第195話~9人の王~
「ふむ。主は我が自ら話すまで聞かないでおくと言っておったでは無いか?」
「そうだな。聖戦とか色々気になることはあったけど、そう考えていたよ……ついさっきまではな」
ニコリと笑いかけながら疑問を示すエフィーに、俺も同じく笑いかけて答えた。……最後以外は。キッと鋭い目つきの俺を見たエフィーも顔を強ばらせる。
「……悪いが、全てを話す訳にはいかんのじゃ」
「ふざけるなよエフィー、サリオンさんが、死んだんだぞ! 生死は確認していないけど、あんな化け物共と一緒にいて生きてるわけがない」
「そうじゃろうな」
「『そうじゃろうな』じゃないだろ! あのモンスター達はなんだ!? あんな化け物がいるなんて聞いてないぞ! それに北垣さんが使徒って存在だった事もだ。お前はそれらを知ってるんだろ?」
エフィーの意思は限りなく尊重したかった。でも、あんな化け物がいるなんて聞いていない。知っていることを、しかもあんな重要な奴らの存在を、エフィーは隠していたんだ。
「……主がそれを知った所でどうなるんじゃ? あ奴らと戦った所で今はまだ死ぬだけじゃ」
「それは……その、そういう問題じゃない! 知ったところで俺の実力じゃ勝てないことは認める! でも黙っていたことは違うだろ!」
「必要ないと思っておった。まさか龍王の配下達が攻めて来るとは思いもしてなかったのじゃ」
「ちが、俺が聞きたいのはそうじゃなくてあのモンスター達の──」
「──契約──」
冷めた瞳で俺の方を見たエフィーが小さく、だがはっきりとそう呟いた。
「契約する時に約束したの。我と契約する対価はモンスターから採れる魔法石で契約を維持、上書きしていくこと。それともう1つ、個人的な目的があると言ったはずじゃ……じゃから、話せん」
エフィーと契約した時の状況が頭に思い浮かぶ。確かにエフィーは個人的な目的があると言っていた。
「……エフィー、お前は俺たちの、人類の味方だよな……?」
俺が相対した化け物と言う呼び名が相応しいモンスターのドラゴン。それらの情報を自らの目的のために秘匿するエフィーに対して不信感が募る。
首筋から汗が流れ落ちる。それほどに俺は動揺していたし焦っていた。エフィーの返答によっては……彼女と敵対することになりそうだ。
「……当たり前じゃろ。我は人類の……主の味方じゃ。それだけは信じてたもう」
「そっか……。なら、良い。契約なら仕方がない。……でも、もし俺がその事を知っていたらサリオンさんが助かる方法はあったのか?」
「……仮定の話をしてもどうにでもならんが、恐らくじゃが、どう足掻いても無理じゃった」
エフィーは目を閉じて首を左右に振る。……嘘をついてる様子はない。いや、隠されたら俺にはもう判別つかないけど。
肩を落とし、ふぅ、とため息に近い呼吸を繰り返していると、エフィーがチョンチョンと肩を叩いてきた。
「……主、全部は話せぬと言ったはずじゃ。……つまり、ちょっとは喋れることもあるのじゃが」
「……いや、先に言えよっ!?」
俺のツッコミがエフィーの脳天に直撃した。
「ふぐっ……まぁ、我の言い方が悪かったのは分かっておる。さぁ、主の知りたがっている情報を話そうではないか!」
プシュ~と湯気が出る頭を押さえたエフィーが無い胸を張り、偉そうに宣言する。
「さて、何から話そうか……そうじゃな。異世界には、9人の王と呼ばれる存在がいたのじゃ」
エフィーはそう言って、俺の知らない真実を語り出した。異世界には王の名を冠する者たちが9人いるらしい。
「エフィーもそのうちの1人ってことだよな?」
「うむ、我は精霊王。名前通り、精霊たちの王をしておったわ。そしてエルフ、ドワーフは精霊たちの眷属と呼ばれておるぞ」
「じゃあドラゴン達は?」
「我らがおったエルフの里を襲ったのは龍王の配下達、我らで言えば精霊に当てはまる存在じゃな。龍王には他に竜人と呼ばれる眷属もおるぞ」
エフィーはさらに他にも不死王、魔王、獣王、蟲王、海王、巨人王などがいることを教えてくれた。
「あれ? 9人の王なのに8人しか出てないけど? エフィーって数、数えられないの?」
「バカにするではないわぁっ! あと、最後の一人の王の配下に主は既に会っておるではないか」
俺が煽り散らかすと、エフィーは地味に驚きの情報を伝えてくれた。頭を捻って考える。
「……まさか、北垣さん? 使徒の事か!?」
「正解じゃ。使徒とは原初にして最強の王に仕える最強の眷属達のことを指す」
北垣さんがエルフ達と同じ眷属だったことに目を開いて驚く。いや、エフィーの里での驚きなら納得かも。
「一体何の王なんだ?」
「いや、普通に王と呼ばれておる」
エフィーで言えば精霊王。そんな王の前に着く称号を尋ねるが、『王』と簡素に呼ばれているらしい。これには拍子抜けした。
「じゃが……圧倒的に強い。恐らく我を含む他の8人の王が戦っても負けるじゃろうな」
「っ!? 同じ王を冠する者たちでもそこまでの差があるのか?」
