第269話~大精霊達~

 聖戦。後に9種族にそう呼ばれる大きな戦いの最初のきっかけは約2000年前にまで遡る。


 異世界で暮らす9種族達は"王"とその眷属である使徒を除いた8種族達によって領土が支配されていた。しかし些細な、本当に些細なことがきっかけとなって種族間の争いが勃発。


 多少大きな戦いはあれど、長きに渡る小競り合いが続いていた。そして、8種族達の不安定な安寧も……。



『何ぼさっとしているの? わたくしを待たせるなんて無礼よ』



 1番先頭を歩く水の大精霊ウンディーネが後ろを振り返ってそう言う。



『そう言うなウンディーネ。私たちが遅いんじゃなく、君が速すぎるだけだ』


『ヤーッ!』


『同じ大精霊としてもう少し慎みを知ったらどうです?』



 風の大精霊シルフが苦笑しながら、土の大精霊ノームが語彙力皆無に、そして闇の大精霊シェイドが煽りつつウンディーネに言葉を返す。



『だって仕方ないでしょ!? ようやく、ようやくなんだもの! ……精霊王様が現れるなんて』



 ウンディーネの言葉に他の3人も頷く。火の大精霊サラマンダー、光の大霊性シャイン。争いで亡くなった2人を除く各属性の大精霊が1人を除いて顔を揃えるのだから。



『むっ、遅かったなお前たち』


『なっ! わたくしは急ぎました!』


『そうだよ。私たちを待ったせいで遅くなったんだ。許しておくれ』



 そして7人存在する大精霊の最後の一人。大精霊ノアが顔を揃えた。ここにサラマンダーとシャインを除く5人の大精霊が集結し、精霊王の誕生を待ちわびることとなる。



『来たわ!』



 ウンディーネの言葉にノーム、シルフ、シェイド、ノアが反応を見せる。激しくうねる魔力の波動。そしてここにいる大精霊を超えた力が渦巻く。



「……ここ、は?」



 大精霊達の前に姿を見せたのは白銀色の長い髪をたなびかせる少女だった。その姿を視認した途端に大精霊達は膝をつく。



『お待ちしておりました、精霊王』


『精霊王……?』



 代表して声を上げたノアの言葉に当の本人である精霊王は少し困惑した表情を浮かべた。



『ずっと……2000年近くも、あなたが生まれるのを全精霊が待ちわびておりました』


『私が……大精霊? ここは一体?』


『精霊達の都です。……ふふ、唯一確認できなかった種族の王が、今こうして誕生した。さぁ、精霊王様……何なりとご命令を』



 精霊王はノアの言葉に戸惑いを見せる。生まれたばかりで右も左も分からないのだから仕方ないか、と周りの大精霊達もそう納得した。



「私……我はエベィッ……噛んだ。今のなし。改めて……わ、我の名前はエフィタル、シュタイン。エフィタルシュタインだ……じゃ!」



 可愛らしい声を高らかに響かせて宣言した精霊王エフィタルシュタイン。



『ふむ、精霊王エフィタルシュタイン様……ではまずは我ら、大精霊がこの世界についてお教えします。……そして、いずれは精霊とその眷属の繁栄を……王よ』



 それに対しノアが代表してそう答える。キュッと口元の引き締まった精霊王と大精霊達のその表情は、今後の未来を示しているようにも思えた。



『精霊王様。現状の説明は以上です』


「……酷い有様じゃな」



 現在の世界の情勢。8種族が領土を奪い合って小さな争いを絶えず起こすその現状にエフィタルシュタインは一言そう零した。


 精霊族においても既に火の大精霊サラマンダー、光の大精霊シャインが倒れている。最強の種族と呼ばれる精霊であってもそれほどの被害があるのだ。


 他の種族が治める場所の被害は1箇所を除いてより甚大だろう。残りの1箇所、それは精霊と対を成すもう1つの最強の種族と呼ばれる龍族が治める領地だ。



『しかしもう心配はいりません。精霊王様がいますから』


「我が?」


『はい、精霊王は全ての精霊の母。精霊を生み出せるのは精霊王のみが行使出来ます。だからこそ、精霊たちの王と呼ばれるのです』


「つまり、我は喪われた精霊達を再び生み出せば良いのじゃな?」


『はい。精霊王様』



 自らの役目を理解した精霊王は納得した表情を見せた。がすぐに再び眉をひそめる。



「ふむ……役目は理解した。では我はどのように精霊を生み出すのじゃ?」


『…………え?』


「……え?」



 エフィタルシュタインの言葉にノアが笑顔を張りつめたまま固まる。その反応を見てエフィタルシュタインもまた同じように固まった。



『……そんな』



 精霊王エフィタルシュタインの転落はそこから始まる。

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