第248話~帰還への第1歩~
「……つまり、主は王に助けられたと?」
「まぁ、そうなる」
「確かに、契約上書きもその後の上手く行き過ぎた節はあったが……まさか、そこまで手を出してくるとはの」
「王は、こんな物語は認めないって言ってた。……つまり、俺には俺のやるべきことがあるだろって言いたいのか?」
「……恐らくはの」
落ち着きを取り戻した俺とエフィーが状況整理を行う。ミルドさんは目の色を変えてオリハルコンを採掘しているので、こうしている最中にもカンカンと音が洞窟の中を響かせていた。
ハズクはここまで来た道を戻ってもらい、ヴォルフとルプスに現状の報告を任せた。自分達が生きていること、ひとつの目的を達成したことなどをだ。
「……王の考えていることは我にも分からん。今回の出来事は運が良かったと心の内に秘めておくだけにしようと思うのじゃ」
「了解」
考えたって仕方がない……思考放棄のように思えるが、事実そうなので仕方がないのだ。ただ一方的に話してきて、中立を歌いながら俺が強くなることの手助けをする。
何故こんなことをするのか、本人と会話でもしないと確認のしようもない。……試練は黒狼族の集落にあると王は口から漏らしていた。
つまり王は自分の予想通りの展開をなぞって欲しいがために、俺を生かしたのか? ならわざわざ予想外の行動を起こせるようにして、しかも呼びつけられるのにそれを咎めないのは何故?
そこまで強制する力は無いのか? だが黒狼族って発言から、これから起こりえることを予想していたのは確か。……王の具体的な力も分からない。
力が分からなければ目的も、その意図も分からない。分かることと言えば、地球と異世界の中立の立場を取りながら俺への支援をある程度惜しまないことだけ。
もしかしたら異世界側にもなんらかの支援……干渉をしているかもしれないが。結論としては何も分からないことが分かった……って言うクソみたいな意見しか出ねぇ。
『ソラの兄貴!』
『ソラお兄様』
適当に王への考察をしてしばらく時間を潰していると、ヴォルフとルプスの2人がやってくる。ハズクの言葉を聞いて飛んできたようだ。
『あれ、ソラお兄様……なんか、雰囲気変わった?』
『え、あ、本当っすね!』
どうやら契約上書きを2度もしたせいで獣人には分かる何かが反応したらしい。本能ってやつかな?
「イケメンになったろ?」
『それはないっす』
「…………」
俺が無言でヴォルフにアイアンクローを食らわせていると、エフィーが腹を抱えて笑っているのが見えた。よーし、そうかそうか、お前も喰らいたいか!
「ルプスちゃん、お腹とか空いてない?」
『用意してくださったもので十分でしたよ。それより、そろそろ兄様を離さないと帰らぬ人に』
「おっと……」
契約上書きで強くなった力を制御できず、力加減を間違えてしまった。ヴォルフに謝罪をしてミルドさんの方へと向かう。……思ったよりやばくて逃げた訳では無い。
「ミルドさん、どうです?」
『ふははは! 順調順調じゃぁぁ!』
オリハルコンを削りだすのは同じ硬度を持つツルハシでもないと無理じゃね? と思っていたが、ミルドさんの持っている採掘道具は魔道具らしく、そのお陰でオリハルコンも採掘できるようになっているらしい。魔道具、便利!
