第233話~傭兵登録~

 その日の夜、ベッドは1つだったのでルプスちゃんとヴォルフ、それに妖精姿のエフィーを寝かせて俺は床に座り込んだ。



『あれ、ソラの姉貴も一緒に寝るっすよ?』


「え? 狭くない?」


『不躾に匂いを嗅いでくる奴はいないと思うっすけど、念の為に獣人の匂いを擦り付けておくためっす』


「なるほど……でもルプスちゃんがいるし」


『問題は少し狭いぐらいね、ソラお姉様』


「男と寝床が一緒はさすがに──」


『ソラお姉様なら安心だわ。さっ、寝ましょうお姉様』


「あ、はーい」



 という訳で4人で1つのベッドを使うことになった。うん、狭い……圧倒的狭さ! 寒暖差から予想以上に体感では冷えて感じる夜の砂漠だが、ここだけ普通に暖かいぞ。


 なんて考えているうちに、3人はすぐに眠りについていた。何日も砂漠の旅を続けてたんだ。疲れてたんだな……俺もだけど。


 3人の寝顔が月日に照らされて眩しいくらいに輝いて見える。子供も信用できない異世界で、この3人と1匹だけは信用したい……俺はそう思いながら眠りについた。



***



 翌朝、身だしなみを整えた俺たちは宿で朝食を済ませる。



『お金は結構あるっす。だからギルドでお金を稼ぐ必要が無いのは良いっすけど、情報も沢山収集できるんすよ。でも俺たちが行くと目立つっす。ソラの姉貴はどうするっすか?』


『情報……ソラお姉様が1番欲しい物のはずです。私はソラお姉様に着いていきますよ。種族がバレて奇異の目で見られようと構わないです。ソラお姉様が守って下さるでしょう?』


『ソラに着いていくのは賛成なの。でも常識が無いから色々やらかしそうなの。ヴォルフとルプスの2人は本当に頼むの』


「行くなら主は極力出しゃばらないようにするのじゃ。黒狼族の2人は珍しいから誘拐しようとする者はおるじゃろうが、襲われてから主が止めれば良い。じゃが主に耳が無いことが知られればそれ以上の騒ぎとなるのは間違いないのじゃ」


「いやお前ら……まず行くのは病院だからな」



 という訳でギルドなどは後回しにして病院の方へと向かう。宿から離れていき、病院が近づくほどにレンガ造りの家などの景色が綺麗になっていく。



「ルプスちゃん、もう上手く歩けてるね」


『……でも、お兄様とソラお姉様の助けは欲しいわ』



 最初は平衡感覚も取れずフラフラと倒れそうでおぼつかない足取りだったルプスちゃんだが、今では手を引けば普通に付いてくることも出来るようになっていた。獣人だからだろうか、感覚が優れているようだ。


 病院に付く。何やら読めない文字でそう書かれていた。だが不思議と病院って書いてあると読めたのだ。これもエフィーと契約した力の1つだな。


 受付の人に話しかけると怪訝な表情で俺たちの方を見てきた。きちんとお金を払えるかの値踏みをしているのだろう。とりあえずヴォルフが袋に詰まった硬貨をガシャりと音を立てながら取り出すと、すぐに医師の方を呼びに行ってくれた。



『結論から言えば、光を取り戻すことは二度とないです』


『っ……』



 診断の結果、ルプスちゃんはそう告げられる。だが傷が綺麗だったこと、奴隷商人に丁寧に扱われていたこと、俺の《回復》が効いていたことから、表面上の怪我は治るだろうとの事だ。



『……分かってたっす。もうルプスの目が戻らないことは。でもどこかでちょっとだけ期待してたんすよ。もしかしたらって……でも、無理だったっすね』


「俺がもっと強い魔法を使えたら、光を取り戻すことも可能だったかもしれない。力になれなくてごめんな」


『……2人とも落ち込まないでよ。表面上の傷が治るなら十分よ。目が見えなくても2人に助けてもらえれば良いもの』



 俺たちが落ち込みながら病院を後にすると、1番辛いはずのルプスちゃんが励ましてくる。目は見えなくても彼女は俺たちにニコリと微笑みかけてきた。



『る、ルプスー!』


『え、やだ』


『がはっ!?』



 感極まったのか抱きつこうとしたヴォルフの気配を完璧に感じとったルプスちゃんがビンタを食らわせる。この子、目が見えてたらこの歳でB級はあったんじゃないか?


