第167話~強姦未遂~

 あれから何回かおじさんとハプニングはあったが、特に大きな出来事は起こることも無く、私たち3人での生活が過ぎていった。



「それじゃあ行ってくるわね」


「お母さん、行ってらっしゃい」


「気をつけてね」



 休日、お母さんが夕方前に仕事で出かけていくのを見送る。おじさんは自宅でもできる仕事のようで、いつも家にいる。



「早く仲良くなってね」



 とお母さんからも言われているので、私も話せる機会が多くなることは嬉しい。でも、まだ少しだけ怖いって気持ちもある。


 そんなにすぐ慣れっこなんて無理だよ。だって男の人ってお母さんを捨てて、小学校の時には私をいじめてきたんだもん。中学校からはそんな事も無くなったけど、高校生の今でも慣れない……。



「それじゃあ琴香ちゃん。私は仕事をしておくから、何かあったら呼んでくれ」


「うん……」



 私は少し距離を取りつつも返事をする。家族になるんだから早く慣れないと……そう思う。でも失礼だけど……何となく無理だった。


 その後、私は机に座って勉強していた。私は馬鹿だし、要領も悪い。頭の回転も速くない。……でも、お母さんの助けになるようにと、頑張って毎日勉強している。


 その成果か80点ぐらいは取れる頭はある。お金の関係で私立大学には行けないかもけれど、少しでも良い奨学金制度が受けられればもしかしたら……。


 コンコン……扉をノックする音が聞こえる。おじさんだろう。何か用事でもあったのかな?



「はい、なんです?」


「ごめんね琴香ちゃん。ちょっと話があって、部屋入れて貰えないかな?」


「え……部屋、ですか?」



 1番最初に得も言わせない拒否感が現れる。おじさんもそれを感じ取ったのだろう。



「いや、そうだねすまない。年頃の娘さんだ。こっちの方で話そうか」



 おじさんは気にした様子もなく、そう言って扉を開けてリビングに誘ってくる。それを見た私は申し訳ない気持ちとお母さんの言葉を思い出した。



「い、いえ……部屋で大丈夫です。家族ですから。どうぞ……」



 私は軽く深呼吸して息を整え、おじさんを部屋に招き入れる。よし、1歩前に進めたんじゃないかな? これで……お母さんも喜んでくれるよねっ?



「それでおじさん、話ってな、に……えっ?」



 部屋に招き入れておじさんに尋ねると、おじさんは無言で私に近づき、手首を取った。掴まれた手首とおじさんを交互に見ながら、なぜこんな事をされているのかを考える。



「おじ、さん?」


「君は実に良い子だね。お母さんをとても大切に思っている事がよく分かるよ」



 おじさんはいつも通りに優しい声でそう告げてくる。だが何故だろう……その笑顔が、私はとても恐ろしく思えた。



「きゃっ!」



 首を傾げた途端に手首から手を離される。私がホッとしたのもつかの間、今度は肩を両手で押されて倒れ込む。



「すごく軽いね。中学生かと勘違いしちゃうよ」


「おじさん、なに? 一体どうしたのっ?」



 私は恐怖で腰が抜けたように動けなくなる。手で這うようにジリジリと後ろに下がるも、すぐに壁にぶつかり逃げ場を無くしてしまった。



「ふふ、お母さんが見せてくれた君の写真を見て震えたよ。なんて可愛らしいんだろうって。はぁ、はぁ……見た目は幼い中学2年生ぐらいかな? でも中身は高校生だし、もう良いよね?」


「ひっ!」



 おじさんは息を荒くして、変な言葉を口走る。そのまま私の両手首を押さえつけ、片手で頬に手を伸ばし、首筋へと降ろしていく。


 可愛いと褒められているのに、私の心はピクリとも喜ばない。本来の意味に対して、目の前の現状とおじさん自身の言葉の意図がまるっきり違うからだろう。鳥肌が立ち、思わず息を飲む小さな悲鳴が漏れた。


 体をねじったり足で逃げ出そうとするも、私の小さな体じゃおじさんはビクとも動かない。怖い……っ。



「その表情も良いね~。唆るよ」


「な、なんで……こんな、お母さんと、結婚するはず、じゃ……?」


「言ったじゃん。君の写真を見て震えたんだ。つまり君のお母さんは手段。目的は琴香ちゃん、君だよ」



 それを聞き、私は絶句する。あれだけこのおじさんを好きになり、家でもよく見せようと化粧をしていたお母さん。それをただ私に近づくためだけの手段としか、このおじさんは見ていなかったのだ。



「最っ低です……っ!」


「あは、大人しそうに見えて、芯の強そうな所も可愛いよ。さぁ、どこで心が折れるのか楽しみだね」



 精一杯睨みつけて言葉を放つ。しかしおじさんはそれすらも余興かのような笑みを浮かべて私の服へと手を伸ばす。バサッとたくし上げ、下着が露わになった。



「や、やだ……やだぁ……!」


「えぇ、折れるの速すぎでしょ。もうちょっと気丈な琴香ちゃんも楽しみたかったんだけど……にしても、ちょっとは膨らんでるじゃん。もう赤ちゃん作れそうな体だねっ」



 私が瞳に涙を浮かべて拒絶の言葉を述べると、おじさんは興ざめしたようにため息をつく。なんで私はこんな目にあってるんだろう?


