第258話~アメリカへ~

「……空」



 氷花がそう呟き拳を握る。帰ってきたら……そう思っていたのに彼は、彼だけが帰ってこなかった。何故無理やりにでもついて行かなかったのだろうか? そんな想いが頭をよぎる。



「おいおい泣くなよ綾辻あやつじ


「な、泣いてないし。余計なこと言うなおじさん」


「おじっ、まだ20代だこちとら。アァ?」


「なに? やるの?」



 C級パワー系探索者であり、空と同じ諸星もろぼし組合の仲間でもある最上元気もがみげんきと氷花がそんな会話を繰り広げていた。



「空もそうだけど……エフィーちゃんもだよ。なんで、そこまで……?」



 それに対して同じく消えたエフィーの方を心配したのは諸星翔馬もろぼししょうまだ。精霊であることを知らない彼はS級迷宮にこっそり着いて行って迷ったのだろうか? それともいつの間にか誰かに誘拐されたのだろうか?


 それでも海外の子供が赤の他人に居候。その友達が誘拐されたかも? と通報した所で警察はまともに動かないし、むしろ空が児童ポルノ法とやらで逮捕されそうだと翔馬は考える。



『……信じないわよ、ソラが死んだなんて、あたしは』



 目覚めたばかりの琴香から軽い顛末だけ聞かされ、言葉の通じない周りの様子を見たエルフの少女、ヘレスは自分に教え込むようにその言葉を発した。



『お姉ちゃん、ララノアもお兄ちゃんはきっと生きてるって信じてるよっ?』


『俺もな。ソラの奴はいくら俺が視線で呪い殺そうとしても無理だった男なんだし』



 ヘレスの妹、ララノアがニパッと可愛らしい笑みを浮かべて、ヘレスの幼なじみであるアムラスもララノアの意見に賛成する。



『えぇそうね……ちょっと待ちなさい。ソラを呪い殺すってどう言う意味かしら?』


『え? いやちょっとした言葉の綾であってぎゃぁぁぁぁぁ!?!?!?』



 ヘレスに突っ込まれたアムラスは誤魔化そうとするも、ララノアに足を掴まれそのままヘレスの折檻を受ける。



***



「それで、アメリカ合衆国の状況はどうなっている? ゲートの規模は!?」


「ゲートの等級は便宜上S級となっておりますが……実際の数値は測定不能です。なのでまもなく特級迷宮でしか見られなかったS級上位の等級に変更されるかと」


「馬鹿な!? ……いや、ついに恐れていたことが」



 S級よりも危険な迷宮のことを便宜上はS級上位と呼ぶ。このS級上位の迷宮は過去、1度として普通のゲートととして出現した事例はなく、全てにおいて特級迷宮として誕生していた。


 だが、今回誕生したのは普通のゲートでだ。これが意味することは、時間内に迷宮攻略をすることが出来ず迷宮崩壊が起きた場合、空達も経験した5年前の悲劇とは比べ物にならないぐらいの人が死ぬ。


 各国もこれを重く見ており、もし出現した際には各国のS級探索者、およびEX級探索者らのような実力者を招集できる国際条約が、ついに成立する可能性すらある。


 しかし前例がなく、しかも自国の戦力を無駄に消費する可能性が高いことから何だかんだ引き伸ばされていた。しかし今、こうしてS級上位のゲートが現れたのだ。



「さっきの男の言っていた言葉、それが関係しているってことなのかしら~?」



 輝久さんと大本さんの会話を聞き、芽衣さんが首を傾げながら呟く。



「恐らくは。これを防げ……いえ、時間稼ぎでしょうか? をしろと言うことですかね?」



 琴香が肯定の意思を見せる。大本だけはその反応に困惑の表情を見せたが、会議で何かしらの進展があったのだろうと1人で納得した。



「大本、マテオ・キングに至急連絡を頼む。事によっては私も直接出向くとしよう」


「国の上層部が認めるでしょうか?」


「マテオ・キングでも倒せるか不明のモンスターよりも先に私と敵対したいらしいな、とでも脅しておけば良いさ」


「全然良くないですよ!?」



 そんな感じで会話は終わり、日本からアメリカにS級の平塚輝久ひらづかてるひさ、同じくS級の綾辻烈火あやつじれっか、A級の初芝琴香はつしばことかの3人が出向くこととなった。


 ネット上ではS級迷宮ごときでS級探索者が死ぬ国から、特級迷宮にS級探索者を送り込むのはどうなのか、ましてはA級探索者などと言う声が上がりはしたが、この決定が覆ることはなかった。



「A級の私を連れていって良かったんです?」



 アメリカ行きの飛行機の中、VIPルームの中を恐ろしそうにキョロキョロと見回していた琴香が今更ながらと問いかける。



「琴香君はこの中で1番の情報通だからね。目の届かない場所に置いておきたくないんだよ」


「それに琴香さんって確か、A級の中でもS級に限りなく近いレベルじゃないですか?」


「えぇ、大元さんの言う通りです。でも確か、大本さんもそのはずですよね? S級に最も近いA級発現者……でしたっけ?」



 大本はA級と分類されてはいるが、その中でもS級の基準値に最も近い男だ。琴香もそれに近しい値を出している。



「私もA級ですが、身体能力は普通にS級の烈火さんには勝ちますからね。魔法系は辛いんじゃないでしょうか?」


「だが烈火君には瞬間火力じゃ元EX級2席の私も敵わないさ」


「いやいや! S級迷宮でのあの一撃なら流石に烈火さんも普通に負けま──あ……すみません」


「……」



 輝久さんの放った【光芒一閃こうぼういっせん】を引き合いに出した私だが、その1件で空が居なくなったことを思い出して謝罪する。特に周りは気にした様子もない。良かった、気を使ってくれて。



***



『よく来たなテルヒサ! 歓迎するよ!』


『やぁ。微力ながら手を貸させてもらうよ』



 マテオと輝久が軽く抱き合って再会を喜び合う。あまり別れてから時間は経ってないが、そこはあまり気にしない。



『そっちはA級のオオモトだな。期待のホープらしいじゃないか』



 大元さんはまだ若いのであまり強い印象が無いが、それは彼の本気を見たことがない者の考えだ。そしてこの本気を見たことがあるのは限られた人しかいない。



『そんで君がソラの彼女か』


『はい』


『うーん、ナタリーにはちと厳しいかもな』


『???』



 何故ここでマテオさんは娘の名前を上げたのだろうか? と琴香が考える。



『それよりも、他の国からも援軍が来ているんだろう?』


『あぁそうだ。向こうに代表達が集まっている。紹介しよう』



 マテオに通された先に居たのは各国のS級探索者達だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



期末テストがやばいのと展開が思いつかないのダブルパンチ。エタらせることは絶対無いです。ちゃんと完結させます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る