第246話~フラグとは回収されるために存在する~

「ぐっ……」



 体が作り替えられるかのような不快な違和感が全身を襲う。だがこれが契約が上書きされた証だ。これで勝てる! そう思い、足を踏み出そうとして一瞬視界がブレた。


 不味っ……! 早く戦闘に戻ってハズクへの負担や危険を減らそうと、体が馴染んでないのに急に動き出してしまったからか、そんな症状に襲われた。



『ヤバいの!?』


「っ!」


「主っ!」



 ハズクの精霊魔法をまともに喰らいながらも、俺のやらかしを見逃さなかった多腕ゴーレムの腕が1本伸びてくるのが見えた。


 動け、動け動け! 2人とも頑張ってくれた! ちょっと体をズラして避けるんだ。ハズクの妨害も効いている。この一撃を退けたらあとは勝てるのに……!



『ダァァァァァ!』



 そこに飛び込んできたのはミルドさんだった。身の丈に合わない巨大なハンマーを振りかざして、多腕ゴーレムへと振るった。


 そのハンマーは俺の方へと向かってくる多腕ゴーレムの腕の付け根部分にあたる。伸びる方向がズレた腕は、俺のすぐ横を空ぶっていった。


 彼の実力では狙ってそのような芸当はできない。タイミング良く飛び込み、運良く俺を狙っていた腕に当たり、俺へのアシストをして見せたのだ。



「はぁぁ!!!」



 踏ん張って、倒れそうになる身体を奮い立たせて、牙狼月剣を振り抜いた。多腕ゴーレムの腕が2本、ちぎれて飛んでいく。



 オォォォォオォォォオオォォォォ!?!?!?



 不快感を最大限に感じる奇声が多腕ゴーレムの何処からか漏れる。キツネ仮面の白い肌に通っていた赤い線が光だした。


 突如、暴走したかのように周りを見ることもせず多腕ゴーレムは暴れ出す。先程よりも動きが明らかに速くなっている。だが、雑だ。



「【縮地】!」



 牙狼月剣で何度か一撃をぶつけ合う。契約上書きで上がった身体能力に速度を早める精霊魔法。はっきり言ってこちらの圧勝。


 向こうは手数が多いので最初は何とか防げていたが、それとジリ貧。俺が最初にやられた時の仕返しを見ているようだった。



「【剛力】ッ!」



 牙狼月剣の横なぎが多腕ゴーレムの首が吹っ飛ばす。そして仮面ごと頭部をいくつもの欠片に斬り裂いた。



「あった」



 その中から1つの丸い玉を見つける。禍々しく、強力な魔力が秘められているとすぐに分かった。すぐに牙狼月剣を突き出し破片になるまで砕く。



「やったか?」


「……ふぅ、どうなる事かと思ったのじゃ」



 エフィーがホッと息を吐く。くっついて再生がしたりもしない。やはりあの玉が核、と言うか本体だったようだな。



『よ、よし! ありがとう! これでオリハルコンを採れるのじゃ! ワシの腕によりをかけて最高の武器を作るのじゃ!』


『はー、疲れたの~。ソラが『やったか』フラグ立てて警戒したけど本当に何も無かったの』



 おいやめろ! 最近はそれを指摘したらその通りになるフラグがあるんだよ!



『いや~、さすがにそれはないの。ほら、何も起きな──』



 ズドドトドドドドドトドドトドドトドドドドドドドッッッ!!!


 …………今、なんか変な音がそこら辺からしなかった? 全員の視線が先程倒した多腕ゴーレムの方へ向く。多腕ゴーレムの半壊した死体? には何も変化はない。


 あったのはその奥だ。オリハルコンが群生している地帯を守っていた多腕ゴーレムが新しく……10体以上も増えていた。



『……ソラがやったか発言したせいなの』


「そんな訳ないだろ!?」



 多腕ゴーレム達が突っ込んでくる。え、いや……同時に3体までならいけるとは思うけど……これ、何体いるの? って、それよりも……。



「無理! 無理無理無理!!!」


「1時撤退じゃ主!!!」


『ぬぉぉおぉぉ! ワシのオリハルコンがぁぁぁ!』



 俺達は即座に撤退を選択した。あれは勝てない。さらに契約上書きをしたなら倒せるかもしれないが、今はまだ時期が悪すぎる。


 契約上書きは俺の身体を根本から作り替えるようなものだ。じっくりと濃密な戦闘経験を積んで身体を馴染ませてから上書きをしないと、契約上書きの負荷に俺の身体が耐えられない。



