第201話~探索者組合本部長 平塚輝久~

 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 日本の英雄と呼ばれた男の部屋に入ったら、そこにはガチオタクが発狂した姿で待っていたんだ。


 な……何を言っているのかわからねーと思うが俺も何を見たのかわからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……。


 催眠術だとか幻覚だとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。もっと恐ろしい、信じたくない現実の片鱗を味わったぜ……。



「篠崎さん、(ジョジョネタに)逃げてないで現実を受け止めてください」



 部屋の中から大本さんが『やっぱりこうなったか』と言いたげな視線を向けてくる。そのまま呆然とする俺の手を引き部屋に再び入室した。



「やぁ、話は聞いているよ篠崎空さん。S級に再発現したらしいね。おめでとう(やったーこれで俺が迷宮攻略する分を回してオタ活するぞっ!)」



 先ほどの行いは一切無かったのことにしたようだ。にこやかな笑みを浮かべて平塚輝久ひらづかてるひささんは挨拶してくる。て言うか言葉の裏に何か邪な考えが透けて見えたが……俺の気のせいだろう。英雄があんなこと言うわけが無い。



「さっ、席にかけたまえ」


「はい」

 


 今度は平塚さんに促され、俺は着席する。平塚さんも同様だ。大本さんだけは平塚さんの後ろに陣取り、何かあればすぐに止められるような体勢で待ち構えていた。



「大本や諸星社長、栄咲から話は聞いている。何でも特級迷宮に遭遇して、S級上位から生還した。しかもエルフ達と友好を結びながら……。さて、長ったらしい話は俺のスケジュール的にも良くない、早速本題に入ろうじゃないか」


「本日のスケジュールは余裕を持って用意させてもらったはずですが?」


「もうすぐソシャゲのスタミナが溜まるんだ」


「なるほど、アンインストールしておきますね」


「それだけはやめてっ!!!」



 大本さんとコントのような会話劇を繰り広げているのが、日本最強の称号を持つS級探索者なのか? そうは思えない言動の数々に、俺は思わず目を逸らしてしまった。



「幻滅したか? だがこれが俺だ。誰に止められても、変えるつもりはない。ただ、最初ぐらいは威厳が欲しかったから初対面の時の奇行は見なかったことにしてくれ」


「は、はぁ……」



 衝撃が強すぎてちゃんとした対応が出来なかったが、ようやくショックから立ち直ってきた。平塚さんはこういうタイプか。


 予想外だが……許容範囲だ。主に3年前まで一緒に住んでたダメ人間の代表のような人のおかげで耐性が付いていたな。



「大本のせいで話が逸れたが──」


「──あなたのせいです──」


「──うるさい! では本題に入ろう。……エルフ達ってやっぱアニメみたいな感じ!? 俺も会話とかしてみたいんだけどぼっ!? い、痛かったんだけど!? 今本気で殴ったよね!? 俺上司だよ!?」



 急に牧野さんと同じような空気で尋ねてきた平塚さんに、大本さんの鬼の鉄槌が襲いかかった。うわぁ、痛そっ。



「そう思うなら上司らしくして下さい。上司の奇行を止めるのも部下の役目ですので。それより本題、明らかに趣味に走ってましたよね?」


「オタクにエルフに興味持つなって、宝くじ1等当たったのに引き換えに行っちゃいけない、と同じくらい生殺しだよ!?」


「話を逸らさないで下さい。ちゃんとした本題に入らないなら……本部長の部屋周辺だけWiFiを切りますよ?」


「篠崎空さん、エルフ達の保護についてだが、我々としても私個人としても賛成だ。既に諸星組合とはここに来るまでにリモート通話で話を済ませてある。安心したまえ」



 急に仕事の話を振ってくる平塚さんとの会話に俺は苦戦する。話の主導権を明らかに平塚さんに握られているな。もしや言動は全てなにかの作戦なのかもしれない。



「エルフ達に関しても安心してくれ。簡単な検査程度は受けてもらうが、なんなら君が付き添ってもらっても構わない」



 ずっと一緒に暮らしていたので人間への有害な影響は無いはずだが、形だけでもしておいた方が何かしらの証拠としても有利ってことか。付き添いは自ら監視することで検体としての扱いではないことを宣伝するため。



「分かりました、それでお願いします」


「良かった。ついでに後でエルフ達とは個人的に会いたいからアポをよろし──」


「──そんな時間はありません」


「黙れこのケチ野郎! 本部長命令で今期のボーナス無しにしてやろうかっ!?」


「ほう、つまり退職しろと? 了解しました」


「やめてすっげぇ困るから! さっきの冗談だから! ボーナスは増やすからこれ以上仕事を増やさないでっ!?」



 ダメだ、この人の人となりが掴めない。俺は真面目に思考するのを諦めた。



「さて、篠崎さんは今後も諸星組合に所属し続けるのかな?」


「その予定です」



 探索者組合本部がエルフ達を認めないなら辞めるつもりだった。諸星組合の関係者たちに迷惑は掛けられない。だが了承してくれたので、俺はエルフ達と共にいる。感謝しなければな……。



「そうかい。じゃあひとまず、君がS級に再発現した事は数日以内にニュースで報道されるだろう。個人情報はこちらで保護させてもらうが、恐らくほとんど晒されるだろうな」



 探索者組合本部の言葉の通りだろうな。中学高校の知り合いは……みたいな感じで俺の話とか色々出回るだろう。仮にテレビは規制できても、SNSにアルバムなんか晒されれば拡散する速度の方が速い……時間の問題だ。



「それについては仕方がないでしょう」


「割り切ってもらえて助かる。こちらとしてもできる限りを尽くそう。……して、この後に時間はあるかな?」


「恐らく予定はないはずです」



 でも他の人たちを待たせるのは気が引けるな。別の所に案内されてゆっくりしてるかもしれないが、後で連絡だけでもさせてもらおう。



「それはちょうど良かった。実は今から重要な会議があってね、それに君も参加して欲しいんだ」


「俺なんかが良いんですか?」


「構わないよ。なにせ……日本のS級探索者達が集う会議だからね」

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