第196話~邂逅~
「そうだ、エフィーからはなんかある?」
俺の今後の方針をまとめて話してみたけど、エフィーからの意見は聞いてなかったからな。
「無いの。強いていえば、もっと力をつけて欲しいのじゃ」
「それって具体的には契約上書きあと何回分?」
契約で力が増す回数は合計10回。俺は最初に契約をした時、藤森を倒す時、特級迷宮に入るちょっと前、サリオンさんを助けようとして強引にした時で既に4回を使い果たしている。
「ふむ……あと、3回ぐらいかの」
「今までの倍じゃん!? そ、そんなに力の差があるのかよ……」
最初の契約を除けば今までにした契約上書きと同じ回数分を要求された。
「恐らく3回契約の上書きをすれば、三大龍将の一角、光輝龍レンドヴルムと互角程度にはいけるじゃろうな」
「それだけやって7人の王のうちの一人の強い配下と同等って……時間にもよるけど、俺たち精霊王グループに勝ち目ないぞこれ」
「空は負けるからと言って勝負を捨てるようなタマかの?」
俺が頭を抱えて唸っていると、エフィーがポンと肩を叩きニヤニヤとしながら俺を見てきた。え? もしかして馬鹿にしてるの? ……冗談だよ、俺の闘争心を燃やさそうとしてるんだろ。
「いいや。分かってる、勝ち目なんてなくても全力を尽くすさ。あ、そう言えばサリオンさんから預かった物があったはず……あった、これ何かわかる?」
笑いながら言い返す。そこで俺はサリオンさんと別れる前に受け取った丸い石? 宝石? のような物を取り出してエフィーに尋ねた。
「そ、それは……!? サリオンとソロンディアの奴らめ、最後まで気を使わせてしもうたか」
「え? 何その反応、これって重要なやつなの?」
エフィーの予想外の反応を見て、俺は改めてサリオンさんから受け取った手に持った物を見つめる。
「……
「……え!? すごっ!? つまりこの精霊卵はソロンディアの生まれ変わりになるの?」
「いや、属性は同じじゃが、記憶が引き継がれることは無い。どちらかと言えば子供じゃな。精霊卵は産み出すのに体力も激しく消耗しおる。……我らに託さなければ、より長く戦い、僅かでもより長く生きられたと言うのに……」
サリオンさんとソロンディアは自分たちがより長く生き残るよりも、俺たちに新しい戦力を託した。自分たちが死ぬ覚悟を決めるのも大変なのに、さらにその時間を短くする決断を、俺はできるだろうか……?
「……なるほど、出産のようなものか? でもそれなら、精霊の数ももっと増えていて良いと思うんだけど……」
それにしては精霊の数は少なく感じるな。琴香さんを含めてもエフィー、ソロンディア、シェイドの4人しか見ていない。
「……普通の精霊は一生に一度しか使えん。大精霊はそもそも使えんのじゃ。聖戦で大半の精霊は使う間も無く亡くなっておろう」
「……そう。大精霊が使えないのは痛いな。エフィーも使えないの?」
一生に1度しか精霊を生み出せないってことは、精霊の絶対数は増えない。大精霊みたいな強力な精霊は1度亡くなってしまったら終わりって訳か。
ならエフィーはどうなんだ? 精霊王と呼ばれるエフィーなら精霊を増やすことも出来るんじゃないのか? そう思い問いかけた。
「…………使えん。我は使えんよ。琴香のように精霊として蘇らせる方法もあるが……条件が結構厳しいのじゃ。条件はすまんが話せん」
先程の精霊卵を見せた時と同じような暗い表情でエフィーも出来ないことを話してくれた。琴香さんは例外だったのか……。
「ちなみにサリオンさんには?」
「無理じゃな」
あの場に残ってたら……そんな未練がましい発想が生まれたけど、どっちにしろサリオンさんは死ぬ運命だったってことかよ。
「そう。……じゃあ、今日はひとまずお開きにしよっか。翔馬の抱き枕、頑張れ」
「できれば主の抱き枕になりたいのじゃが」
「残念だけど男女別だよ。エフィーも例外なくね。……もしかして男の姿になれたりって──」
「さすがに有り得んのじゃ!? もし出来たとしても下手に男の子として関係を持つのは面倒じゃしな」
現状のエフィーの立ち位置だけでも面倒なのに、さらに似た男の子を会わせるなんて俺の胃がストレスで擦り切れちゃうな。
「それは当然だな。じゃあおやすみエフィー、良い夢を見てね……おっ?」
「おやすみなのじゃ主!」
去り際に抱きついてきたエフィーに目を丸くしていると、ニコッと笑みを浮かべた彼女は軽い足取りで手を振りながら去っていった。
「ぁ、それよりこの卵どうしよう? エフィーに預けるの忘れてた……」
遅れて手に持っていた精霊卵に気が付きエフィーの去っていった方を見るも、そこには誰もいなかった。……遅かったか。
ならしょうがないし明日にでも預けよう。俺が持っておくより、精霊王であるエフィーの方が何かと対処しやすいだろうし……。
そう考え胸ポケットに精霊卵をしまうと、男性陣の待つ寝室へと戻っていった。嫌らしい笑みを浮かべた最上のおっさんが背中を叩いてきたが、別に変なことはしてなかったぞ!
