第260話~迷宮崩壊~
迷宮攻略を1日前に控えたその日、私たちはアメリカに集まった探索者達と交流を行っていました。具体的には自分の長所なんかを簡単に説明することです。
集まった人達全員が見せ合います。もちろん人によっては既に公開されている情報……魔法系なら魔法をちょっと使ってみせる程度の、ほんの少しだけだったんですが。
まぁ、ここにいる人々は死ぬことを考えていませんもんね。つまりここで真の力を見せては自分の弱点をさらけ出すことと同義。将来的なことを見すえておいでのようです。
『ミスター・マテオッ! 緊急事態ですっ!』
なんて考えていたら黒服の人が駆け込んできて、マテオさんの名前を呼ぶ。血相を変えていた事から何か異常な事が起こったことは確定で──。
「輝久さん!」
「あぁ。気づいたよ。……魔力が渦巻いている。これは……」
「迷宮崩壊……ダンジョンブレイク」
『『『っ!?』』』
迷宮崩壊を英語で呟くと、周りの人達の目が変わる。日本は世界でも珍しく迷宮崩壊を起こしたことのある国である事から、その言葉の信憑性も高いと周りから思われているんでしょうね。
『まだ猶予があったはずヤー』
『少なくとも明日だったはずよね。テルヒサ、何かわかる?』
『元々S級上位が現れること自体異常なんだ。もう何が起こっても驚かないよ』
比較的冷静な態度でクレオさん、アリシアさん、ムーチェンさんらEX級上位の人達が何かを話しています。
『おいおいどういう事だぁ? まだ1日の猶予はどこにいったよ? 俺が寝過ごしたとでも言うつもりかよ。まぁ、起こったことは仕方ねぇ。全員、すぐに戦闘準備を! 目標はS級上位迷宮から溢れ出るモンスター達! 時間差もある! 誰かを待つことなく各自で動くように!』
輝久さんにマテオさんの言葉を教えてもらいます。確かに鎧を着たりするなど人によって準備は様々ですからね。私の場合は短剣と、空君から頂いた防御機能のついたアクセサリーです。
会話のできない都合上、私はやはり輝久さんと一緒に動く手筈になっています。
「琴香君、雑魚は片手間にしておき、最短で強いモンスターだけを相手にしよう!」
準備を終えた輝久さんの言葉に従い、あまり強くなさそうなモンスターは襲ってこない限り無視をします。それにしても……。
「これ、本当にS級上位迷宮の迷宮崩壊なんですか?」
現れたモンスターは昆虫型モンスター。……また虫です。本当になんなんですかもうっ! と思いつつも冷静に対処します。
「いや、弱すぎる……S級はもちろん、A級にいる事すらないだろう。……Bか、C級? どちらにせよ、S級上位の魔力量の反応を検知したんだ。これで終わるとは考えにくい」
輝久さんがそう言い捌いていく。一般人はそのほとんどが予め避難させてあるので人混みに止められるといったことはない。
『テルヒサ、一緒に行くぞ! 嬢ちゃん手を貸せ』
あっという間に追いついたマテオさんに差し出された手を掴みます。今の私の足では足手まといですからね。
S級が相手をする必要のない弱いモンスターは本場アメリカ中から集結したA級~B級の探索者に任せておくそうです。
『マテオ、勝算は?』
『元々は全戦力で乗り込み、少しずつモンスターを減らして迷宮主を最後に叩く予定だった。それが今となってはモンスター全てが街に解き放たれている……が、舞台はこちら側のホームだ。有利になったんじゃないか?』
『街を蹂躙されるのは避けられないけどね。それに……総力戦なら負けるかもと思ったから、自ら乗り込んで少しずつ戦力を削る予定だったんだろ?』
『言うなテルヒサ。……被害は気にせずモンスター全てを排除する。1匹たりとも生かしてたまるか』
軽口を言い合う雰囲気ですが不味いですね。迷宮崩壊の恐ろしい所は被害が実際の町に及ぶこと、全てのモンスターが一斉に現れること、そして……モンスターが街に根付くかもしれない可能性があることです。
事実、迷宮崩壊か起きた日本では1ヶ月ほど最後のモンスターが街をうろつき廻り、被災から時間が経った頃にも数人の被害者が出ていましたから。
『ちっ、デケェのが来たな!』
体長10メートルほどの巨大クワガタがビルをなぎ倒しながらこちらに接近してきました。
『潰れろやっっっ!』
私を輝久さんに投げたマテオさんの渾身の一撃がクワガタ型モンスターに放たれます。硬そうな装甲も関係ないと言いたげにグチャりと液体を周りに撒き散らしながらクワガタ型モンスターは動かなくなりました。
『フュウ、今の、A級の迷宮主かS級でたまに出るモンスターぐらいの強さはあったはずなのに、やっぱり強いねぇ』
『お前だって本気出せばS級迷宮の迷宮主ぐらい倒せるだろ。一々騒ぐな、次が来たぞ』
モンスターの大群が先頭を務める私たちに向かって来ます。ある意味運が良かったです、正直言って今の汁まみれのマテオさんに抱えられるのは勘弁して欲しいと思ってましたから。
***
『ちっ、使えん奴らめっ! さっさと増援を送らんか!』
アメリカの土地に足を踏み入れた蟲王がこれまでに集めた戦力を街を超え、国中に解放する。彼らがまず目指すのは1番魔力の持ってる生き物が集まっている場所だ。
『王よ。一番槍を任されたとはいえ、これでは我々の戦力だけが激減してしまいかねません!』
『蟲王たる俺に指図を……むぅ、確かにその通りだな。いかん、熱くなってしまった。しかし総力を上げれば全滅させることもできそうだが……』
『龍王も向こうの生物を全て死滅させるのはやり過ぎだと言われるかもしれません。勝てることは間違いないのです、慎重にいきましょう』
『利権も欲しいが……数を、戦力を削りすぎて他に攻め滅ぼされるのは勘弁だな。よし、俺も出よう』
聖戦。その続きが蟲王が先陣を切ることで行われようとしていた。
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