第231話~お互いの目的~

 フードを被った俺、ヴォルフ、ルプスちゃんの3人は地面に広げられたマーケットのような市場を通り過ぎ、服屋の方へと向かう。エフィーとハズクはいつも通り隠れてもらっていた。


 さて、服か。待て、別に男物でも良いんじゃないのか? 外套がいとうを着てたら男か女なんてバレないし顔を見せたら女性扱いされるんだろ?



「なんて考えておるようじゃが許さんぞ主。中途半端が1番良くないのじゃ。やるなら徹底的にするべきなのじゃ」



 訓練中に1番俺が一香さんから指摘された事と同じようなことを言ってくる。ついでに今回の女装に拘る変な執着も似てやがる。一香さんとエフィー、混ぜたら危険だな。


 そういう訳でなんだかんだありつつも、ヴォルフ達全員分の服を買い揃えることにも成功する。お金は奴隷商人とさっき襲ってきたチンピラから巻き上げて結構あるから気にする必要も無い。



「むむぅ、できる限り男性向けに近づけたようじゃな主よ」


「これでも一応女性用だぞ?」


「はぁ、我は偉いからの。それで我慢してやるのじゃ」


「はいはい」



 色も形も派手さの欠片もない、ただ肌を隠すだけのシャツとズボンを履いた俺を見たエフィーがシケたツラをしてるが構うもんか。


 ちなみに外套も新しいのを購入してある。せっかく服を買い替えたんだしな。これで洗って使いまわせる。


 あと人間の耳も隠せるように、頭の後ろで紐を結び口元を覆う布も用意した。これで人耳は隠せるし、布越しなので俺の男声も分かりずらくなるだろう。



『ソラの姉貴はなんと言うか……凛々しい女性って雰囲気っす。異性より同性にモテそうな感じっす!』


『私も見たかったわ……』



 ヴォルフの発言はつまり、女性にモテやすいってことだよな? 今はモテても嬉しくないよ……あとルプスの言葉が地味に心を抉る。


 その後、俺は外に出てルプスちゃん達に着替えを待った。その間にちょっとした出来事があって落ち込んだが、それは後で話そう。


 話を戻そう。ルプスちゃんもエフィーにお着替えを手伝ってもらい新しい服へと衣替えする。そしてヴォルフの手を取った。あと俺の手も。



『兄様とソラお姉様が、私の目の代わり。えへへ』



 なんて言われては断れるはずもない。広がって歩くことで印象は悪いが仕方がないだろう。外套3人組だからだろうか、周りの人達の方から離れてくれる。


 それにしても右を見ても左を見ても獣人ばっかだ。異世界でもここは獣人族の住む街なのだろうか。逆にこんな砂漠にエルフとかが居ても驚くけどさ。


 あとオアシスを中心にしているからか、気温も低くて涼しく感じた。なので気分よく、宿と同様に日干しレンガで造られた建物群を通り過ぎ宿へと戻る。



「……美味いな」


『そうっすね……』



 日が沈み夕ご飯時となったので夕食を頂く。固くスカスカのパン。焼かれたお肉を薄くスライスしたもの。ドロっとしたペースト状の何か。水分が欲しくなるが水が出てくる訳ない。酒がメニューにあったがさすがに飲まないよ。



『ソラお姉様』


「はい、あーんして。入れるよ?」


『あむっ……』


「……美味しい?」


『うん、美味しいわ』



 目が見えないルプスについては同性の俺が食べさせている。人目があるから仕方がない。自室で食べることを考えたが宿の従業員に却下されたのだ。


 従ってヴォルフは自分が食べさせることもできず、エフィーも食事を楽しむことができず歯ぎしりしていた。


 目が見えないため口を開けるように促し、舌の上に乗せて斜め上に向かって引き抜く。分かりにくいが喉仏が上がってゴックンしたことを把握してから話しかけ、味やペースについて確かめた。


 幸いにして、将来水葉に対してもする可能性を考えて習っていたことが役に立ったようだ。ルプスも笑みを浮かべてくれる。



「さて、それじゃあ改めてお互いの要件を出し合おうか」



 そんな調子で夕食も食べ終わり、自室に戻った俺たちは部屋で円を作って話し合いを始める。



「まず俺たちの方からで構わないか?」


『えぇ。ソラの姉貴の方からお願いするっす』


「今に至っては女装すらしてないんだが……まぁ良い」



 人の目もないので普通に耳や尻尾も取り外し、男の格好に戻っていた俺を姉貴と呼ぶヴォルフに落胆しつつ話を切り出す。



「2人は異界へ続く門……禍々しく、魔力の塊で出来た通り道を見たことはあるか?」


『……いえ、無いっす』


『私も』



 ゲートの存在は知らないらしい。……初手からつまづいてしまった。もう聞くことがないんだが?



「俺とエフィー、ハズクはそのゲートを探してるんだ。それを通って、向こうの世界に行きたい。だから各地を巡る旅をして、時々街に寄りながらお金を稼ぐ。……ひとまずの目標はそれかな」


「あとこっちの世界での美味しい食材を主に調理させて食べたりもしたいのじゃ!」


『それにはハズクも賛成なの。美味い食べ物あったら教えろなの』



 俺の簡単に纏めつつちゃんと整えた目標を、上から強引に塗りつぶされた。酷い……。



『なるほどっす。次は俺たちの方っすね……ソラの姉貴たちに言えない事情があるのは理解してるっすよ。でもそれは俺達も同じっす……』


『私たちは、ソラお姉様と共に旅をしたいの。遠くに行きたい。このパキステラから離れたどこか遠くに……』


『できればウルガルスの街からも早く出たいっす。でもそれは無理っすよね。砂漠超えは大変っすもん。……時間は掛かっても良いっす。だから改めて……ソラの姉貴達の旅の仲間に加えて欲しいっす!』



 ハッキリと耳に残る強い声、強い意志が感じられた。俺たちに事情があるように、向こうもこの辺りに居たくない事情があるのだろう。だが、その内容に関して言えば断る理由がない。



「あぁ、こちらからお願いしたいぐらいだ。少しの間この街に留まって、また何処か遠くへ行こう」


『あ、ありがとうソラお姉様っ』


『一生着いていくっす!』



 俺たちだけではこの世界を移動するのに大変苦労するだろう。でもヴォルフとルプスちゃんの2人がいれば知識や一般常識で間違えるようなことはないはずだ。


 共に目的もなく遠くまで旅をする。そんなスローライフを頭の中で想像して、すぐに掻き消した。何故か? この世界は俺の常識が通用する世界じゃないからだ。


 それじゃあ先ほどあった出来事を思い出そう。

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