普通にヘレスと話してエフィーとも情報交換をしただけだし! ……ん? エルフにキスされて幼女に抱きつかれていただって? 俺、そんな出来事、知らない……。
そんな雰囲気のまま男子会でも始まるかと思ったが、この1ヶ月間の緊張が解けたのか全員が見事に熟睡をしてしまった。俺なんていつも皆が寝静まった頃にエフィーと夜中に会っていたから本当にすっごく寝不足だったんだからな!
***
……あれ、ここは……? そこは赤紫色のヘドロのようにグチャグチャと気持ち悪い音を立て、ヌチャっとした不快な感覚の空間に俺はいた。
そうだ、思い出した。あの時と……藤森を倒した日に見た夢と一緒だ。使徒の北垣さんが後ろから強くなるように忠告してきたんだった。
体の自由は……効かないよな。なら今回も同様に使徒の北垣さんが接触してきたってことか? となると今度はどんな要求をしてくるんだろうか?
『やぁやぁやぁ! 篠崎空君だね!』
っ!? てっきりあの機械音声のような北垣さんの声が聞こえてくるとばかり思っていたからか、思った以上に綺麗な……女性と間違うような子供の声に動揺を隠せなかった。
と言うか北垣さんしゃないのか? じゃあまた別の使徒かよ。あと使徒ってみんな背後からしか現れないの? ちょっと怖いんだけどっ!?
『あ、ごめんごめん! でも今の君じゃあボクを視界に入れても見えないどころか脳に異常をきたしそうだから、こんな形にしてるんだ』
……は? 今後ろにいる使徒、俺の心を読まなかったか? じゃなきゃ出来ないような問答の仕方だったぞ……?
『その通りさっ! それよりも無事にえぶぃ──おっと違う。精霊王と
何だこの使徒は? 震えと悪寒が止まらない。……激しい嫌悪感? にも近い恐怖、レンドヴルムともまた違う恐怖だ。
『えぇ、ひっどぉ! ……まぁ良いさ! 篠崎空君っ、君には期待してるんだ。君と精霊王が憎む他の7人の王に立ち向かえる可能性を持つ唯一の存在! それが君っ!!!』
……お褒めに預かり光栄だけど、早く目的を話してくれません? 俺に強くなって、欲しいんでしょ?
『ブーブー! 色々と早い男は嫌われるよっ? そんな事より! もうすぐ君にボクから最初の試練を与えよう! それを乗り越えて強くなって、あわよくば仲間を増やして再び始まる聖戦に備えてねっ!』
ううう、うるせぇやい! ……待て、試練? しかも聖戦に備えろだと? 使徒が直接強くしてくれる試練をくれるなら、貰えるもんは貰う。
でも、聖戦だと? エフィー達が何百年も前に経験してほぼ敗走したあの聖戦が、再び起こるのか? いや、エフィーも使徒の北垣さんもそう告げていた。現実逃避をしていたのは俺の方か……。
くそっ……分かったよ。俺は誰も失いたくない。エフィーも、琴香さんも、知り合いの誰も……。だからその試練って奴は受け取る。使徒のあなたの言う事を聞く。
『本当っ? やたっ! ありがとう篠崎空君っっ!! ボク嬉しいよっっっ!!! ……あぁ、でも最後に、一つだけ勘違いしてるようだから訂正しておくよ』
そこまで喜ぶことなのか? そっちの考えが一切分からねぇよ。それより勘違いだと?
『うん、ボクは使徒じゃないっ!」
じゃあお前誰だよっっっ!?!? ……あ、ごめんなさい、ついノリツッコミで。
「君が恐らく知ってる言葉から告げられるとすれば……王。ただの王だよ! もし分からなかったら精霊王に聞いてみれば良い。それじゃあそろそろ時間だから、じゃあねっ!』
は、いや王ってあの……!? そんな一方的な終わり方で使徒の……いや、エフィーが語っていた9人の王の中でも原初にして最強の王との会話は幕を下ろした。
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遅くなってすみません。切り良いしここで毎日更新終わり! 遅筆の俺にはここが限界……。
私的な報告ですが今日から1ヶ月ほど無職になります。次の就職先は目標としていた所にお昼頃、内定を頂きましたのでご安心ください!
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