第193話~あ、頭撫でないでください~……!~
大地さんからエルフ達の保護を探索者組合が引き受けることが知らされると、諸星社のホールに集まっていた探索者が歓喜に湧く。
『ねぇソラ、あたし達の身の安全は確保されたってこと?』
「そうだよ、いきなり矢で殺されたりなんてしないから安心して」
『ちょっ、意地悪言わないでよ、もうっ!』
不安げなヘレスは冗談で気を逸らしてやる。ヘレスは頬を膨らませながら、族長にちゃんとした報告に行くようだ。大地さんの言葉じゃ伝わらないから大半のエルフ達は困惑しているようだし。
『ソラ、ここにいる人達って、これからも会えるよな? と言うか言葉が通じるの、精霊王様とソラと精霊様……コトカ様だけだし』
『まだ確定じゃないけど、一緒に居ないと話が進まないからね。しばらくは俺か琴香さんが一緒に行動すると思うよ』
『そっか、良かったぜ……』
アムラスの安堵した様子を見て、俺も頬を緩ませる。すると服の裾を引っ張る感覚があった。下に目線を落とすと、ララノアちゃんだった。
『ありがとう、ございます……』
「これぐらい、エルフの里で受けた恩や施しに比べればなんて事ないよ」
『……そう、ですか』
「うん。だから気にすることもないし、遠慮しないで色々言ってくれて良いんだよ。喉、乾いてない? 気温とか大丈夫?」
唯一接点のある子供のララノアちゃんにそう尋ねる。もし何かあれば他の人達にも用意させよう。あ、もちろんお茶は出してあるよ!
ララノアちゃんにはジュースでも買ってこようとしただけ。食べ物は……さすがにさっきまでの激動の出来事から食欲はないと思うし。
『…………では、その……お姉ちゃんの事、気にかけて下さい。多分、明るく振舞っていますが、サリオンさんの事で落ち込んでるはずなので……』
「ふふ、ララノアちゃんは本当にお姉ちゃんの事が大好きなんだね」
『あ、頭撫でないでください~……!』
ララノアちゃんが顔を赤くしてそう言ってくるのでそっと手を離した。ここでもお姉ちゃんへの想いを優先するなんて、すっげぇ姉妹愛だわ。
『お、お姉ちゃんに言いつけますよっ?』
『多分、ヘレスは羨ましがるだけだぞ』
『む~っ! やっぱり、この人はズルいですっ!』
アムラスの言葉にララノアちゃんは頬を膨らまし、そう言いながら頭を抑えつつ後退りで去っていった。
『所で今日はどこで寝泊まりをする予定なんだ? 俺はこの柔らかい床でも寝れるが』
「諸星社長……俺たちの雇い主がなんて言うかによるけど、最悪毛布での雑魚寝になるのは許してくれ」
『こんな良い環境ってだけで十分だよ。まぁ……空気はちょっと美味しくないけど』
「一応、空気清浄機ってのを使ってるらしいんだが……」
「なるほど、通りでムラがあるわけだ」
アムラスお前、と言うかエルフはそんなことまで分かるのかよ!? 牧野さんが話してた時に喜ぶの分かるわ、なんか男のロマンをくすぐられる! そう思っていると琴香さんが近づいてきた。
「空君、さっきの見てましたよ」
「琴香さん? 何をです?」
「幼女へのセクハラを、です」
「え、いやあれは──」
『じゃあなソラ、お前を置いて先に行く』
「ちょ、アムラ──、逃げるな卑怯者ぉぉぉ!!!」
琴香さんにがっしり右肩を掴まれた俺を見て、アムラスが逃げ出した。あいつ、本当に後で覚えておけよ!
「空君、この後どうなると思います?」
「え? ……少なくともメディアにエルフ達の情報が出回るのは隠し通せば1週間は持つかと。明日には本部への移動が始まるでしょうね」
「そうじゃなくて……無事に、扱われるでしょうか?」
琴香さんの対応が思っていた事とは違って戸惑ったが、俺は軽い今後の予定を予測した。すると琴香さんは不安げな表情でヘレス達の方を見た。
「当然、大切にされますよ。もし余計なことをする人がいたら、エルフ達の保護を認めた本部長が黙ってませんし」
あぁ、エルフ達の心配をしているのか。そんな分かりきったことを……。琴香さんも不安なんだろうな。誰かに口にして貰わないと安心出来ないんだろう。そう考えて琴香さんの望む答えを用意する。
「そこは『俺が守りますよ』とか言った方が格好良いですよ?」
「そんなキザなセリフ、俺に言えるわけないでしょう?」
「えぇ……(ドン引き)」
何故か軽く引かれた。理不尽だ……。
「空空、ん……」
そう考えて首を傾げていると、氷花さんが俺の肩を指でツンツンと叩き、そのまま扉の方を指さす。
俺がそちらの方に目を向ければ、大本さんが歩み寄ってきていた。氷花さんはいつの間にか消えていた。忍者かな?
「篠崎さん、ご無事で何よりです。S級上位の測定結果が出た時には驚きましたが」
「S級、上位? え? そこまで上がってたんですか!?」
「おや、知らなかったんですか。えぇ、S級上位の迷宮から、あなた達は生還したんです。数日後にはエルフ達のことを伏せて、諸星組合名義でニュースが流れるかと」
大本さんから唐突に告げられた事実に動揺していると、さらに追い打ちが掛けられる。いや、諸星組合名義なら別にまだマシか……。
いや、マシとか考えてる状況じゃない!? 世界で初めて地球に現れたエルフ達への扱いだけで大変なのに、初の特級迷宮S級上位からの生存。
しかも後から再発現のS級探索者が潜っていたと報道されれば……俺、恐ろしいほど注目されるんじゃ……?
ノォォォォォッッッ!!! 今更ながらに俺も注目される立場になっちゃってる!? 色々ありすぎて忘れてたけどこっちの対処もしないとっ!
S級再発現者であることを隠す! いや、それじゃあ日本でのエルフ達への対応が変わる恐れがある。S級を敵に回すのは避けるべきと意見が出なくなるからな。
「……あの、篠崎さん?」
「いえ一切問題ありませんよ! …………はぁ、すみません。それで、お話は再鑑定の事ですか?」
「話が早くて助かります。で、実際のところはどうなんですか? まさかエルフ達への助力のために嘘を付いた、なんて事はないですよね?」
「えぇ。再鑑定してみないとはっきりはしませんが、少なくともA級よりは強いかと」
1つ前の契約状態でもA級魔法系探索者の氷花さんより身体能力は明らかに上だったしな。魔法系である事を加味しても、それから契約上書きをしたんだ。S級の域には到達していると思いたい。
「……分かりました。本部の方で準備を済ませておきます」
「ありがとうございます」
大本さんが再びスマホを取り出す。再鑑定自体に準備は必要ないが、待ち時間や混乱などを考慮して特定の時間を貸切にでもしてくれるのだろう。
そうして大本さんに別れを告げる。その後、諸星社長から直々にエルフ達の布団が配られた。ホテルを貸し切ることも考えたが、一般人に見られるリスクがあるからな。
俺たちには別の建物の場所が用意されるそうだったが断った。同じ建物内……諸星会社にいたいと探索者全員が懇願したからだ。
さすがに部屋は別にしてもらったよ。今夜ぐらいはエルフ達だけにしてあげた方が良いだろうし……。
「そう思ってたんだけどなぁ……」
『? ソラ、今何か言ったかしら?』
俺は今、夜中に部屋を抜け出して薄暗い廊下にヘレスと2人っきりになっていた。
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難聴系ヒロイン爆誕!
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