第261話~再会~
「怪我はないですか?」
『ん? あぁ、無傷だぜ』
「えと、そうですか」
何とかコミュニケーションは取れている……と思います。それよりも……2人とも強すぎませんか? 私の出番が一切ありません。
弱いモンスターは見逃しています。その中で建造物に攻撃を加えるモンスター達がいるのでしょう。街のあちこちから大きな音が響いていました。
それでもここに集まった人達は世界でもトップクラスに強い探索者達です。一方的な敗北にはならないでしょう。
『はは、この程度ならA級って言われても信じられる。……何がある?』
『化け物がいるんだろうね。私も一瞬で負ける相手が存在していると知って驚いたよ』
『本当にテルヒサが一瞬で負けたのか? 俺はいまいち信じられねぇんだよ……嘘をついてるなんて思っちゃいねぇけど』
『はは、だろうね。ただ今回、私は死ぬ気でいる。死んでもおかしくないって思ってるんだ』
『……何がそこまでお前を変えたのか理解は出来ても納得は出来んな。まぁ、今は迷宮崩壊への対処が重よ──!?』
マテオさんが口を開いている途中で目の前から消えました。まるで台風のような強い風が吹き荒れた……今の一瞬で分かったのはそれだけです。
モンスター、しかも私の目に追えないほどの速度の。その一撃でマテオさんが吹き飛ばされた。遅れてそう認識します。
『クカカカカ! 呑気にお喋りとは良い気なものだな。所詮は蹂躙されし雑魚共の世界か?』
気持ちの悪い笑い方をしながら異形の化け物が……S級迷宮でかつて見た蟲人間と似た、でもそれ以上の圧迫感を放つモンスターが姿を見せます。
「琴香君、下がりたまえ」
『グギャギャ! こいつもそうだが弱いやつばっ──』
『おい』
『ギャ?』
『調子にのんなよクソ虫如きが』
マテオさんの頭を掴んで見せびらかしてきた蟲人モンスターの腕を掴み返し、マテオさんがその場から離れる。と同時に攻撃を放ちました。
『グッ!? 強い……?』
蟲人モンスターはマテオさんの攻撃力の高さに驚いた様子で引き下がります。私を守るように輝久さんとマテオさんが前に立ちました。
「そこのあなた……あなたはどこの勢力ですか? 目的は?」
『? お前、言葉通じる? ……何故? こちら側の世界の人間、言葉違う……お前、こっち側の人間?』
蟲人モンスターが首を傾げて私のことを興味深そうに見てきます。
『決めた! 蟲王様の元に連れて帰ろう。面白い!』
翅を広げて突っ込んでくる蟲人モンスター。
『よう分からんが調子乗んなや』
「全くだ」
『ガッ!?』
マテオさんの肘打ちと輝久さんの膝蹴りが同時に蟲人モンスターに決まります。さすがに世界でもトップクラスの実力者なんです。舐め過ぎですよ……。
『ふむ、俺の直属の部下を倒すなんてやるな』
「「『っ!?』」」
蟲人モンスターを2人が一撃ずつ浴びせて倒した次の瞬間、私の後ろに現れた新しい蟲人モンスターがそんな言葉を放ちました。
『お前、今すぐ離れろ』
『なるほどなるほど! 俺の軍勢がやられていたのはお前レベルの奴らが居たからか……おのれ龍王めが! 俺の軍勢を全員削り取って俺自身も倒す気だったのかぁぁぁぁぁ!?!?!?』
マテオさんを見て納得した様子の蟲人モンスターが急に咆哮を上げます。それだけでコンクリの地面が陥没し、周りの建物の隙間を突風が流れていきました。
『……はっ!? 馬鹿な、俺が……』
マテオさんが1歩、ジリッと足を下げました。無意識だったのでしょう。後から気づいたようで、その行いに混乱していました。
『……ふぅ。ふざけやがってあの野郎。聞いてた話と全然違う。強者は1握り。しかも分散してるから自分達も分散する……。だからこそ抜け駆けして下地を作っておくつもりが、俺と俺の軍勢を迎え撃つ戦力を固めていたなんてな!』
そう言って彼は私たちを見渡します。震えが……止まりません。抜け駆け? 分散? ……まさか、あの特級迷宮のゲートがいずれ世界中のどこかにも一斉に現れるって事ですか!?
