第250話~今度こそ!いざ、黒狼族の集落へ~
『あ、あの……助けて頂きありがとうございました』
竜車から代表して降りてきたのは豚人族の女性だった。彼女の身なりや媚び具合から見て、奴隷商人のような人には見えない。
奥からいくつか視線は感じる。敵意のような物も……でもそれは警戒心から来る一時的なものだ。俺に悪意を持つような視線じゃない。無視して構わないだろう。
「いえ、無事で良かったです。それよりも、一体あなたのような女性がなぜこのような所に?」
『……ふふ、貴方も黒狼族と豚人族の紛争が起こることはご存知でしょう?』
え、なにそれ知らない!?
『豚人族の集落は戦争ムード1色。そんな中、種族のために立ち上がらず、私たちは逃げている途中でした……後は分かりますよね? これ以上、恥をかかせないでくださいませ』
全然全体像が見えてこないからもう少し待って!? めちゃくちゃ深堀したいんですけど!? そんな私、汚れちゃったよオーラ全開にされても困ります!!!
「……貴方達が逃げたことは悪くありませんよ。俺も似たようなものですから……。それより、今までどんな状況でそうする決断に至ったのかだけ、教えてくれませんか? 大丈夫です、誰も責めませんし、聞いていません。ちょっとした旅行中に、ふと独り言が漏れただけです。……そうしてくれると、ちょっと人を助けた奴が喜ぶと思いますが」
俺は聞き流すから助けたお礼にお前らの事情を聞かせろ……俺は遠回しにそう伝える。まぁ、ガッツリ豚人族側の情報は耳に入れておきますけどね。黒狼族の集落ですり合わせもしたい所だな。
『きっかけは些細なものでしたよ。黒狼族からの突然の宣戦布告……理由は奴隷という商売を許せないとか、そのようなもので……ですが、我々豚人族は代々獣王に許可を得てきちんと法的にも問題なく運営をしていたはずです……実態は、わかりませんが』
へぇ、トップが公認している公共事業みたいな行いだったのか。どうしようもなくて死ぬしかない人に、新しい環境を提供する……そんな謳い文句なら批判も出にくいかもな。
ただ、実態は分かりませんがと言った時に彼女の目線が逸れた。薄々、実態については気づいていたんだろうが、それをわざわざ指摘するつもりはない。それより情報を聴き出したいからな。
「うん、辛かったよね……。貴方はなんで黒狼族がこんな戦争を仕掛けてきたと思うの?」
『そ、それは……本当に、分からないんです。私たちのような下々の者には知らされていない何かがあるとしか……』
弱りきった身体、キュッと口元が引き攣るのを抑える動作……無力感や怒りを恩人の前で出すのを躊躇う仕草だ。本当に分からないんだろう。
「そうか、残念だ……そうだ、最後に一応道を確認しておきたいんだ。絶対に近づいちゃいけない黒狼族の集落は向こうだったよね?」
『えぇ、そうです。豚人族の集落はあちらですし』
おぉ! 正直に言ってドワーフで鉱物オタクのミルドの証言は絶対に間違ってるだろうな、と思ってたけど合ってたのか!!!
『本当に助かったよ。……あ、俺の仲間ももうすぐ着く。お礼をさせて欲しい』
そう言ってようやく到着したエフィー達のうち、ヴォルフとルプスを豚人族から見えないようにする。無駄な諍いは起こしたくないからな。
そして食料というか、砂漠で倒した食えるモンスターのいくつかをあげることにした。さすがにあのやつれ具合は見てられない。
『どこに逃げるつもりなのかは知りませんが、貴方達に幸運があらんことを』
そう言って俺たちは豚人族の彼女と別れた。助けるつもりはない。いや付いてくるなら守ろうと思うけど……今回は助けられるから助けただけ。
俺の両手じゃ守り切れる数に限りがある。だからこそ、その手の届く範囲だけは絶対に守りたい……。
「行こっか皆」
ちょっとした寄り道はあったが、再び出発する。道は合っているそうなので若干気楽な気持ちだ。暇なので斬撃をどこまで飛ばせるか、身体能力がどれほど伸びたのか、新しい精霊魔法が無いかをエフィーと共に検証する。
『……思ったより早く着いたっすね』
黒狼族の集落に到着した。時間にしておよそ3日も経ってない程度か? むしろこの距離であの洞窟が今まで見つかってないことが驚きだ。
……いや、砂漠なんて常に命の危険と隣り合わせな場所を探索して、しかも見つけてそれが他の人に伝わる可能性を真面目に考えれば低い事は当然か。
ミルドさんも人にはほとんど会った事がないと言っていたし、今までにも多腕ゴーレムに殺されている可能性もある。
何が言いたいかと言うと、見つかってなかったのは運が良かったからだよなってことだ。王の奴が意図的に隠してたとかじゃないはず。
おっと、話が目的地に着いてから色々とズレ出した。話を戻そう。黒狼族の集落は思ったよりも広い。せいぜい田舎の村を想像していたが、普通に町と呼んでも差し支えない広さだ。
『……ようやく、辿り着いたっす』
「だね。そこにいるガノーさんもそろそろ姿を現したらどう?」
『……気づいてましたか』
どこからともなく現れたガノーさんが姿を見せる。俺がボコした時の傷はすでに癒えている。
『てっきり、最後に残したあの言葉は嘘だと思い始めていましたよ』
ガノーさんが俺たちの方を見ながらホッとした様子で話し始める。あの時の言葉……ヴォルフの全てに決着をつける為に、自らの意思で集落に戻る……その事か。
『……何故! ヴォルフ様達の方が先に出立したはずです! ここまで時間がかかったのですか? やはり、考え直していたのですか?』
『いや、普通に道に迷っただけっすよ』
『…………』
『…………なんか、すまねぇっす』
この微妙な雰囲気が嫌だった俺とガノーの意見が一致し、俺たちはすぐに黒狼族の集落内へと案内された。
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