第243話~とある洞窟のドワーフ~

 皆さん、俺達は今、パキステラ砂漠の道中で見つけた洞窟に居ます。ヴォルフ曰く、黒狼族の集落にこんな場所は無いそうです。


 つまり偶然この場所を発見したという事……もしかしたら、パキステラ砂漠に住む誰も知らない可能性も無くはないかも。


 だってわざわざこんな危険地帯を探索するような狂人が数少ない集落から生まれて、しかも生き残って報告して記録として残るなんて普通無いからね。


 つまりここは道の遺跡!? あぁ、夢が広がるよ! これぞ異世界! 異世界ライフを存分に堪能できる! やったね空くん!


 ……あぁそうです、そうなんですよ! 遭難したんですよ!!! よくよく考えたら集落に引きこもりだった2人に道案内させるのも変だったよ!


 でもなんか覚悟決めて堂々としたキメ顔浮かべてたヴォルフだったしぃ! 行けるなら指摘するのも野暮かなって思ってた結果がこれなんですけどねぇっ!?



『……いや、本当、すまねぇっす』


『兄様、実は私より馬鹿という事実を認めたら?』


『いや、実力も頭も負けてると認めるのは兄としての威厳が──』


『そんなもの最初から無いわよ』


「ルプスちゃん、事実だとしても言い過ぎ」


『ごめんなさいソラお兄様、でもいつか言わなきゃって』


『ごはぁっ!?』


「真実は人を時に傷つけるからの。まぁ我自身はその方が魅力が増すからわざと黙っておるのじゃが」


『うぐっ!?』


『なんか既視感あると思ったら、ちょっとソラに似てるの』


『「ごほぉっ!?」』



 予想外の流れ弾に被弾した俺と普通に直撃したヴォルフが呻き声をあげる。それにしても……洞窟と表現したが、どっちかと言えば人工的な空洞の方が気持ち的に合ってるかもしれない。


 なんか使い勝手の良さかな? それとも印象? とにかく人の手が加わってる感じがある。黒狼族の使用する洞窟じゃなくても、他の種族が使っている可能性も出てきたな。出会っても敵対しないようにしたいが……。



『パキステラ砂漠を拠点にしているのは黒狼族と豚人族しか居ないっすね。豚人族の方は端の端なんでちょっとパキステラ砂漠を出れば他の種族もいるそうっすけど、俺は見た事ないっす』



 という事で使っているとすれば豚人族で確定という事になる。彼らは奴隷制度を採用していて黒狼族のヴォルフ達も餌食になりかけた。出会ったらほぼ確実に敵対だな。



『だから不思議なんすよ。豚人族でも黒狼族でもない種族がいるのは』



 先程までの俺の心の中の前置きを全部無視してそう言うヴォルフが後ろを見る。そこにいたのはまるで少年のような体格をした老人だった。


 ただバイソンのモンスターから取っただろう茶色の毛皮の衣服を着て、手には採掘道具? を持ち、口元の周りから髭を沢山生やしている。


 肌の色は若干ススにまみれたように黒ずんでおり、この洞窟で何かの作業をして付いた汚れであることは間違いない。



『なんの種族っすかね? て言うかソラの兄貴みたいと一緒で獣耳が無いんすけど……』



 ヴォルフの言う通り、この老人には獣耳がない。種族によって形などは違うが、獣人族には全員生えているらしい。根元にも生えていた痕跡すらない。


 また、俺みたいに横から人のような耳も生えている。獣人でないことは確定だ。だが人間という訳ではない。エルフでも無いし……俺も見たことがない種族だ。



「あ~……」



 エフィーが声を漏らす。どうやらその反応を見るに、正体に気がついたようだ。俺の想像と合っているなら、エフィーの反応にも納得が行く。



「ドワーフ、じゃな」



 へぇ、言うのか。何故知っているんだとヴォルフ達に疑惑を持たれるより、目覚めたドワーフ側から精霊だと騒がれるのを防ぐため先手を打った感じか。



『ドワーフ!? 精霊の眷属の……なるほど、確かに聞いた話通りの風貌っすね』


『危険じゃないの?』


『ソラの兄貴がいるのに危険だなんて自体が起こった時には、既に俺たちはとっくにお陀仏っすよ』


『あぁ、それもそうね』



最初にその正体を聞いたヴォルフは驚いたが、俺の存在ですぐに落ち着きを取り戻した。と言うか2人からの信頼が厚くて辛い……。


 ともかく、道に迷ったのでわざわざ外に出て無駄に体力を使うよりも、ドワーフに道を聞いた方が良いだろうと考えた俺たちはこの洞窟に留まることに決めた。



『ぬ、ぐ? ……な、なんじゃあお前らァァァ!?』



 しばらくするとドワーフが目覚める。俺たちを視界に捉えた瞬間に採掘道具を持った手に力が入る。と同時に跳ねるように起き上がって距離を取りつつ警戒をしてきた。



「落ち着くのじゃ。それでも精霊の眷属たるドワーフなのかの?」


『なんじゃとっ!? ……お、お主まさか──』



 ドワーフが目を見開いて声を上げようとしたが、エフィーから向けられる視線である可能性に気づいたのか驚愕の表情を浮かべる。



「我はエフィー。こっちは空で、後ろの黒狼族2人がヴォルフとルプスじゃ。で、そちの名前はなにかの?」



 精霊なのか? その質問をドワーフから直接口にさせないため、エフィーは自己紹介をして妨害した。精霊から自己紹介の促しをされては、眷属であるドワーフは従うしかないだろう。



『ぁ……ドワーフ族のミルドじゃ』


「ミルド……じゃな。ミルドよ、ここはどこじゃ? 我とその一行は黒狼族の集落に行きたいんじゃが迷ってしまっての」



 エフィーの見立て通り、ミルドはドワーフらしい。ヴォルフとルプスの表情が強ばったことが横目で見えた。聖戦で敵対した種族の眷属だと判明したんだから当然か。


 俺達が平気で会話している事も不自然だ。……まぁもう良いか。バレた所でヴォルフ達は俺達と敵対したり裏切ることは出来ない。もしドワーフと通じていたことで裏切られたら……その時はその時だ。



『黒狼族の……あぁ、それなら分かりますのじゃ。ですがその前にいくつか、お願いを聞いてはくれないじゃろうか?』


「ほう。話してみよ」



 ミルドはヴォルフ達の集落の場所を知っているらしい。その代わりにお願いを要求してきた。確かにドワーフが敵対しているだろう獣人族達の近く……しかもこんな所にいるのは不自然だ。


 何か事情があるんだろう。精霊だと分かっているにも関わらず頼らなければいけない何かが……。ミルドはヴォルフ達2人を見て躊躇いの表情を見せた。



「すまんのヴォルフよ、妹を連れて少しの間離れていてはくれんかの?」


『了解っす。ルプス、行くっすよ』


『ソラお兄様、できるだけ早く済ませてね』



 エフィーからの言葉でヴォルフとルプスが洞窟の入口あたりまで出ていく。それでも黒狼族の耳だ。洞窟であることも考慮して反響した声が意図せずとも聞こえそう。



「ハズク」


『仕方ねぇの』



 という訳でハズクに頼んで風の膜を張ってもらい、会話が外に漏れることを防ぐ。これで精霊や精霊王とかをヴォルフ達の耳に入れて、俺たちの方から地雷を踏み抜く行為は犯さない。



『ふむ……まず、ワシはある金属を探していての。オリハルコンと言う金属じゃ』



 俺でも何となく聞いたことがある伝説級? の金属の名前を口にしたミルドがさらに語り始めた。

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