第198話~ただしアムラス、てめぇはダメだ~

 ジロリとエルフ達の視線を受けた俺が軽く萎縮していると、アムラスの奴が全速力で俺の方に駆けてきた。



「ようアムラス、一体なんで──」


『この、裏切りもんがぁぁぁっ!!!』



 アムラスが勢いをつけて飛び膝蹴りを繰り出してくる。契約上書きで強くなった俺なら避けれたが、言葉の意味からとりあえず蹴られておいた方が良さそうだったので甘んじて受け入れた。



「がほっ!? ……で、一体何があったのアムラス?」



 綺麗に吹っ飛んだ俺は起き上がって殺意満々の眼を向けてくるアムラスに問いかける。後ろからララノアちゃんが軽蔑した眼で見てきてもいるな。



『……──え、──まえ、お前、ヘレスとシたんだってな! せめて俺に相談しろよ裏切り者めぇ!』



 アムラスが泣きながら俺に掴みかかってくる。全くもって身に覚えのない事を理由を告げられた俺は頭が一瞬真っ白になった。した? ……あぁ、キスのことか。あれはされた、の方が正しいんだが……?



「落ち着けアムラスあれは事故で──」


『そういう事は結婚してからだろ!? こんなに節操が無いとは思わなかったよソラ! 責任取りやがれ!』


『ララノアと約束、したのに……お兄ちゃんの、嘘つき』



 ……なぁんか行き違いがありそうな発言をアムラスとララノアちゃんがしてるんだが?



「……俺って何をしたって言われてるの?」


『あ? お前ヘレスとせ、性行為したんだろっ!? 昨日の夜、ヘレスが喋ってたから俺やララノアちゃん、クルゴンさんを経由してエルフ達全員知ってるぞ!』



 ……性行為なんてしてませんけどぉぉぉっ!?!?!? 俺はそんなデマで蹴られたのっ? しかもエルフ達全員周知してるの!? 理不尽だ、ちゃんと事実にするためにも今すぐヘレスとシなければ! と言う冗談はここまでにして……。



「……してない。俺、性行為、してない……昨日キス、されただけ」


『あ? ……は? ……え? そうなのか?』



 アムラスの怒りが一瞬で収まっていく。困惑するような、俺を疑いの眼差しで見てくるけど本当にしてないんだよ。



『で、でもあいつ……お礼にすっごいことシちゃったとか、責任だとか……え、本当にしてないの?』


「お礼ってのはキスされただけ……責任ってのは族長の娘としてなんか言ってたんじゃないの?」


『…………』



 アムラス君が黙ってしまわれた。他のエルフの人達もアムラスが変に勘違いして先走っただけだと気づいたようで、冷めた視線を向けたあと、何事も無かったかのように話を再開しだした。



『……本当、なんです?』


「あぁ、精霊王に誓おう」


『……信じてあげます。疑ってすみませんでした』


『お、俺からもすまんソラ、勘違いしたわ』



 ララノアちゃんが不安げに尋ねてきた。俺は正真正銘潔白なので堂々と宣言する。ララノアちゃんはそれを見て納得した仕草をし、頭を下げて謝ってきた。ララノアちゃんの事は許してあげよう。



「ただしアムラス、てめぇはダメだ」


『なんでだよっ!?』



 エルフ達への誤解は解けたようだし、後はヘレスに注意して終了だな。ヘレスはその事を告げると顔を赤くしながら慌てて頭を下げてきた。これで解決だ!


 ってそんな事よりここに来た1番の目的を忘れている! ハズクの扱いについてエルフ達の所に相談しに来たんだった。



「なぁ、生まれた精霊ってどうすりゃ良い?」


『え? 産まれたばかりの精霊様? ……まさかその頭の上のが!? 気づかなかったぜ!』



 俺の頭にちょこんと乗っていたハズクを見たアムラスか騒ぎ出す。ララノアちゃんも見ようとしていたが身長差のせいで見れず、ジャンプをしていたのが可愛かったよ。


 俺はしばらくその姿を楽しみながら、手のひらに乗せたハズクをララノアちゃんに預ける。ハズクの奴も空気を読んで大人しかった。



『……いや、期待されてるとこすまんが俺らは分からねぇな。族長なら知ってるかもしれんが……エフィー様の方が精霊王だし分かるだろ。俺たちにとって精霊様は基本信仰の対象、たまに戦士長みたいに契約した人がいるぐらいだし……』



 なるほど。精霊を崇めはするけど具体的な生活習慣は知らないのか。ソロンディアもほとんど姿を見せてなかったしそんなもんなのかもな。



「それならエフィーを当たってみるよ。じゃあなララノアちゃん、アムラス」


『おう』


『……さようなら』



 ララノアちゃんのさようならはどっちかと言えばハズクに向けてだった気がするんたが……気のせいにしておこう。


 その後、翔馬の居場所が分からないので部屋に戻ると全員が起きておりハズクの説明を求められたが、庭先で卵拾って偶然孵化して刷り込みされたと説明したら納得してくれた。


 納得するのかよっ!? と俺自身驚いたが、目の前の現実で刷り込みでもなきゃ有り得ないほどのなつきようを見せられては黙るしかないのだろう。


 そして朝食を済ませた際に、諸星社長から今日中に東京に向かうことが決定したとのお知らせが入った。エルフ達のこと、特級迷宮の事などを探索者組合本部にて話し合うらしい。


 つまり……俺たち諸星組合+エルフ達は東京観光をしに行くことになった。

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