コクンと首を縦に振る。エフィーはそのまま使徒を従える原初にして最強の王について語り始めた。
異世界において圧倒的な力を誇っていた王は、自分を含めた9人の王と呼ばれる制度を作り出したらしい。
だがそれ以降は特に何もすることはなかった。まるでゲームの基盤だけを作り、後は自分たちで遊ぶように指示されたような感覚だと告げられる。
残る8人の王は異世界での土地などを巡って話し合いや些細な争い事が起きていたが、特に王が干渉することは無かったと。
「なんか、それはもう王じゃなくて──」
「──神、じゃろ? 我ら8人の王もそう思っておったじゃろう。しかし王自身が9人の王と言う制度を作り、自らを王と名乗る以上、神ではなく王と呼ぶようになっておる。眷属達を使徒と呼ぶのは、せめてその敬意と畏怖が込められておるからじゃ」
「なるほど。……確か、使徒は俺たちの敵ではないと言ってたよな?」
「味方でもないがの」
「ならエフィー、精霊王グループは龍王グループと争っている。……その争いを聖戦と呼んでいた。この認識で良いか?」
使徒が敵ではないと言っていたのは、王自身が干渉していなかったから。ドラゴンがエルフの里を襲ってきたのは、そういった利権問題が絡んでいたから……。
俺はそんな予想を立ててエフィーに尋ねるが、エフィーは俺と目を逸らし、決して合わせようとしなかった。
「おい、こっち向けよエフィー」
「お、怒らないかの?」
「内容によるよ。まぁ、たとえ俺たち精霊王グループが悪かったとはいえ、サリオンさんを殺された以上、俺はこっちの味方だ」
あの白いドラゴン……レンドヴルムだっけ? あいつだけはサリオンさんを殺した罪と、里を焼いた罪を償わせてやる。
「いや、そういう問題じゃないんじゃ。どっちが悪いかどうかではなくその……我が対立している王達の数、我と王以外の7人全てなのじゃ……」
「……はぁぁぁっっっ!?!?!?」
俺の驚愕の声が廊下に響いた。叫ぶななんて言われても無理だ。だってあんな化け物を従える龍王と似たような連中を合計7つも相手にするってことじゃねぇか!?
「なんでそんな対立してんだよ!?」
「悪いがそれは本当に答えられんのじゃ……済まぬ」
1番重要な事をエフィーは濁して答えなかった。その言葉にまた叫びそうになるが、グッと我慢する。
「エフィー、ならエルフ達はまた向こうに帰れるのか?」
「それならば迷宮を攻略して時間が経てば解決じゃ。ただし、そこがどの軍勢の管理下に置かれておるかは謎じゃし、精霊の眷属であるエルフ達は間違いなく殺されるじゃろうな」
エフィーの言葉に気付かされる。確かにゲートは異世界と通じていた。つまりヘレス達の願いを叶える事自体は、こちら側でも可能なのだ。
ただし向こうでどうなるか分からないと……。その理屈なら、10年前にゲート内で消えた自衛隊達も死んでいるだろうな……。
「……ん? もしかして、特級迷宮は異世界の眷属達に会えるイベント的な扱いだった感じ!?」
「おぉ! 多分そうなるのじゃ!」
ふとした気づきにエフィーも納得を示す。お前も知らなかったのかよ! つまり特級迷宮が亜人達モンスターを作り出すんじゃなく、亜人のいる異世界の場所が特級迷宮になるってことか。
「特級迷宮に当たれば向こうの王の配下や眷属たちと和解できる可能性は……まず、特級迷宮に当たる可能性が低すぎるか。いや、とりあえずエフィー、争いの理由は聞かない。けど、その争いを止めることは出来ないのか?」
「……無理じゃな。主よ、お主は家族や見知った人物に死ねと、そう言えるのかの? 我は無理じゃった。じゃから……敵対したのじゃ。その理由は言えん。済まない主……」
エフィーが頭を下げる。その行動に俺は一瞬固まってしまった。そうだよ……エフィーは何百年と争いをしていた。
聖戦で多くの仲間が散った事は闇の大精霊シェイドが話していた。眷属達と仲良く過ごし、サリオンさんが囮となった時には激しく怒っていた。
なんか変に高揚感があってはっちゃけたテンションになっていたけど……エフィーはいつも、誰かを守るために全力だった。
俺は全部話してくれないせいで無駄に苛立って、自分の思い通りにならないと責め立てるような言い方をしてしまった。さっきまでの俺が馬鹿に思えてくる。
「纏めよう。敵はエフィーと使徒を従える王以外の7人の王。異世界では精霊王グループは今も敵対しているため、エルフ達は戻れない。敵対している理由は話せない……」
「その通りじゃな」
「ひとまず俺がするべきことは、ヘレス達エルフの完璧な保護だな。本部長が後ろ盾になってくれるとはいえ、ちゃんと確認しないと。水葉を目覚めさせるのは……俺の等級とか、色々ゴタゴタが落ち着いて時間が取れたらにしよう。目覚めてすぐ独りになんてさせられないしな」
俺は確かめるように今後の目標を確かめた。
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