第6話 バージニアの王女編 6
「怪しい三人組ですか?」
首をかしげながら、内容を確認するアイナ。
「ああ。薄汚いローブで全身を覆った三人組を俺は捜している」
「私は見てませんね……ウェイン君達は?」
「いや、俺も見てないですね。師匠は?」
「お前と同じだ。そもそも、このバージニアにそんな奴らはごまんといる。もう少し特徴がなければ雲をつかむような話だ」
肉を喰らいながらエルーニャが言う。
「確かに、エルーニャさんの言う通りですね。ゲオルグ様、もう少し詳しい特徴を教えてもらえませんか?」
「いや、見てないのなら構わん。食事の邪魔をして悪かった、今の話は忘れてくれ」
それ以降、その話についてゲオルグが口を開くことは無かった。
やがて店の奥から店主が、片手に注文通りエルーニャ達と同じ肉料理と、もう片方にはエール酒が注がれた酒杯をゲオルグに届ける。ゲオルグはその料理を手づかみで豪快に貪り食う。
時を同じくして、ウェイン達三人の食事が終わり、皿には綺麗に平らげた骨だけが残されている。
「さて、腹も膨れた事だ、店を出るとしよう」
真っ先に立ち上がったのはエルーニャ。それに続いて二人も立ち上がる。
「おや? もう帰るのか?」
店の奥から店主が出てくる。何処か名残惜しそうに言うのは、ウェイン達が久しぶりの客であった為である。
「ああ。料理の方は気に入った。いずれまた利用させてもらおう」
「嬉しいね! また、頼むぜ!」
エルーニャは店主に料理の代金を支払うと、一度ゲオルグの居る席を見る。だが、エルーニャはゲオルグに話しかける事は無く、店から出ていく。
店外へ出たエルーニャ、ウェイン、アイナの三名。
ウェインは腹が膨れて眠気が襲ってきたのか、大欠伸をする。そんな眠気を飛ばすため、両腕を思いっきり上に突き上げ、身体を伸ばす。
「あー、美味かった! 昼食も終えたし、次は何処に行く師匠?」
ウェインがエルーニャの方を見ると、そこには黙り込んで店の方を見るエルーニャと、その場に立ち止まり深く考え込む様子のアイナがいた。
「おかしいですね」
ポツリとアイナが呟いた。
「アイナも気づいたか」
「エルーニャさんもですか? やっぱりあれはおかしいですよね?」
「ああ。何か隠しているのは間違いなさそうだな」
アイナとエルーニャの二人が盛り上がる中、話についていけず、完全に蚊帳の外に放り出されたウェインは焦る。
「おーい、二人とも一体何の話?」
「ウェイン君は何も感じなかったのですか?」
「感じるって、何を?」
「ゲオルグ様の人捜しの事です。あれ、変ですよね」
「え? 何かおかしかった?」
ウェインの鈍い反応に、アイナとエルーニャはガッカリしたように溜息をつく。
「捜している相手の特徴があまりにも曖昧なんです」
「うーん、言われてみれば確かに」
「あくまで私の憶測ではありますが、捜している相手をゲオルグ様はよく知らないのではないでしょうか?」
「それは……どういう事?」
「鈍いな。つまりだ、あの七星の男は誰かに頼まれて捜索しているのではないか、という話だ。だろ? アイナ」
「はい、その通りです」
「けど、あの眼帯の人が誰を捜索しようと勝手じゃない?」
「問題は、何故ゲオルグ様程のお方が人捜しなどをされているか、という点です。これが本当に誰かに頼まれたものであるとするなら、余程の事ではないでしょうか?」
「一つ考えたが、ギルドの依頼で捜索をしているという事はあり得ないか? それならばあの七星の男が動いているのも納得がいく」
「それは考えにくいです。そもそも、人捜しなどの依頼はランクの低い冒険者でもできる内容なので、ゲオルグ様ではなく、他の冒険者がやる事になるでしょう。それに、バージニアにおける依頼の管理を私はしていますが、人捜しなどの依頼は最近見た事がありません」
「ふむ、だとすれば……考えられる点は二つだな。一つは、あの七星の男に親密な関係を持つ依頼人が、直接あの男に依頼した」
「ですがエルーニャさん、それならばギルドに依頼をすればいい話。人の手も増えますし、遥かに効率も良いはずです」
「まぁ、そうだろうな。もう一つ考えられる点は……あの七星の男に頼らなければならない程、極めて難しい依頼、だという事だな」
「難しい依頼……ですか?」
「そうだ。ギルドの依頼として公にできない理由があり、それも七星の男に頼らざるを得ない、他の人間に口外することができない程のな。もし、本当にこの憶測が当たっているとしたら、中々興味深い内容になるな」
ふふ、と口端を吊り上げ、嬉々とした笑みを浮かべるエルーニャ。
好奇心がそそられるエルーニャとは対照的に、アイナの方は不安になっていた。何しろ、七星のゲオルグが知らないところで動いているのなら、それは余程の事だという事を理解していたからだ。
「ウェイン君、エルーニャさん! 私はギルドの方へ戻ります! 一応、人捜しの依頼が無かったかどうか確認します」
一度頭を下げた後、足早にアイナはギルドの方へと駆けていった。
アイナが立ち去り、残されたのは何時もの二人。
当初の予定ならば、二人はこの後通りに出て買い物をする事になる。
だが予定はあくまで予定。掌を返すようにコロッとそれが覆ることもあり得るのだ。まして、それがエルーニャと言うハーフエルフであれば尚更の事。
「さて、と。一応聞くけど、これからの予定はどうするんだ師匠?」
「残念だが、我々は冒険者ではない。この件が複雑な事情を絡んでいたとしても、手助けをすることはないだろう」
「まぁ、確かに。それじゃあ当初の予定通り買い物?」
「だが、逆に言えば何をしても許されるという側面もある。それが例え、ギルドで内密に行われている依頼に、首を突っ込む事になろうとな」
「やっぱりそうなるのかよ……あの眼帯の人の手助けをするのか?」
「馬鹿を言うな。興味があるのはどういう依頼を受けているのかという点のみだ。何故わざわざ解雇にした奴らの手助けをしなければならん」
「捻くれてるな師匠は。情報のアテはあるの?」
「全くない。お前の方は?」
「あると言えばある。昔の知り合いなんだけど……けど」
うーん、と悩ましげな声を上げるウェイン。
歯切れの悪い言い方からして、それに頼る事をウェインは躊躇していた。どうやら、一筋縄ではいかないものらしい。だが、現状アテになるものがそれしかないというのならば、それに乗っかる以外方法は無かった。
「あるのなら、行くぞ。そいつの下に案内しろ弟子」
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