「ハズク、戦闘の時は本当に助かったよ、ありがとな」
『お礼は百倍返しで良いの』
「じゃあ返すのは100年後とかにでもするか」
『借りパクなの!? ソラをそんな風に育てた覚えねぇの!?』
「奇遇だな! 俺も育てられた覚えないんですが!?」
バカ話をしながら俺は洞窟内を歩き回る。敵の気配は無いし、警戒している訳では無い。……いや、もちろん絶対来ないだろと油断している訳でもないが。
「……ここ、かな?」
俺は多腕ゴーレムが最初に居た位置と、倒した後に現れた沢山の多腕ゴーレムの位置を確認する。その2つから見出される場所は、絶対にここには近づけさせないという意思を感じるような位置だと感じる。
「ふっ……当たりか」
オリハルコンはその周りを囲むように群生していた。俺が牙狼月剣を振るって攻撃を何度か繰り返していると、偽装が解かれて隠し扉が現れた。
……やはり多腕ゴーレムが守ろうとしていた物はこの先にある。オリハルコンは相手の目を誤魔化す効果でも期待したのだろうか? ミルドさんには悪いが何にせよ、オリハルコンはついでだ。
『うわ、喋ってる間にソラがなにか発見してたの。ちゃんと報告しろなの』
「俺、お前と一緒に行動してたよなぁ!?」
何故か一緒にいたハズクに罵倒された。解せぬ……。
『ソラの兄貴、この先は一体……?』
『行けばわかるでしょ。兄様は黙ってて』
『はい……』
ヴォルフとルプスの力関係がはっきりしてきて何よりだ。え、兄が妹に負けてるじゃないかだって? ハハハ、何を当たり前のことを。
「主は我の時と言い、隠し扉とかを見つけるのが得意なのじゃのう……」
「たしかに」
『オリハルコンじゃぁぁぁ!』
「あの人はもう末期。手遅れだからほっとこう」
そんな訳で左右をオリハルコンに囲まれた隠し扉を進む。……なんか、魔力が濃くなってる気がする。気圧が変わったみたいな違和感と似ているな。
「……はは、そういう事かの」
「……なるほどね」
『うわぁ……今見つけるの?』
エフィーと俺、ハズクが喜びと困惑、納得をしつつも複雑な表情を浮かべる。だってさぁ、いや確かにその通りだと思える造りではあったか。
『え? え? なんすか?』
『……多分だけど、凄いわね』
俺達の目の前にある物がなにか分かってないが、その反応で何かを感じ取ったヴォルフが戸惑う。逆に目の見えないルプスちゃんは純粋にそれを感じとって、そんな感想を漏らした。
「……ゲート」
そこにあったのはゲートだった。思えば人工的な洞窟だったのも、侵入者を排除するための多腕ゴーレムが居たのも、その強大な魔力から副次的な効果でオリハルコンが生成しているのも納得だ。
王が何故頭を抱えていたのか、1番最後の場所に行ってしまったのか、と言っていたのも理解できた。……こちらでの出来事を清算していないのに帰られては困るからだろう。
『え……こ、これが、ソラの兄貴の探していた異界の門……ゲートっすか』
『つまり……帰っちゃうの? ソラお兄様は』
ヴォルフが理解すると同時にルプスちゃんが悲痛な声でそう呟く。問いかけているつもりではなく思わず漏らした言葉だろうが、心が苦しいな。
「エフィー」
「……仕方ないのう。じゃが……1週間じゃ。何が起こってもそれ以上は待たんのじゃ」
エフィーに目を向けると、呆れた目を向けられつつも諦めの表情で条件を提示してきた。1週間か……黒狼族の集落の行き帰り分の日数を考えれば短そうだが……。
「安心しろ2人とも……ちゃんと、お前たちの結末は見届ける。俺達の帰るための手段は見つかった……だから今度は2人の番だ」
『そ、ソラの兄貴ぃぃぃ!』
『ソラお兄様……』
ゲートは見つかった。今すぐ飛び込んで、日本に帰ることは出来るだろう。だが……ヴォルフ達の事情を放置して帰るなんて俺にはできない。
という訳で俺たちは当初の予定通り、黒狼族の集落へと向かう事が決まった。これで満足かよ、王。
……あと1つ聞きたいんだけど、このゲートってちゃんと地球に帰れるやつだよな? まさかまた別の異世界があって、そっちに飛ぶとか意味わからんことにはならないよな!?!?
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