第214話~いざ、S級迷宮へ~

 あれからすぐベットに入った俺は寝ることには無事成功する。しかし決して睡眠の質が良いとは言えない状況だった。寝具は高級そうだし良い奴だから、これは俺の気力の問題だよ。



「うん、大丈夫。笑えてる……今日は何も予想外のことが起こりませんように」



 洗面台で笑顔の練習をした後、俺は小さくいると信じてもいない神と呼称される存在? 概念? だかに口だけ祈る。


 別に宗教を否定しているわけじゃないぞ。居るとは言ってないし、居ないとも言ってないだけだ。ただ一香さんはお参りをしたのにS級迷宮で亡くなった。


 だから少しだけ冷めているのかな? まぁ、心の支えとして一端を担っていたからこその感情だけど……さっきの行動も同じか。



***



 探索者組合本部のフロントに集まると、そこには既に全員が集結していた。S級探索者の平塚さん、帯刀さん、吉田さん、烈火さんとA級の琴香さん。



「やぁ空君、よく眠れたかい?」


「はい」


「養護施設で取った少女の写真いるかな? お守りにどう?」


「いいえ」


「空君との共闘って初めてだね。お互い頑張ろう」


「頑張りましょう!」


「怖くなったらお姉さんに言いなさいよ~?」


「もしもの時は頼りにしてますよ、一香さんの親友だったんですから」


「無理しないでくださいねっ?」


「琴香さんもですよ? D級迷宮の時のような事はやめてくださいね」



 それに見送りをしてくれるつもりの大本さん、氷花さん、最上のおっさん、大地さんらの探索者仲間。



「……あまりご大層な事は言えません。ですからどうか、死なないで下さい」


「必ず」


「そ、空……その、頑張ってね?」


「……うん」


「昨日言うべきことはちゃんと言った。行ってこい」


「えぇ」


「……俺が行けなくて悔しいよ。だから篠崎君……託したよ? 絶対に勝って来てくれ」


「当たり前です。大地さんの思いは受け取りました」



 ヘレス、ララノアちゃん、アムラス、クルゴンさんらエルフ達。



『あんたならまぁ、大丈夫でしょ? 軽く応援くらいはしておいてあげるわ』


「ありがとうヘレス」


『お姉ちゃん昨日からず~っとソワソワしてたよ。お兄ちゃん頑張ってねっ』


「ララノアちゃんのお陰で元気でたよ。ありがとう。そっかそっか~、ふーん、ヘレスがねぇ」


『あ、ヘレスが何故か俺を睨んでる。ちょっとサンドバッグになってくるわ。あと頑張れソラブァっ!?』


「おぉアムラスよ、死んでしまうとは情けない」


『君の帰還は種族一同待ちわびている。ちゃんと帰ってきなさい』


「もちろんです」



 翔馬とエフィーも手を繋いで俺の方を見ていた。



「僕は君をいつも心配してた。それはどれだけ強くなっても変わらない。だから……これからも心配し続けさせろよな?」


「おう。エフィーのこと任せたぞ」


「主ならば何も心配あるまい。帰ってきたら……そうじゃな、我のハグでもプレゼントしてやるのじゃ!」


「それお前がしたいだけだろ? ……おい、こっち見ろよ」



 ちなみにハズクはララノアちゃんの手の上……ではなく俺の荷物バックに入ってる。エフィーは連れて行けないが、代わりにハズクがいるのだ。



「面倒くさいの。ダルいの。精霊王様に頼まれなかったら絶対に着いて行かなかったの。でも行く以上はしょうがないの。泥舟に乗った気持ちでいろなの」


「ダメじゃん……」



 そんな気だるげそうなハズクの言葉にツッコミを入れる。ちなみに胸ポケットはエフィーが勝手に専用にしてたから使えないので、ハズクは武器や少量の食料などを入れたバックに入ってるぞ。


 それから数分もしないうちにS級迷宮攻略のために俺たちは移動を開始した。車に乗って1時間ぐらいかな? 東京都内のはずなのに山や森林が見えてくる。



輝久てるひささん、あれがそうなのかな?」


「あぁ、すぐる君も名前ぐらいは聞いたことあるんじゃないかな?」


「……あれがS級迷宮の発生源、高尾山ですか」



 高尾山。東京に存在する山の一つで山登りとしても比較的ポピュラーな山だろう。ケーブルやリフトを使えば1時間ほどで済むため、子供でも安心に行ける。また外国人の観光客もよく見られるらしい。



「あそこのごまだんご、美味しかったですよ~」


「天狗焼ってお菓子もありましたね。氷花が頬張る姿を写真で撮りたくなりました」


「幼女達が棒に刺さった白い玉を頬張る姿……確かに最高ですな」


「とことん死ねば良いのにと思うわ~」



 吉田さんの出した話題の食べ物に対して、自分の欲望を擦り付けた帯刀さんに、吉田さんからの辛辣な言葉が襲いかかる。



「帯刀さん、本当に捕まらないでくださいよ?」


「分かっているとも空君。妄想と現実、2次元と3次元の区別ぐらいついているさ。だからこそ唆るんだ」


「などと申しておりますよ、吉田さん」


「シベリア送りです~」



 徐々に近づてくるS級迷宮から発せられる魔力の圧。それを肌で感じ取って発生する嫌な空気を和らげようと、皆が冗談を言い合う。……帯刀さんは本気かもしれない。


 それよりも琴香さんが心配だ。先程からずっと黙りこくってしまっているな。到着して車から降りると肌がピリピリしてきた。魔力の圧が凄い……。



「琴香さん……」


「……」



 声をかけてみても反応は返ってこない。う~ん……えいっ! 俺は琴香さんの両頬をつねってみた。



「っ!? ……そりゃくん?」


「1番危険なのは琴香さんです。プレッシャーも分かります。ですがしっかりしてください。……それとも俺がお手手でも繋いだ方が良いでちゅか~?」


「~~っ! ばばば、馬鹿にしないでください。こう見えて私、お姉ちゃんなんですから!」



 琴香さんは強がりながらも、体を震わせながらも気丈な態度を見せる。体はまだ硬そうだが、先程よりはまだマシにはなっただろう。



「その意気です。……もし攻略でもそんな態度をしていたら、後でおしおきしますからね?」


「そ、空君のおしおきですかっ? それはそれで……」



 なんで嬉しそうなの……? 発破を掛けるつもりが逆効果になっちゃったかも……。



「と、とにかく足を引っ張ったりはしませんよ! 見ててください!」


「えぇ」


「それはそうと……迷宮に入るまでで良いので手、繋いでくれませんか?」



 俺は最後の発言に肩を落としながら、琴香さんの手を繋いだ。……周りの視線が若干痛いが、まぁ許容範囲内だ。



「空君タラシですねえ~、そうやって一香とも私以上に仲良くなったんですか? 嫉妬しちゃいます~」


「い、いえ。ただ家事をこなしただけですよ」



 吉田さんから弄られるが、俺は目を逸らしながらも否定した。その回答が予想以上に現実味を帯びていたのだろう。あぁ……と言った視線が集中する。


 そんな終始和やかな雰囲気で、俺たちはS級迷宮のゲートを潜り抜けた。



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【悲報】

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