第22話 バージニアの王女編 22
白金騎士エミリアとカナンの女性の戦いは、最終局面へと向かっていた。
エミリアから『魔装』に関して問われ、カナンの女性は驚きと困惑の感情を見せる。彼女は魔装についての知識が無かったからだ。
そして、この場においてもう一人、魔装に関して何も知らない者がいた。
「なぁ、眼帯のオッサン。魔装って知ってる?」
聞いたことの無い単語に、ウェインはゲオルグに助けを求めた。
「簡単に言えば、優れた武器防具の事だ。但し、その存在自体が怪しまれる程の希少性を持つ。かくいう俺も魔装をこの目で見た事はない」
「オッサンで見た事ないのかよ?」
「ああ。何しろ神話や伝説の一端を担うような代物だ。武器防具というカテゴリーの中では頂点に立つ。だが、その発祥は定かではない。何時から存在したのかも、誰が作ったのかもわからない。噂によれば、それを手にした者は世界を手中に収めることも可能とまで言われる」
「――――随分とまぁ、大層な
背後からの声に二人が振り向く。そこには、寝そべっていた筈のエルーニャが、何時の間にか身体を起こして立っていた。
「あれ? 師匠、起きたのか?」
「何やら面白い話が耳に入ってきたからな。確かに、
「その言い方からして、アンタは見た事があるのか?」
ゲオルグの問いかけに、エルーニャは得意げな表情を見せた。
「無論だ。幾つか現物をこの手で触れたこともある。だが、お前達の想像しているような立派なものではない。魔装を手に入れたとしても、扱えると思っているなら大間違いだぞ? むしろ、私達は扱われる側だ」
「どういう意味だ?」
「それだけ特殊だという事だ。魔装は造った者が同一ではない上に、その目的も様々だ。崇高な目的の為に造られたものから、低俗で悪意しかないものまで。共通することは、それらは全て自らの意志を持つ」
「自らの意志を持つ……アンタの言い方だと、まるで生きているみたいだな」
「その捉え方は間違いではない。あれらは武器防具の形をしていながらも、独立した思考を持っている。聞いた話では、担い手にふさわしくないと判断した魔装が、その者の命を吸い上げて殺した事もあると聞く」
「眼帯のオッサンの話だと、良いイメージあったけど、師匠の話聞いてると呪いの武器防具って感じだな」
「面白い話だろ?」
「全然面白くないんだけど……」
ウェインは何気なく自分の腰に帯刀している剣に視線を移す。
それは店でエルーニャから貰い受けた剣。毎回安物の武器防具しか買わないケチなエルーニャにしては上質な剣であった事に一抹の不安を感じていた。
ひょっとしたら、と一瞬頭をよぎるが、その考えは直ぐに消した。何故なら、あのエルーニャがそんな希少な物を手放すとは考えられないし、彼女の性格ならば質屋にでも売りさばいて金にしているだろう、とウェインは考えた。
「とりあえず、色んな意味でとんでもない武器防具という事は分かったけどさ、何で急にレーゼさんはそんな事を言いだしたんだろ?」
「言ったからにはあの女騎士に何らかの思惑があるのだろう。まぁ、手並みを見ているとしようか」
エルーニャの読みは当たっていた。
エミリアは何の意味もなく魔装の話を持ち出したわけではない。だが、そんな事とはカナンの女性は露知らず。
「魔装だと? そんな事が今関係あるのか?」
「そう思うわよね? でも、これが実は大有りなのよねぇ……」
袖口の傷をエミリアは指でなぞると、血で濡れて赤く染まる。
赤く染まった指を前方に伸ばす。指を伝って血が指先に集中し、やがて小さな滴となって指先から離れ落下する。
落ちた滴は地面に衝突し、飛沫を上げて赤い染みを残す。
二度、三度、断続的にエミリアの指先から滴がポタポタと垂れ落ちる。
「何をしている?」
「見て分からない? 餌を撒いてるのよ」
「餌だと?」
「そう。血の臭いにつられて、番犬がやってくるのよ。優秀な飼い犬は、僅かな臭いにも反応し、それを辿ってくる」
「……何を言っている? 気でも触れたか」
「直に分かるわ」
無言でエミリアはその行為を続ける。周囲の者たちも黙ってそれを注視していたが、カナンの女性はこれ以上の話は無意味と判断する。
「休戦は終わりだ。次の一撃で決着をつける」
「……来たわよ」
「――――何?」
地面に残る血痕。それが、あろうことか生き物のように動き始めた。
血痕は地面を走り、巨大な円を描き、その中に未知の言語と幾何学模様、そして六芒星を記した。
陣が完成すると、赤い閃光と共に、風が吹き荒れる。目の前で起こる怪奇現象に全員が釘付けになる。
「な、なんだ? 一体何をした!」
身を縮ませ、目を開けるのもやっという吹き荒れる風に耐えながら、カナンの女性はエミリアに答えを求める。
「……ねぇ、貴女は白金騎士になる条件って何だと思う?」
「この期に及んで何を!」
「答えて。そうすれば、貴女の質問に答えてあげるわ」
「……武勇と知識に優れた者ではないのか」
「普通はそう考えるわよね。でも、白金騎士になる条件はたったひとつ。唯一無二にして、絶対の条件。それをクリアすれば誰でもなれるのよ」
「それは何だ?」
「認められること。『魔装である白金騎士の鎧に認められる事』が絶対の条件よ」
「鎧が人を選ぶ? そんな話聞いた事がない!」
「魔装って言うのは意志を持ち、自我を持つ。鎧に選ばれた者は王国にとって必要不可欠な人材……らしいわよ。正直、アシュフォードがいる時点で眉唾物だけど」
「それに貴女が選ばれたというのか!」
「そうなるわね。そして、これがその証拠」
完成された魔法陣から何かが這いあがってくる。その全貌が明らかになったとき、皆が言葉を失った。
それは白い鎧。荘厳たる金色の意匠をあしらえた、その威厳ある姿は紛うことなき白金騎士の鎧であった。
現れた鎧は一度その姿を分解し、パーツごとに分かれる。そして、それらは自然とエミリアの肩、腕、足、胸に装着されて再び鎧の姿を取り戻す。
鎧を着ただけだというのに、エミリアの姿は歴戦の戦士のように勇ましく、そして凛々しい姿へと変貌を遂げた。
「本心を言わせてもらえば、これを着けたく無かったのよね。貴女とは正々堂々と実力だけで勝負したかった。ただ、予想以上に貴女が手強い事と、ロゼ王女の命がかかっている以上……負けは許されないのよ」
「まるで、もう勝ったような言い草だな、白金騎士」
「事実よ。これを着た以上、私の勝ちは揺るぎないわ」
「そうか……ならば、私も全力で行かせてもらおう!」
カナンの女性は持っていた短剣を前にかざすと、聞きなれぬ言語を紡ぎ始める。
彼女の短剣の根元に埋め込まれた宝石が、一際強く輝きを放つと同時に、足元から淡い緑色の風が噴きあがった。すると、女性の全身を風と同色の光が包み込む。
この大陸に存在する数多く有る装備の中には、道具として使用すると魔法と同等の効果を発揮する装備が存在した。
彼女の持つ短剣もその中にある一つ。
使用することによって、
素早い動きで相手を倒す彼女には合致していた。
「では、行くぞ!」
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