第242話~いざ黒狼族の集落へ!~

 宿を引き払い、預けていたサンドリザードに乗った俺たちはパキステラ砂漠を悠然と闊歩していた。


 あ、ハズクが調子に乗りすぎた結果出血で死にそうな人達は軽めの《回復》を掛けておいたので安心して欲しい。


 今頃は彼らも民間人に発見されてるかどうにかなってるだろう。


 俺たちが指名手配などの配備がされるかもしれないが、ヴォルフ達のは被害者側が取り下げるだろうし、俺も変装をしていたのでバレる事は無い。


 エフィーは元々姿を見せてないし、最悪何もかもがバレても俺たちは別の世界での人間で、思い切り敵にあたる存在だ。どうでも良い。


 ……なら今からすることって敵に塩を送る行為になるのかな? いやヴォルフ達を敵って断定するわけじゃないけどさ。


 そもそも黒狼族の長を邪魔する手伝いだし塩を送る行為じゃないよね?



『ソラの兄貴、もう少しあっちっすよ』


「おっと悪い。もう少しこっちだそうだ、頼む」



 ヴォルフの指示を聞き、俺は手網を持ってサンドリザードを誘導する。なんて従順に従ってくれる生き物だろうか。ハズクなんかよりよっぽど可愛く思えてきたぞー!



『はっ! 今ソラからバカにされた気がするの!』


「安心しろ。直接下げてはいないから」


『つまり相対的に下がったってことなの!? 理不尽なの!』


「あでででっ!?」



 ハズクの奴がキツツキのようにクチバシで突ついてくる。おい、これは理不尽に入らないのか? ……入らないのね。



『兄様、ソラお兄様。集落に戻って、それで……どうするつもりなの?』


『よく分かんないっすね。母様が生きている保証は無いっすし、でもどっちにしろ父様の元と前のように暮らすことは不可能っす』


「そうだね。でもヴォルフはどうにか区切りを付けたいって思ったんだろう。そうしなきゃ前に進めないから」


『そうっす。やるにしても今回の家出みたいじゃなく、ちゃんと絶縁状を叩きつけてやるつもりっすよ』


『……そう。なら私も』



 ルプスちゃんは笑顔でヴォルフを肯定する。さてさて、新しい目標は決まったな。……あれ、俺の目標って異世界から日本に帰ることなんだけど?


 ただゲートを見つけないことには帰る目処が立たない。他の帰還方法も思いつかないし、黒狼族の集落に行けば新しい情報も手に入るかもしれないし……そう思っておこう!



「主~、お腹空いたのじゃが」


「確かにもう日もほとんど暮れてるから……ってお前は食事しなくて問題ないだろ!?」


「気分の問題なのじゃ!」



 エフィーからの提案に突っ込む。……あぁ、お腹も空いてきたな。多少は我慢できるが、ヴォルフとルプスちゃんの方までは分からない。


 今食欲があるかも分からないが、それでも食事はしないといけない。だったら用意すべきだろう。……遠回しなんだよ、いつもお前は。



「エフィーに言われたら腹が減ってきたな。ヴォルフ、ルプス、ちょっと悪いが止まってくれ。食料調達してくるわ」


『了解っす』


『お願いするわソラお兄様』



 という訳でエフィーに索敵してもらい、ヴォルフ達と出会うまで大変お世話になったバイソンのモンスターを見つける。すぐに討伐して持って帰ろっと。


 あーそう言えば、ヴォルフにはエフィーとハズクの正体が精霊だってバレてるかもしれない。精霊って種族が存在していると言う知識があればの話だけど。


 食事をしないあんな姿をした2人と似た種族が精霊以外であるとは思えないし。ルプスちゃんは姿を見れないし確証は持てなそう。


 ただ、俺たちの正体の詮索は無しと約束してある。その約束が果たされるかどうかは……今の関係上的に、違えないと思いたいな。出会い方的に隠すのはほぼ無理だし、隠す労力も高いからな。


 そんな事を考えているうちにバイソンのモンスターはいつの間にか討伐しており、ヴォルフ達の元へと帰宅していた。



『ソラの兄貴おかえ──……』


「ただいま……どうした?」


『……ソラの兄貴はゲテモノが好きなんすか?』



 ヴォルフの一言で盛大に傷ついた俺は膝から崩れ落ちた。
















『いや、まさかあれが1番美味しいと思ってたとは思わなかったんすよ!』



 ヴォルフが慌てた様子で弁明してくる。……そうだよね、1集団が数日出歩いただけで何百年と暮らしてきたヴォルフ達先祖の考えた料理に勝てるはずないんだよ。


 俺が見つけた中じゃ1番美味かったコイツですらゲテモノ扱いか……確かに宿の飯は普通に美味かった気がする。あまりちゃんと味わった記憶が無いから朧気だけど。


 マジかよ……いや割とマジでバイソンモンスターを砂漠地帯の食の癒しと考えてた俺の理性が悲鳴を上げたんだが? という訳でヴォルフに砂漠で食べられる生き物のレクチャーをしてもらおう。













「嘘だっ!!!」

『嘘なのじゃ!!!』

『嘘なの!!!』


『本当っすよ』



 俺達は初日に出会ったオアシス型のモンスターの前でそう叫んだ。無情にもヴォルフに即否定されたが。


 だって倒したら変な色の触手とヘドロみたいな液体になるんだよ!? 臭いもすげぇ臭かったし! え、何何? ……こ、これが砂漠の珍味だと!?


 毒々しい見た目の触手は程よい食感と歯ごたえがあり、ヘドロも臭いがキツいがそれも10分ほど放置するだけで消え去る? 残ったヘドロは味噌みたいに汁物などの強いお供として格別? もちろん触手にも合うだと!?












『あ、プリプリしてて美味しいわ』


『軟骨みたいな部分も美味しいっすよ』



 ルプスとヴォルフから大好評なオアシスモンスターを俺達は無言で口に運ぶ。



「……美味い」



 俺は再び膝から崩れ落ちて、ついでに頭を抱えた。こうした大きな挫折や絶望、新発見をしつつも、俺達はパキステラ砂漠を進み続けた。そして無事に……遭難した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る