 何がそんなに残念なんだろう? 訳が分からないよ……なんで、私がこんな目に合わなきゃいけないのっ?


 私、お母さんを悲しませないように寂しいのも我慢した。家事もお勉強も頑張った! その結果がこれなのっ?



「そんなのって……ないよぉ……。酷い、よぉ……」


「お、頂きま~す」



 今の惨状……それまでに受けた酷いこと、悲しいことが一気に押し寄せて、それが声に込められて口からこぼれる。ポロポロと涙も同じように溢れ出て、頬を濡らした。


 するとおじさんはそれを見て表情を変え、その顔を私の顔に近づけて……私の瞳から零れた涙をペロリと舐めた。



「ひやっ!?」


「う~ん、程よくしょっぱい塩味。やっぱり美少女の体液って美味しいね~」



 笑顔で舌なめずりをしたおじさんがそう言ってくる。私は恐怖で歯をカチカチと鳴らし、おぞましいものを見る目を向ける。


 なに、なんなの? 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!! 震えが止まらないよ……いやぁぁ、やだ、やだやだ……やだ……やだよ……っ。



「ふへへへ~、その目良いね。ちょうど良いから教えてあげるよ。犯されそうになった時、人は色々なパターンがあるんだ」


「……は? 意味、わかんないよぉ……っ」


「まず、私は負けていないんだ、私は何もされていないんだって気丈な振る舞いをする人。犯している最中にも色々と暴言を吐いてくるのもチャームポイントだね」


 おじさんが笑顔で語り出す。拒否感、嫌悪感しか抱けないがその語りには実感が感じられる。つまり、このおじさんは今までにも似たような事をやってきたのだろう。



「ふふ、体が硬くなってる。いい感じに恐怖してくれた? それじゃあ次に無反応を装う人。もしくは意識を無意識的に飛ばして、現状から目を背ける人もいるね。一般的に言えばマグロが近いかな。君も多分、そのパターンだよ。いつまで君が正気を保っていられるのか、実に楽しみだ……!」


「何が、楽しみなんですか? ふっ……意味が、分かりませんっ……ひっぐ。……こんな、人を騙して、弱いものいじめをして……」



 嗚咽を漏らし、涙を流しながら私が問掛ける。おじさんはキョトンとした表情を浮かべ、ポリポリと頬をかいたかと思うとこう言った。



「え、楽しいでしょ? 女の子が嫌がる事をして、気持ち悪がったり泣いたり痛がる姿って興奮しない? 僕なんてこれが生き甲斐なんだけど。これで良い?」



 まるで当たり前だと言わんばかりの表情で、むしろ私の言い分が理解できないと言いたげな顔でおじさんはそう告げてくる。



「い、や。やだ! やめて、やめてよぉ……お母さんっ、助けてっ、助けてよぉ……っ!」



 この人のおぞましく歪んだ欲望が理解出来ず、今からされること、話し合いも、何もかもが無意味だと言うことを理解した私の心は壊れる。


 まるで子供のように泣きじゃくり、無意味に暴れる。おじさんはそんな私を見て面倒くさそうな表情をしつつも、口元は笑っていた。


 そのまま片手でズボンを下ろし、私の足を無理やり開かせたところで激しい衝撃が我が家を襲う。



「ぬわぁぁぁっ!?」


「きゃぁぁぁっ!?!?!?」



 私とおじさんの悲鳴が鳴り響く。咄嗟に閉じていた目を開けると家の天井にはヒビが入っていた。



「地震か? ったく、結構大きかったぞ。こんなの時に……琴香ちゃん、ちょっと外見てくるから、このまま待っててね? 待ってなかったら……おじさん、いつもしてる事より酷いことするから……分かった?」



 おじさんは冷静に笑顔を浮かべ、目を指で刺す仕草をしながらそう言ってくる。私は僅かに首を縦に振る。それを確認したおじさんは私からどき、玄関へと向かった。



「見たところ火事は起きて……なんだあれ? うわぁ──」



 おじさんの声が途中で途切れ、ザシュッ、ゴトッと言う音が響いてから少しして、私は動きだした。なに、なんなの? 今の音、何?


 おじさんも戻ってこないし、声もしない……お外で何か、あったのかな? 私からおじさんのいない恐怖が薄れ、体が動くことを確認する。


 恐る恐る、玄関へとゆっくり歩いて近づき……中途半端に開いた扉から外を確認する。少しだけ緑の何かが見えた気がしたが、気のせいだろう。おじさんは外の廊下に倒れていた。……首がない状態で。



「へっ? ……うぷっ、おろろえぇぇぇっ」



 先程まで言葉を喋っていたおじさんの首が無い遺体、血がドバドバと廊下へと溢れ出す。それどころか、鉄格子の隙間からおじさんの血が下へと落ちていくのも確認する。


 それを見た私はその場で吐いた。ついさっきまで私を襲おうとしていたおじさんが、何も言わない骸となってそこに転がっていたからだ。


 なにが、どうなってるの……? 変な、爆発みたいな衝撃があって、おじさんが確認に外出て……死んで…………。分かんない、分かんないよっ、もう、頭がぐちゃぐちゃ……っ!!!


 口元を止まっていなかった水道でゆすいだ私は、乱れた髪や服もそのままで、おじさんを放置して交番へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る