第204話~吉田芽衣~
S級探索者の狂人達との会議を終えた俺は、案内されるがままに探索者組合の一室で休息を取っていた。探索者やエルフのみんなにも部屋は割り当てられている。
なのであまりエルフ達が外部にバレる心配はない。さすがに堂々と耳を晒すようなことはしないが。
俺だけはS級に覚醒したというのもあってか、諸星社長やマスターの大地さんと同じちょっと広めの部屋が用意されていた。
「なぁハズク、いい加減頭の上に乗るのやめてくれね?」
『嫌なの。ララノアの手のひらも良いけど、やっぱりここが1番なの』
何故そこなのか……? と疑問に思っていると、コンコン、と扉がノックされる。ハズクを枕の下に隠してから返事をすると、一人の女性が部屋に入ってきた。
「ふふっ、無用心ね~。でも、S級ならあんまり気にする必要はないかしら」
「吉田さんっ? なんの御用ですか?」
時刻は既に夜。そんな時間にS級探索者の1人である
「別に……一香の息子の顔を拝みにきただけです」
「血の繋がりはないですよ」
「知ってますわよ」
じっと吉田さんは俺を見てくる。そんなに見つめられると居心地が悪いよ。
「S級迷宮は……これまで入ってきた迷宮とは次元が違います。元F級のあなたでも、E級迷宮とF級迷宮の強さの差ぐらいは分かりますわよね~? でもS級とA級の差とは比になりません。E級とF級なんて誤差のようなものです」
段階上は共に1つしか差はない。だがそれがS級とA級、E級とF級では次元が違う……そう告げられた。
「今回の作戦が成功するかは分かりません。ですが……一香の家族である貴方は、わたくしが必ず守ります~」
「……ありがとう、ございます。ですが、俺も守られるほど弱くはないですよ。S級に再発現したんです。俺は守る側に立ちたい……二度と大切な人を失いたくはないですから」
吉田さんの真摯な眼差しを受け、俺は一瞬言葉に詰まった。だが、俺にもS級と同じくらいまで強くなったんだ。戦える力があるなら、今度は俺が護らないとな。
一香さんや父さんも、家族を守るために戦った。だから俺も水葉や大切だと思える人達のためにも……。
「……ふふ~、あなた一香に似てますわね」
「え?」
「一香も3年前、似たようなことを言っていたんですよ~? 新しく1番守りたいものが出来たって。だから……絶対に、帰ってくるって……ご、ごめんなさい」
その時を、そして一香さんが亡くなった状況を思い出したのだろう。悔しさ、悲しさから吉田さんから涙が零れ落ちた。
「……いいえ、ありがとうございます。一香さんの事を覚えてくれている人がいて、そんなにも想って下さって……感謝します」
「……先程はごめんなさい。本来したかった話はこれじゃないの。その、大地君は元気?」
吉田さんは涙を拭いてそんなことを尋ねてきた。栄咲さんの名前が上がった……あぁ、そう言えば大地さんは元玄武組合所属だったな。
「えぇ、きっちりマスターとして己の役目を果たしてますよ。優しくて、皆をまとめるために一生懸命で……マスターとして尊敬します」
「……そう。今から言う言葉を聞いて、あの子を責めないでね? あの子ね……一香に庇われて命拾いした子なの」
「……え?」
「3年前のS級迷宮であの子を庇ったせいで一香は亡くなったの。それで落ち込んじゃって……でも、白虎組合が無くなってから3年経った日にね、諸星組合が出来たでしょ~?」
吉田さんがそう言って大地さんの過去を語り出す。知らなかった……一香さんは、大地さんを庇って死んだのか……。
「そしたら大地君、すぐにわたくしに告げてきたわ~。『俺のせいで近畿付近が厳しくなった。だから命を救われた俺が、江部一香さんの分も働く! それが
「……まさか、驚いただけですよ。あの人がわざわざ異動してきた理由を知れて良かったです。……一香さんが亡くなっても、人との縁はこうして繋がっている……えぇ、一香さんが守った命です。怒ったりなんてするわけないじゃないですか」
大地さんは前を向いて、自らに出来ることをしている。彼に怒りをぶつけるのは筋違いだ。悪いのはモンスターと、ゲート……矛先を間違えてはいけない。
「……なんか、一気に疲れました、はは」
「ごめんなさいね~、重たい話で……じゃあ最後に、驚く話をしてあげる~」
「なんです? 一香さんのすごい黒歴史でもあるんですか?」
明るげに振舞った吉田さんに話を合わせる。俺だって一香さんと2年間過ごしたから結構彼女の事を知ってるつもりだけど……正直楽しみだ!
「諸星組合に柏崎って子いるでしょ~?」
「? ……えぇ」
「あれ、わたくしの姉~」
「…………えぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?!?!?」
「ふふ、それじゃあ夜も遅いしもう帰るね~。じゃあね、空君っ」
「ちょっ、まっ……マジですかァァァ!?!?!?」
既に帰ってしまった吉田さんに向けて、俺は大声で問いかけた。……嘘ぉぉぉっ!?!?!?
***
『──という事があったんですが、マジですか柏崎さん?』
俺は朝一番に柏崎さんに電話を掛けて真相を追求する。だって……気になるでしょ? みんな気になるよねっ? ねっ???
『……ちょ、ちょっと待ってくださるかしら? な、何故あなたが姉の知り合いなんですの?』
『あぁ、昨日顔合わせしました』
『はぁ!? しし、しかもそんな事まで話すだなんて……一体どんな関係を持ったんですのっ!?』
『家族が友達だった繋がりです』
『…………はぁ、えぇそうですよ! 私はあのS級探索者吉田芽衣の姉です! 血は繋がってませんがっ! ふんっ!』
『あぁ、そうですか。それじゃあ切りますね』
『ちょおっ!? それだけですのっ? 本当に聞きたかっただけ?』
『えぇ。もう気になって夜しか眠れず』
『十分寝てるじゃないのっ! ……別に、黙ってた訳じゃないです、話す必要がなかったから喋らなかっただけです』
『そういうことにしておきます』
『あなたねぇっ!』
『S級が妹とか聞いたら柏崎さんがあんな性格になるのも当然ですよ。これ以上深入りはしません。ではさようなら!』
何か言っていたが俺はそのまま電話を切る。だって血は繋がってないけど、なんて言われたら複雑な関係を想像するじゃん。
しかも柏崎さん、こうなったらとことん話そうとしていた雰囲気だったし俺も朝から重たい話は聞きたくなかったししょうがないよねっ!
そんな訳で今日も一日頑張ろうっ! ……なぁんて考えていた時期が俺にもありました。
「空君、同士として迎えに来ましたぞ」
扉の前に立っていたのはロリコンの帯刀傑さんだった……。どうしてこうなった……?
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