第271話~獣王~

 エフィタルシュタインの言葉を聞き、獣人族の待つパキステラの森へ向かうことが決定した。



「楽しみなのじゃ!」


『精霊王様、遠足じゃないんですよ』


『まぁまぁ、事情が事情だし息も詰まるでしょ。気分転換だと思えば良いよ。それに最悪の展開は避けられたじゃん』



 エフィタルシュタインの言葉にノアが小言を呟くと、それにシルフのフォローが入る。エフィタルシュタインはあれ以降引きこもり、精霊王としての役目を果たせないことに苦しんでいたと周りは認識している。


 気分転換という言葉はそれが原因であった。それをウンディーネとシェイドの女性型大精霊2人も納得している。ちなみにノームはお留守番だ。



『きちんと書状は届けてある。そろそろ迎えの一行でも見えてくるはずだが……』


『あ、向こうに居たね』



 ノアの言葉にシルフが反応する。それと同時に向こうも気づいた様子だった。



『ようこそいらっしゃいました。長旅ご苦労様です。大精霊殿御一行』


『これはどうも。黒狼族の獣王親衛隊とは大変優遇されているようだ』



 獣王の右腕とも評される黒狼族による出迎えがあった。ちなみに長旅と言われているが、警戒区域となるこの付近以前は全速力で飛ばしてきたのでそこまで時間は掛かっていない。



『こちらからお願いしたのですから当然です。それよりも大精霊お2人だけ……いや失礼、もう1人居ましたか。3人だけでしょうか? 護衛などは──』


『必要ないよ。私達の力があればね。寧ろ足手まといさ』



 黒狼族からの言葉にノアがそう答える。それを言ってのけるだけの力はあるのだ。ただしその慢心が油断を産み、大精霊を2人も失う結果となってはいるのだが。



『……それではご案内致します。着いてきてください』



 それからさらに数時間後、3人は獣人族の国。そのさらに中央に獣王が君臨する王都へと辿り着いていた。



「疲れたのじゃ」


『我慢してください精れ──エフィー』


「ノアは固いのう」


『あなたのためです』



 精霊王エフィタルシュタインであることをバレないように、精霊王ではなく名前のエフィタルシュタインから取ったエフィーという愛称でノア達は呼ぶ。



『大精霊殿、こちらです。それと申し訳ありませんがそれ以外の方々は……』


「む? 我か? 我は問題ないのじゃ」


『は、はぁ……(チラッ)』


『エフィー……向こうで遊んでなさい』


「っ!?!?!?」



 精霊王である事を大っぴらにできない以上、ノアの言葉にエフィーは渋々といった様子で従う。



***



「我を差し置くとは……はぁ、まぁ仕方あるまい。獣人族は見れたし個人的には満足なのじゃ……む?」



 毛むくじゃらな男の黒狼族や、ケモ耳と尻尾だけの女の獣人族。それぞれ性別による違いなど色々と収穫のある旅行じゃ。捗るのう、とエフィーが考えていると、向こうから1人の獣人族が歩いてきていた。



『ん~? お前さん、何者だ?』


「のじゃっ!?」



 一瞬で隣に移動した獣人族がエフィーの顔を覗き込む。



『確か精霊族らを呼び出したんだったな。お前さん精霊族のツレの迷子かい?』


「ふっ、我は……迷子じゃ!」



 とっさに精霊王と名乗ろうとして躊躇したエフィーは思考を放棄。とりあえず相手に合わせることにした。



『はっ、迷子ねぇ。実は俺達の秘密を探ろうとするスパイなんじゃないのか?』


「ち、違うぞ!? ……むぅ!」



 即座に否定するエフィーだったが、獣人族の表情を見てからかわれた事に気づき頬を膨らませる。



『かかかっ! 嘘だよ嘘。ツレの所に連れてってやるよ。……正体についちゃある程度察しはついてるしな』


「……ほほう?」



 軽く手を引っ張る形で先程までエフィーが辿ってきた道を折り返す獣人族に、エフィーは意味深な表情でさらなる言葉を促す。



『俺は獣王ゴルドギアス。初めましてだな、精霊王』


「なるほどのう。我の名は精霊王エフィタルシュタインじゃ。よろしくたもう」


『はっ、認めたか。いい度胸してるな精霊王。仮にも同じ王同士でありながら、俺に手を繋がせるたぁ、どういう了見だ?』


「主から悪い気は感じんからの。それで、話し合いの場に連れてってくれるのじゃろう?」


『そりゃもちろん』



 お互いに大きく笑い声を上げながら獣王は精霊王を連れて歩く。



『待たせたな!』

「待たせたのじゃ!」



 意気揚々と2人で目的の部屋に乗り込む。そこには大精霊ノア、シルフの2人に黒狼族の丸くなった目が入り込む。



『せっ、……エフィー、何故ここに?』


『俺が連れてきた。話し合うのには必要だろ?』


『……そうですか』



 立ち上がって不本意な態度をとるノアだったが、今ここで獣王に大層な意見を言える訳もなく座り直した。



『さて……早速話といこう。同盟の話だ』


『隣合う獣人族と精霊族でお互いの不可侵かつ互いが侵略された際の助け合い……だったね。獣王よ、最近酷くなっているそうだね、内戦』


『そうだなぁ、このままじゃ今どこかに攻められたらひとたまりもねぇよ』


『それを聞いて、我々が責め滅ぼすとは思わないのかい?』


『あぁ、思わねぇ』



 お互いに睨み合う2人。しばらく静寂が続く。



『……はぁ、別に構わないよ。同盟の話だったよね、元から受けるつもりさ。今はうちもごたついている。余計な邪魔さえしなければね』


『お、そりゃ願ったり叶ったりだが……許可を出す奴が違うだろ。なぁエフィタルシュタイン』


「む? 我も構わんぞ」


『せっ、精霊王様……』



 獣王の言葉、そしてエフィーの反応にノアはもうどうにでもなれと言いたげな目となる。こうして精霊族と獣人族はなんの障害もなく、同盟を結んだのだった。しかし後日……。



『なんだ、この通達は……』



 ノアの手に握られた手紙。そこには9人の王達を集結させる旨の連絡が届いていた。

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