『な、なんじゃあ!?』


「いや、いや…………はは」



 違和感はあった。多腕ゴーレムの現れた時のズドドドッって音が、今迫ってくる多腕ゴーレムの数より多かった気がしたから。



『は、挟まれたの? ……ソラ、エフィー様、何か策はあるの?』



 ハズクが俺たちの方に顔を向けながら問いかけてくるが、答える余裕がなかった。目の前には多腕ゴーレムが10体。奥にも何体か多腕ゴーレムが見える。



「【剛力】! はぁぁぁぁ!!!」



 力を増強して斬撃を飛ばす。直接攻撃より威力が落ちるとはいえ、多腕ゴーレム達の胴体や腕に跡を残すほどの威力だ。



「がぁぁぁ!」



 飛びかかるように帰り道の方にいた多腕ゴーレム達に襲いかかる。数撃打ち合えば何とか隙が生まれて核を潰すことは可能だ。


 だが何体も居てはその数撃を与えるのも厳しい。加えて強力な再生能力が相手にはある。倒せないと攻撃はただ体力を使うだけで、無駄な行動となってしまう。



「【縮地】!」



 自分から飛び込んでいったのに多勢に無勢。先程5体目を倒したが、それ以上の速度で多腕ゴーレムは増え続けていく。


 俺の後ろにはエフィー、ハズク、ミルドさんもいる。引くに引けず、時間が過ぎていった。



「ハズクよ、後ろの足止めを頼むのじゃ!」


『【旋風(つむじかぜ)】! 【旋風】なの!』



 俺が戦っている間もエフィーの能力でハズクの力を引き上げる。精霊魔法を何発も使うが、本当に軽い足止めにしかなってない。



「やばいのじゃ。ここで……我の、2度目の生すら終わるのかの?」



 エフィーの嘆きが耳に入った。……やめろ! 終わらせないぞ! 終わってたまるか! 俺はこんな所で死ねない! ……誰も死なせない!



「【縮地】!【剛力】!」



 余計なことなんて何も考えない。俺と仲間に近づいてくる多腕ゴーレムにひたすら全力を叩き込め。手を出させるな。



「【堅牢】!」



 どうしても間に合わない時は俺が盾になれ。2人やミルドさんにあの威力を耐えられるとはあまり考えられない。



「【縮地】!【剛力】ッ!」



 何度も精霊魔法を使い、多腕ゴーレムを少しずつ減らしていく。火事場の馬鹿力か、疲れも何も感じない。何分過ぎただろうか?


 ……いや、1分も経ってないと思う。思考を加速してひたすら多腕ゴーレムを倒していく。5体を超えたところから数えるのは止めた。


 いざとなればここまで俺は思ったより戦えるらしい。ただ現在進行形で最初よりも数が増えている気がする。なら止まるまで倒し続ければ良い。



「【縮地】ッ!【剛り──ッ!?!?」



 不意に契約上書きを終えたばかり時とは比較にならない不快感が襲ってきた。全身の骨と筋肉が悲鳴を上げる。……これ、精霊、魔法の……使いすぎに、よる、代償……だ。



「がっ!?」



 後頭部に衝撃が走る。多腕ゴーレムに殴られていた。その隙を逃さないと言わんばかりに無数の手が伸びてくる。



「【け、堅ろ……グッ!?」



 【堅牢】を使う余裕もない。本当に、絶望的な状況だ。牙狼月剣で抵抗するが、核を潰せる訳もなく自分が死ぬまでの時間を少しでも延命させているに過ぎない。


 息付く暇もなく全身から痛みの信号が発される。壁に叩きつけられたりもした。……この多腕ゴーレムは、わざと力を抜いていじめる精神も持ち合わせているのかよ。


 ハズクやエフィー、微力ながらミルドさんの懸命な粘りも全て、多腕ゴーレム達にとっては遊びなんだろうな。俺が今こうしてやられている時間で、3人が攻撃を受けてない事がその通りだと物語っている。



『ソラァ!』


「主! どけ、どくのじゃ!」



 契約上書きでの圧勝から僅か2分も経ってない時間だろうか? 薄れゆく意識の中、ハズクとエフィーの言葉だけが耳によく残った。

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