


純度の高い酒を飲んだ時とも違う。体に熱の波紋が広がり、隅々まで痺れた後、弛緩する。ある種の快感。これはやばい。


「くっ、癖になっちゃう・・・」(ぽっ













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