 泣きじゃくるヴォルフを適当に慰め、改めて話し合いの機会を作る。その結果、ひとまずの目的はウルガルスの街にあるギルドでの情報収集となった。


 黒狼族で目立ち危険な目にあう確率も高い2人だが、バレればより危ない俺達の正体を露見させない為にも動いてくれるらしい。


 正体については人間と精霊とは気づいていないはずだ。だって500年ほど前まで戦争で敵対していた相手なんだから、知っていたら仲良くする理由がない。


 獣人はいずれ地球に攻めてくる敵で、今はお互いに利用するだけ……俺たちの正体がバレるまでの、仮初の信用関係。



『ソラの姉貴、どうしました?』



 いつの間にかギルドの前まで着いていたらしい。隣には酒場が併設されており、情報を得るには夜の方が打って付けだな。



「なんでも無い。入ろっか」



 レンガの造りにしては珍しい木で作られた扉を押して開け、ギルドの中へと入り込む。



「思ったよりひんやりとしてるな」


『貴重な魔道具が使われてるからっすね。ギルドの涼しさ目当てで傭兵登録をする人もいるくらいっす』



 魔道具……日本にも魔道具に当たるものがあったが、異世界にも同名で翻訳されるような物が存在しているのは驚きだ。


 ……いや、エルフの里では普通に魔法もあったし、違うのは世界の地理と種族だけかもしれんな。太陽も1つで朝と夜の概念もある。呼吸もできるし……色々と都合が良くて助かったと思うのが正直な感想。



『傭兵登録をお願いするっす』


『私も……』


「わ、私もだ」



 ヴォルフがフードを被った状態で受付嬢の人に話しかける。手を繋がれていたルプスも遅れて声をかけ、最後に俺が若干オドオドしながらも告げた。



『登録料はお一人につき銀貨3枚です』



 俺たちの方を値踏みするように見てきた受付嬢が適当に告げてくる。子供の冷やかしだと思われたのか、払えなさそうな身なりだったからか……まぁ銀貨3枚ぐらいなら出せる。



『どうぞっす』



 最初に俺が預かっていた財布(今は呆れられてヴォルフに託された)からヴォルフが金貨を取り出して机に出す。



『っ……では、こちらの用紙にご記入下さい』



 出された金額に思わず目を見開いた受付嬢だったが、冷静に受け取り紙を渡してくる。という訳で記入していくぞ。


 書くのは名前、種族、性別、歳、ランク……探索者で言う等級かな? は一律Fから始まるらしい。実力が高かったり特別な技能を申請して認められればもっと高いランクから始めることも可能らしいが……。



『ヴォルフ、黒狼族、男、13歳でFランク』


『ルプス、黒狼族、女、13歳でFランク……兄様、書いてください』


『任せろっす』



 最初に2人がスラスラ……正確には1人が書いていく。エフィーとハズクは小さくなって隠れているので登録はしない。



「ソラ、猫耳族……お、女、19歳でFランク」


『ソラお姉様19歳だったの!?』



 俺の言葉にルプスが驚愕の声を上げてくる。ヴォルフもルプスの声で冷静になったらしいが、よっぽど驚いたのだろう。……ごめんね、予想以上の箱入り娘ぶりで。


 そんなこんながありつつも俺たちは傭兵登録をした。その後は軽い説明を受ける。周りに迷惑をかけないでね、傭兵の死体から遺品を回収したら半分は自分のものだよ、のような物だった。



『おや、君たちは……昨日ぶりだね、ウルガルスの街には慣れたかい?』



 その途中、偶然か必然か門番をしていた狐人族の人と再会する。

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