第192話~エルフ達の運命は~

 事情聴取は俺たち全員の代表で大地さんが申し出た。他の探索者達からエルフについては保護を要請するような意見が上がり、大地さんも首を縦に振る。


 俺たち10人の意思はエルフ達を守る、その一心で結束している。ただ問題はそれ以外の連中だ。地球ではエルフ達亜人は特級迷宮にいる知的生命体のモンスターの1種とされている。


 この認識をまず覆さなければいけないし、そもそも地球上で初のエルフ。日本国が引き渡しの要請、もしくは世界がそんな事をしてくるかもしれない。


 全世界が死体でも手に入れたいと思うことは間違いないだろう。日本側も血液のサンプルや細菌の有無、ウイルスを保有している可能性も考え、貴重な被検体として保護という名の管理をしようと思うことは確実。


 俺たちの後ろ盾は諸星社だが、一会社が国を相手取れるわけも無い。会社に傷をつけることになるからな。


 つまり、エルフ達の命運は全て、大地さんの手腕に掛かってる。……うん、少しだけだけど手助けするか。



「大地さん、大本さんにこう伝えてくれませんか。再鑑定の準備、よろしくお願いします』って」


「? あ、あぁ。分かったよ」



 大地さんは頭に?マークを浮かべたが、大本さんなら気づくはずだ。探索者の人達は俺が再発現者だと思っているが、大本さんだけは俺が成長していることを知っている。


 だから俺からの言伝の意味は『俺はS級探索者と並べる実力になった。成長する不自然さを隠す必要性も無くなった』となる。


 1度S級認定されてしまえば、あとはどれだけ実力を上げようともS級である事には変わりないからな。まぁ、正確にはもう一段階上があるが、あれは別枠だから……。


 ちなみに俺の実力が本当にS級に達しているかは謎だ。ただ、今までの契約上書きでは大体等級は1段階以上、上昇することが確認されている。これについては賭けるしかない。


 ともかく、S級がエルフ達の味方をしているぞ、という圧力は少なくとも日本に限ってはすごく効く。多少の時間は稼げるはずだ。


 情報規制を大本さんと諸星社長がしたはずだから、海外にバレるのにはいくらスパイが入り込みやすい日本でも数日は持つはず。……マジで持ってくれ!


 俺に出来ることはそれぐらいだった。あとは大地さんに任せるしかない。



***



 私は今、非常に疲弊していた。何故かって? ちょっと視察に訪れただけの組合からとても珍しいA級再発現者が現れ、史上初の成長する探索者が現れた。


 さらに危険な特級迷宮が現れ、過去数件しか前例のないS級上位が現れ、しまいには亜人のエルフが現れた。


 もう、本当に勘弁してくれ。何度頭の中でそう思っただろうか。一つだけでも公表すれば大きなニュースになるのに、その全てをできる限り表沙汰にはしないようにしなければいけない。


 大地、諸星社長、私の話は長く平行線状態が続いていた。大地の奴はエルフ達を保護するように訴える。諸星社長は会社を潰さないように立ち回って対立気味、私もエルフ達の保護を優先したいが、絶対に国からの横槍が入ることは間違いない。



「社長、彼らの保護をお願いします。我々が助けられたように、今度は私たちが手を伸ばしたいのです」


「エルフだぞ? その希少価値を少しでも理解しているなら、お願いだから諦めてくれ。私は外からの圧力で会社を潰したくはない」


「探索者組合としては組合の保護下に入れば日本からの圧力は無くなります。ですが世間はそれを許してくれませんでしょうね」


「モンスターでは無いことを証明しろってことですか?」


「いや、たとえ同じ人間だと断言しても、世間での評価は割れる。人間とは異質な物を嫌うからね」


「もしエルフが受け入れられたとしても、アメリカやロシア、中国などから何人か派遣して欲しいとの要請も来そうです。なんせ、100人近くもいるんですから。探索者組合としても断りきれるどうか……」


「彼らはペットではないんです! 故郷を追われたエルフ達に、今度は珍獣のような見世物になれと!?」


「栄咲君、落ち着きたまえ。いつもの君らしくないぞ」


「栄咲さん、落ち着いて下さい。そもそもこんな世界規模で話し合われるような内容を我々だけで議論している現状がおかしいんですから」


「っ……すみません」



 大地は想像以上に荒れていた。無理もない。自分の一存でずっと良くしてくれた人達が、悲惨な運命を辿るかもしれないんだから。



「……探索者組合本部長に掛け合いましょう」


「っ!? 本部長か。確かに彼ならば、国の総理や他国の重鎮とも会談ができる実力と権力を兼ね備えているが……」


「えぇ。いくら本部長とはいえ、後ろ盾になってくらるかどうか……」



 私の発言に諸星社長は安堵の表情を見せる。彼にとって会社が後ろ盾になるリスクを回避できるのだから万々歳だろう。


 ただ、私は本部長は本当にエルフ達の味方となってくれるだろうか? あの性格だから可能性はあるが……いや、考えていても仕方がない。聞くだけ聞いてみよう。


 そう思い席を外して電話をすると、10分だけ待って欲しいとの応答があった。それを2人に伝えて時間通り10分が経つと、本部長から折り返しの電話が掛かってくる。



「大本さん、どうでした?」



 本部長からの答えを聞いた私に、大地の奴が真剣な表情で尋ねてきた。諸星社長もチラリとこちらを伺ってくる。



「えー、エルフ達は最優先で保護せよ、すべての責任は私が持つ。万全の体制で本部まで護送せよ……との事です」


「っ! 本部長に感謝します!」



 大地が拳を握って頭を下げてくる。あいつがここまで入れ込むんだ、私も会ったら頭を下げないとな。……それにしても、あの本部長が咳き込むほど早口で許可を出すなんて……。


 いや、リスクを容認した上でそれでも彼らを保護する有用性を優先したんだろう。まさか1時の好奇心に負けて、今後予想される総理や外国からの圧力などは一切考えていないなんて、まさかそんなわけがない。



「ふむ……では護送にはうちから探索者数名を出そう。もちろん他にも出資させてもらうがね」


「っ! よろしいのですか社長」


「本部長が全面的に肯定し、保護までしてくださるんだから当然だよ」



 諸星社長の粋な計らいに大地が喜びをあらわにした。数名とはもちろん今回特級迷宮に潜った人達の中からだろう。



「あ、そう言えば篠崎空君から、大本さんに伝言かあったよ」


「おい、そういう事は最初に言っておけよ」



 篠崎さんからの伝言なんて、結構重要な事だぞ。今の会議に必ずしも必要だった内容とは限らないが、先に言っておいて欲しいものだ。



「いや悪い。エルフ達の方が優先だと思ったから」


「それで? 一体何を篠崎さんは言っていたのかな?」



 大地の言葉を聞き、若干態度を柔らかくして私は再度尋ねる。



「なんでも、再鑑定の準備よろしくだってさ」


「……は? はぁぁぁっ!? 先に言えよ大地ぃぃぃぃっっっ!!!」



 私の怒鳴り声が部屋中に響いた。



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なんか限定近況ノートとかのサービスがあるらしいですがやりません。限定書くほどの余裕ないのでSS書けたとしても普通に投稿します。

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