『何故来ると分かった? 予め俺たちが攻めてくることが分かったのは……俺の他の王達の方に裏切り者が居たからか?』
裏切り者……? ゲートの向こうの世界の、王達の中の裏切り者……エフィー、ちゃん?
「……あなたは、王なんですか?」
『っ……何故言葉が通じる? ……あぁ、お前か? いや、お前だな?』
無機物のような動きでこちらへと視線を向けた蟲王? が私たちにも分かるほどに憎悪に満ちた、鬼の形相を私へと向けた。
瞬間、マテオさんと輝久さんが飛び込むのが見えた。そして吹き飛ばされるところも……。2人とも殺されてはいない。
ただ邪魔だった物をどける動作で、あっさりとした様子ではあった。つまりそれほど実力差が離れていることにはなる。
そのまま私の方に足を伸ばした。私が短剣を抜いて攻撃を振るう前にその腕を掴み、足の届かない所まで上にあげられる。
『ん? あぁ、そうかそうか……お前、精霊か! 俺たちの世界の精霊が何故、どうやって、こちらの世界に干渉したのかは知らんが潰してやるよ』
私をギョロりとした眼のような何かでジーッと見てきた蟲王? に、私が精霊である事がバレ、それが彼の何かに触れたのだろう。グジャリッ! そんな音ともに私の腕が骨ごと握り潰されました。
『ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあ?!?!!?!』
『ふははは! 脆いなぁ、中級精霊か? さっきの2人は上級精霊を纏った眷属と同じかそれ以上の強さはあったぞ? んん、精霊はやはり生き様どころか全てが寄生虫のようだ! 王である私の眼に入ることすら不愉快!』
蔑むような眼で、私を嘲笑う蟲王。凄まじい痛み……自分で自分の肉体を切断できたのは、綺麗に切ったのと覚悟があって、さらにすぐ治せた事が大きかった。
今は握られたままで治す事も出来ない。……気を失ってしまいそうと考えるほどの痛み。でも徐々に和らいでいるような……脳の処理を超えた痛みで、痛覚が麻痺してきたかもしれない。
「【光芒一閃(こうぼういっせん)】」
『っ!?』
S級迷宮の迷宮主を一撃で仕留めた光の斬撃。蟲王はそれを見て驚いた表情を見せつつ……受け止めた。
『ぐっ……今の一撃は──』
『【粉砕穿(ふんさいは)】!』
相対して初めて動揺、そして痛みを感じ取ったのか私を掴んだ手が緩む。輝久さんの一撃に合わせるように今度はマテオさんの一撃が放たれました。
『ぬぅ!? ……なんの冗談だ、こいつは』
吹き飛ばされると同時に私はその場から離脱して、《再生》の魔法で腕を治していきます。蟲王は私達を得体の知れない者でも見るかのような目を向けてきました。
『無事か嬢ちゃん?』
「問題ないです。……勝てますか?」
「正直、私のあの一撃を受けてピンピンしてるのって反則だと思わないかい?」
マテオさんと輝久さんの顔色を見るに、難しいでしょうね。
『クソ、お前たちが何者なのか知りたいが……己の出自を自らが理解してるとも思えんな。後で考察するとして……今は、殺す』
「来ますっ!」
彼の中で結論を出し終えたのだろう。その眼が私たちへと向けられ、それは殺意となって襲いかかってきた。その次の瞬間……。
「ええぇぇぇぇええぇぇええぇぇぇえええ!?!?!?」
空から1人の男性が降ってきました。全員が動きを止めてその人に視線を向けます。その人はズドンと着地し砂埃を巻き上げ、その中から現れたのは……。
「……え、琴香さん?」
「~~っ、空君っ!」
空から降ってきたのは空君でした。
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