第197話~ハズク~

 夢の中に出てきた王。そいつとの会話が一方的に終わると同時に俺の意識は覚醒しだした。



 チュンチュンッ!



 男連中を詰め込んだ大部屋の片隅で横になっていた俺だが、チュンチュンという鳥の鳴き声で目を覚ます。……え、鳥の鳴き声?


 ここは諸星社の一室だ。窓が空いてる訳でもないし、鳥の鳴き声がするなんておかしいだろっ!? 疑問を持てばすぐに頭はフル回転を始める。


 だがその疑問を解消したのは頭では無く目だった。目の前の視界に写りこんできたのは、灰色の毛並みを生やしたすずめのような鳥だ。



「……迷い込んだのか?」



 チューンッ!



 その鳥を不思議そうに見つめて考えを口に出すと、雀が怒ったように風の刃を飛ばしてくる。咄嗟に手で払い除けた。結構強めの一撃だったな、エフィーと契約する前なら切れて血が出てたぞ。


 冷静に分析し終わると再び視線を雀に合わせた。……え、こんな小さい雀が発現者の体に傷を付けられる風の刃を放っただとっ!?


 急いで隣を見るが、そこには既に生まれたと思われる精霊卵の欠片が転がっており、中身は当然その場にはなく……ギギギ、と機械のように首を動かして顔を雀の方に向ける。



「精霊ゲットだぜ!」



 ポケ〇ンをゲットしたように呟くと、再び雀から風の刃が飛んできた。軽い冗談だったのにっ!?


 慌てて周りを見渡すと、周りのみんなはまだ寝ていた。王のせいかこの雀のせいか知らんが少し早く目覚めたらしい。この雀を見られるよりはマシだったな。


 チラリと雀を見る。灰色の羽毛を生やした思い切り手のひらサイズの小さな鳥。妖精サイズのエフィーよりも小さいから、幼女サイズのエフィーでも可愛がれるから喜ぶべきか?



「……チュンすけ、はダメそうだな。格好よくフェニックス……は後々を考えると何か被りそうだ。せめてソロンディアみたいに成長した姿を見られれば方向性が分かるんだが……」



 それよりもやっぱ名前が先だよな! 捕まえたらまずは名付けるのが常識だし。……ディアロはどうだ? ソロンディアからソとンを抜いて前と後ろを入れ替えた。え、なに、劣化っぽいからダメだって?


 じゃあリオンディアは? え、サリオンさんとソロンディアを混ぜただけとか安直だなお前って? 俺が提案すると一々いちいちしゃくに障るような否定をしてくる雀って苛立つわ。


 と言うかこの精霊は喋れないんだな。今まで見た精霊は意思疎通が──はこいつも出来てるか──喋れてたのに。ソロンディアより位が落ちるって事か……ちょい、風の刃飛ばすなバカっ!



「……じゃあハズクでどうだ」


『それが良いの』


「お前喋れたのかよぉぉぉっっっ!?!?!?」



 普通に言葉を返してきた雀もといハズクに怒鳴る。だって喋れてたなら自分で好きな名前つけられたじゃん!? 俺の命名案を聞いてバカにしてただろお前っ!


 え、契約者の俺に名前を決めて欲しかったって? ……それなら仕方がないな。良い名前で良かっただろ! て言うかそういう嬉しいことは口にしろよなっ!



『お前チョロいの』


「よし殺す」



 お前の名前は今日から焼き鳥だぁっ!



『あんな男っぽい名前嫌なの。だって私メスなの』


「すみませんでした」



 君メスだったんだねっ!? 普通にオスっぽい名前にしてたのはマジでごめんなさい。



『ちなみにどんな意味なの?』


「フクロウから取りました」



 なんかフクロウって確か最後に○○ハズクとか付くのが多いじゃん。そこから偶然で……。でもこの雀、種類が分からないから本当に雀だったら全然合わないことになるんだけど……納得してくれてるし良いか。



『……まぁ良いの。お前にネーミングセンスを期待した私が馬鹿だったの』


「俺、ハズクの契約者なのにお前呼ばわりされるの?」


『さっさと名乗れなの』


「忘れてましたすみませんでしたぁ! 篠崎空だ。宜しくハズク」



 生意気なクソガキにお前呼ばわりされた気分だったが名前教えてなかったわ。何はともあれ、向こうも俺を契約者として認めてくれているみたいだし良かった。



『良い名を貰ったようだなの。でもお前には親のネーミングセンスが欠片も引き継がれてないの』


「教えたんだし名前で呼べよっ!? あとやっぱりお前の名前は焼き鳥にするか、真剣に迷ってるぞ」



 俺の名前を褒められたことは嬉しいけど、結局お前呼びなのね……。



『それよりソラ、お腹すいたの。魔石くれなの』


「焼き鳥なら出せ──」


『しつこい男は嫌われるの。魔石を寄越せなの』


「はいはい……」



 俺は幾つか残していた魔石をハズクに与える。なんで持ってるかって? エフィーの主食なんだからそりゃ持ってるだろ。


 あいつが人間の食べ物やエルフの食べ物を食べていたのは人間で言う娯楽のようなもので、大した意味はないぞ。


 それより今何時……7時前か。8時間は寝れたし十分かな。他の人達はまだ寝てるだろうから起こさないように……さっきの会話うるさかったよね、それについては謝るわ。


 頭の上に乗ったハズクを気にしつつ、顔を洗い歯磨きをしたりして身支度を整える。外に出ると冬とはいえ既に日は昇っていた。



「ハズクの事を相談したいからエフィーに逢いに行くべきか?」



 しかし翔馬の居場所が分からないぞ。女性陣に押しかけるのは論外。やはり精霊ならエルフ達の所へ行くべきだな。彼らが1日をどう過ごしたのかも知りたい。


 彼らは1番大きな場所を使用している。それより人がいないな。会社なんだから最悪通常業務の人と鉢合わせになる可能性も想像していたが、今日は休業もしくはリモートワークに切り替えたのかもしれん。


 やはり諸星社長、翔馬の父親は優秀だな。そんなことを考えながらエルフ達の元へ向かう。



「なぁ、俺の頭が定位置なの? できればポケットが良いんだけど」


『ダメなの。そのポケット、めちゃくちゃ凄い精霊魔法で保護されてるの。防音はもちろん防寒や保温、揺れ防止、安眠作用まであって、何より掛けた本人専用にされてあるの』


「俺の胸ポケットそんな魔改造されてたのっ!? エフィーの奴いつの間に……!?」



 普通のユニ〇ロの服になんて贅沢なことしてるんだあいつは……。エフィーが自分でやって、文句を言わないようにした結果だから良いか。でも次からは相談しろよ……!



「お、着いたここだ」



 そう呟き、扉をノックしてから部屋に入る。一斉にエルフ達の視線が俺たちを向いた。しかも単に目を向けられた訳じゃないぞ。


 値踏みするような、明らかに怒りを感じさせるような、そんな感情の入り交じった視線だった。……あのぉ、俺なにかしましたか?

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