第245話~4度目の契約上書き~
まさしくゴリラめ! と口走りたくなるような巨体が俺たち目掛けて迫ってくる。まずはドワーフのミルドさんを遠ざけねば! 巻き込んでしまう!
「【縮地】っ!」
だが……速い! すぐに【縮地】を口にして発動する。S級迷宮にいたイモムシ型のボスモンスターを覚えているかな? あれと同じぐらいの速さだ。
確かにコイツを1人で倒すためには、もう一段階俺の力を引き上げないといけない……エフィーのその認識は間違いじゃない。
「フッ!」
牙狼月剣の柄を握り、鞘から抜いて一閃。即興の抜刀術を再現してみせる。八本腕のキツネ仮面ゴーレム……長いから多腕ゴーレムと呼ぶ。
多腕ゴーレムの腕の1つに牙狼月剣がぶつかる。僅かに拮抗。一撃の威力は互角。……なら、八本も腕がある向こうが有利に決まってるよなっ!?
「ミルドさん、下がれ!」
さん付けで呼ぶも余裕の無さに命令口調になってしまった。だが一々気にしていられるような状況じゃない!
牙狼月剣と多腕ゴーレムの腕は互角。1回振るうごとに1本の腕を止められる。じゃあ残りの7本は何をするか……決まってる、俺への攻撃だ。
「【
反対側から伸びてきた拳が俺の横腹を捉える。痛みも衝撃も【堅牢】で軽減しているはずなのに声が漏れてしまった。後ろに飛んで威力を減らしつつ間合いを取る。
攻撃速度は【縮地】を使ってやや俺が有利。でも同じ時間での火力……DPSは、単純計算で8倍。……このままじゃ勝てないな。
「【縮地】!」
洞窟、そして広くひらけた場所と言う歪な空間を利用する。接近すれば腕が伸びてくる。だが……ほんの少し遅い!
ギリギリを狙って回避する。その隙を狙い、体重をかけて押した。小さな隙を大きな隙へ作り替える。
攻撃する手数が相手より少ないなら極論、相手に攻撃をさせなければ良いだけだ。多腕ゴーレムの腕のいくつかは崩れた体勢を整えるために無防備になる。
例えば地面に手を着いて体制を整えるためとか、倒れそうになるのを少しでも阻止しようと腕を変に動かしたり……倒れた時に生まれる致命的な隙を俺は狙うつもりだ。
「【剛力】ッ!」
牙狼月剣を多腕ゴーレムの側面から頭へ叩き込むッ! 生きている訳では無いから普通なら致命傷になる一撃も効かないかもしれない。だが……さすがに頭部はどうかな!?
「はぁっ!?」
だが多腕ゴーレムは崩れた隙を埋めようとすぐに起き上がろうとはしなかった。
むしろ、自分の意思で今からそうやろうとしていたかのように綺麗なローリングを決めて見せる。八本もある腕を器用に使い、絡まらせることもなく、だ。
「思い込みって怖いな……」
俺はさっきまでゴーレムを現代で言うロボットのように認識していた。だから転倒した際は起き上がるように、または倒れないようにする工夫をしてくる。
俺はその隙を突くつもりだったが……コイツはすぐに相手の攻撃を利用して、その次に繰り出される一撃を避けて見せた。
「そして、不味いね」
金属を守り、侵入者を見たら攻撃する……偏見が入っていたからだろうな。そう言う単純な判断しかできない、読み合いの発生する人や野生の勘が出るモンスターとの戦いより、ゴーレムとの戦いは格下と俺は侮っていた。
本来なら1人で絶対に勝てない強さだったが、その単調さを加味して、頑張ってギリギリ勝てるかどうか。そう予想していたんだけど……。
「【縮地】! 【剛力】ッ!」
真っ直ぐ突っ込み、正面から多腕ゴーレムの向かってくる腕に牙狼月剣をぶつける。先程と同じ僅かな拮抗。ただ違うのは、今回の一撃で多腕ゴーレムの腕の1つにヒビを入れたことだけ。
「少しずつ破壊すれば……っ!?」
伸びてくる他の腕をかわし、時間をかけて削っていこうと考えて出た俺の言葉は途中で詰まる。
「再生って……」
先程入れた腕のヒビが消えていた。核が頭か全体の中心部にあるのだろう。それを破壊しない限り、肉体は再生すると……。
瓦礫のように粉砕すればどうだろうか? 多腕ゴーレムは恐らく魔力でも使って動いているのだろう。くっつけることは出来ても、失ったものを増やすことは出来ないはず……そう思いたい。
「主!」
「分かった。ハズク、タイミング合わせてくれ!」
『やってやるの!』
さっさと契約上書きをしてしまった方が良いだろうと考えたエフィーが声で合図を送ってくる。ミルドさんも退避を完了していた。
俺が先程のような隙を作り出して1時離脱。ハズクが頑張って最大限の足止めをしている間に契約上書きを終えるようにしないと。
「【縮地】、【堅牢】」
会話の間に近づいてきていた多腕ゴーレムの一撃をガードする。当然、他の方向からも拳が飛んできているが、速さはこちらの方が上だ、問題ない。
動きも人間に近い。なら思い出せ、一香さんとの戦闘訓練を。一香さんは俺が1行動するのに3の行動をしていた。もちろん手加減した上でだ。
それと一緒だ。相手の方が手数が多い。それに対抗するように、自分より強い相手に勝つための訓練を、お前は最高の練習相手と2年間続けていたじゃないか!
ゴーレムだから単純で楽に勝てる。その目論見は外れた。だがコイツにちゃんと戦闘の意思があるなら、逆に意思のある者にしか効かないフェイントに引っかけることも出来るって事!
「がっ!? ……はは、問題ないよ」
速度と対応力はあってもまともに正面から全ての攻撃をいなすことはできない。ならばわざと隙を作り、一撃を正面から受ける。
【堅牢】は発動していたし、攻撃を受けると覚悟していたのもあって先程のように吹き飛ばされたりはしなかった。そして……。
「捕まえた。【剛力】ッ!」
腕を両手で抱きしめるように掴む。引き剥がそうと他の手を伸ばしてくるが、空中に持ち上げて振り回す。ガガガガッ、と巨体を壁にぶつけて阻止した。
「飛んでけ!」
砲丸投げのようにグルグルと回して勢いが付いた所でその手を離す。多腕ゴーレムは勢いよく飛んで行き、そして壁に叩きつけられた。
「ハズク!」
『仕方ねぇの。【鎌鼬】』
全力で走りエフィー達の元へ滑り込む。牙狼月剣で手を切ろうと思ったが、鋭すぎて血を出しすぎちゃうかもなとビビった俺はハズクに頼んでちょっとだけ血を出すことに成功する。
「エフィー!」
「うむ!」
切れた指から溢れる血をエフィーに向ける。エフィーが舌をチロリと出し、それを舐めようとした所で復帰した多腕ゴーレムが飛んできた。
「ハズク!」
『【
激しい風が渦巻き、衝撃波となって多腕ゴーレムへと放たれる。何か俺たちが不味いことをしようとしている雰囲気に気づいたのだろう。最短のルートでだ。
だからこそ、ハズクの攻撃がまともに当たる。一瞬の隙を作る程度の威力しかなくても、当たりさえすれば問題ない。そして俺は契約の上書きを行うことに成功した。
S級迷宮での輝久さんの言葉を借りるならそう……第二ラウンドだ!
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