第207話~武器の融通~

「おぉぉぉぉぉぉっっっ!!! ありがとう空君! 大本と秘書の奴に大量の仕事を投げられて買いに行けなかったんだが、君がいて本当に良かったよ! 売り切れで遠くまで探してきたらしいねっ! 本当に感謝してるよっ!」


「いえ……」



 ナタリーとの出会いは隠して遅れた理由を話すと、平塚さんは感激して涙を流しながらお菓子の特典を開封していく。


 騙すのは気が引けるが、平塚さんの事だ。責任を取らせる! なんて言われたら困るので誰も傷つかず、俺の印象がちょっと良くなるようにしておいた。お互いウィンウィンでしょ!



「うおぉぉぉっ!!! 推しだっ! 推しのレアカードが出たぞっ! 早く部屋に飾らなければっ!」



 はしゃぐ平塚さんに心の中で「おめでとーございまーす」と呟く。それよりも武器の方を……あ、これ全部開封するで待たなきゃダメなパターンだな。



「ふぅ、ありがとう空君。余ったお菓子は分けて食べるから安心したまえっ!」



 何故か当たり前のことを告げてきた平塚さんに疑問を持つが、ネットで調べてみるとオマケだけ取ってお菓子を捨てるような輩がいるらしい。全く勿体ない……。



「所で俺の武器の都合はつきましたか?」


「あぁ、それがねぇ……良いものはたくさん見つかった。ただし探索者組合本部が保管しているものではなくてね」


「つまり無いんですね。俺が使えるような短剣は」


「済まないね……双剣に至っては空君からすればおもちゃレベルの物しか無かったよ」



 双剣については当分の間は諦めていた。使う人も少ないから需要も無い。良い素材をわざわざ使う人の少ない双剣にするような酔狂な人もいなかった……。


 ただ、短剣も無いのはちょっと想定外だな。海外の物を取り寄せるにも、莫大なお金と時間が掛かる。……予備の短剣を大量に持ち歩いて双剣モドキとして使うべきか?


 だが質の悪い短剣だと、それなら直接殴った方が良いだろ、と言う結果になりかねん。S級の身体能力だけでもある程度は戦えるだろうが……はっきり言って自殺行為だ。



「本当に、どうしたものか……。中堅どころの組合にA級の短剣使いならいるが、そのメイン武器を貸してくれなんてとても言えないし……本当に頭を抱えたよ」


「……どうしましょ?」


「どうしようか?」



 俺の使える得物が見つからない。つまり話は平行線だ。ずっと手を付けてこなかった一香さんの遺産と、水葉を治すために貯めておいた、主にエフィーと一緒に採った魔石のお金に手を出すべきか……?



「本部長、お、お客様です」


「なんだ大本。そんなに慌てて」


「マテオ・キングさんがまた来ました」


「「は?」」



 マテオ・キングって……あのEX級1席の? なんで日本に、なぜ今このタイミングで……? まさかエルフ達の存在がバレた? だとしたらまずいな。


 日本のS級が集まっているけど、無理やり奪おうしてきたら勝負になりそうなのは平塚さんだけだ。その平塚さんも迷宮攻略から離れて長い。……もし想像通りなら詰んだな。


 ひとまず俺は退出し、平塚さんと大本さんが急いでマテオ・キングが入れるように部屋を整える。大きな音したら飛んでこよっと。そう考えながら俺は自室へと戻った。



***



 さてさてさーて、空君に買ってきてもらったお菓子のオマケを楽しく開封していたらまたマテオ君が来たよ。昨日も急に来日して簡単な挨拶だけして帰ったけど、何かあったのかな?


 普通に娘さんと観光するとしか聞いてないんだけど……まさか娘さんが狙われた? いや、あのマテオ君が付いててそんなミスを犯すはずが……ふむ、理解不能だね。



『昨日ぶりだなミスター輝久てるあさ


『マテオ君、今度は一体何の用だい? こう見えて俺も忙しいんだけど』


『そう邪険にするなよ。昔はEX級で1席と2席だった仲じゃないか』


『俺が今現役復帰したら頑張っても4席か5席ぐらいじゃね?』



 EX級はS級と比べても化け物しかいないけど、中でも3席までの3人は別格だからね。あれはもう怪物だよ怪物……。


 彼らが集まったらS級上位の迷宮に潜っても攻略出来るんじゃないかな? まぁ、S級上位の迷宮に潜ったことがないから想像でしかないけど、そう思わせられるだけの実力だしね……。それで攻略できないなら世界は終わり!



『確かにそれは言えてるな。おっと、実はな、ある青年に迷子の娘を救われたんだ』


『そりゃあまた……で?』



 娘さんが迷子になったけど日本の若者に助けられたと。もし見つけたのが帯刀君だったら少々危なかったな。彼は変態な紳士だけどイメージ的にアウトだからね。


 それよりも、つまりあれかな? お礼をしたいから俺に探して欲しいのかな? 



『連絡先は貰ったんだが……考えてみたらS級並の強さだったんでここに来れば会えると予想した』


『S級並……?』


『あぁ。とりあえずお礼に何を渡すべきかと考えた結果、100万ドルの小切手でもと思ってね』


『高くない?』


『むしろ安いさ。これを早く渡したくてね。名前は空と言っていた。知ってるか?』


「篠崎空君、至急、本部長室まで来てください」



 私は会社の呼び出しを使って空君を召喚した。それにしても空君がマテオ君の娘さんを助けていたとは……。さすがだ空君! 同じロリコンでも帯刀君じゃ(絵面的に)できない事を平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!



***



『また、お会い出来ましたね』


『そうだねー……』



 大した感動もないナタリーとの再会に、俺はそんな返事を返した。確かにまた会いましょう、なんて会話をしたけどさぁ、さすがに数十分後とは思わないじゃん……。



『見たことあるとは思ってたけど、まさかマテオ・キングさんとはね……』



 いや、よくよく考えたら今の俺とまともに戦えてた時点で一般人じゃ無いことは確定だったし……。



『それでお兄さん、お礼なんですけど、100万ドルの小切手で良いですか?』


『は? ……100万ドル? 100ドルじゃなくて?』



 大体1ドルが100円とかだったよな? 今の相場とか知らないから詳しくは知らないけど。



『いえ、百万ドルで合ってますよ?』


『あ、そうですか……。ナタリーちゃん、お金はいらないよ。そんな事のために君を助けたわけじゃないし』


『お兄さん、素直に受け取ってくださいよ。貰えるものは貰うべきです!』



 俺はお金の受け取りを拒否する。するとナタリーちゃんが説得をしてきた。



『額が不満ってわけじゃないのか』



 先程から沈黙を保っていたマテオさんが口を開く。ちなみに平塚さんは呑気にお菓子を食べていた。後でひとつ分けてもらおう。



『えぇ。お金はいりません。それとつかぬ事をお聞きしますがマテオ・キングさん。日本からのお願いは聞いてますよね?』


『S級迷宮攻略の要請だろ? 悪いが君のお願いでもそれは受けられない。仕事は別だ。何度も言うが、仕事は1億ドル用意して貰おうか。それが今の相場だ』



 俺のお願いを使っても、日本の用意した50億円でも半分ほど足りない。と言うかマテオさんの場合、重要人物すぎてアメリカの方が他国の高等級の迷宮に潜らせない可能性もあるし……。



『えぇ。ですから仕事の依頼ではありません。俺から求めるお礼は……俺が使えるレベルの短剣を用意できませんか?』


『……武器の融通って訳か』


『えぇ。お金はこちらで立て替えられます。ですが物が海外では郵送に時間が掛かりすぎて間に合わなくて……マテオさんならアメリカにある武器を日本に輸送してもらうぐらいの融通は効きますよね? もちろん、購入代金は俺持ちです』



 S級迷宮が出来てから今日で3日と聞いている。明日、つまりは4日目に正式な発表がされ、6日目に攻略を開始する予定だ。今からならまだ間に合うだろう。


 ちなみに、俺のS級への再発現とS級上位の特級迷宮からの帰還も同時期に公表される。今日はS級探索者達の休日だったはずだけど、どうしてこんな事に……。なんて嘆いている時間はないな。



『……良いだろう。あくまで武器の融通だからな。お礼としちゃ、妥当な所か……ちょっと待ってろ』



 そう言ったマテオさんはスマホを取り出して、何かを探し出し、電話をかけだした。時々怒鳴っていたが、どうやら無事に通話は終わったらしい。



『自家用飛行機で今から送らせる用意をさせてる』


『うわぁ……』



 現在は15時。時差は14時間あって日本の方が早いから、アメリカじゃ夜中の1時じゃん。大体半日ちょっとだから、明日の朝には届いてるのか……。



『ありがとうございました』


『気にすんな。お礼はS級迷宮を攻略してから言え』



 嬉しい誤算の縁が繋がり、俺の武器の目処が立った。……待て、こんな都合の良い事ってあるのか? ……まさか、王が夢の中で告げていた試練がこれなのか?


 だとしたら納得ができる。S級迷宮が偶然3年ぶりに開き、偶然EX級の人と縁が作れた。……時に現実は小説よりもありえない出来事が起こるが、これが王の意図的な意思によるものだとしたら……まぁ、せいぜい利用させてもらおうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る