第156話~仲直り~
翔馬がいる。2年ほど前、変な別れ方をしてしまってから気まずくて1度も会わなかった、親友がそこにいた。いや、元親友と呼んだ方が良いだろうか? 向こうはどう思っているんだろう?
「空、だよな?」
「そうだけど……久しぶり、翔馬」
「うん、久しぶり。……ごめん、一瞬分からなかった。2年前より結構成長したなって、思ってさ……」
「そりゃ、そうだろ」
お互いが気まずさを感じたのだろう。まずは軽く、挨拶から入る。翔馬は2年前から身長も伸び、少しだけ顔も大人っぽく変化していた。
「いや、空は本当に変わったね。昔は満場一致で可愛い! だったのに、今は中性的にまで成長してる」
「成長のレベルが低いよ? 僕まず男だし格好良いはどこ行った?」
「最初から居ない」
「酷すぎる! ……ははっ」
「ふふふ、変わらないね。君は」
「そっちこそ」
なんか昔の僕が子供っぽいと言われた気がしたが、それがどうでも良くなるぐらい、翔馬との関係は変わっていなかった。ひとまず部屋の他に掃除をしておいた玄関に翔馬を招き入れる。
「空は江部一香さんと一緒に暮らしてたんだよね? 急に戻ってくるなんてどうしたの? 家出?」
「いや、今も普通に暮らしてるよ。ここに来たのは……もう、行けるかなって思ったから」
話を聞いていくと、僕と別れたあとにも翔馬はちょくちょく家に訪れたりしていたらしい。もちろん鍵も無いし、入ったりすることも出来ないけど、それでもただ、ここに赴くこともあったそうだ。
今日は塾の帰りにフラっと寄り道したところ、電気がついていたので慌てて来たらしい。そして僕と再開したと……。
僕も自分のことは話した。水葉はまだ眠りについていること。F級発現者となったこと。一香さんとは色々あったが仲良く暮らしてること。
「そう、だったんだ。……でも、元気そうで良かったよ。あ、また来いよ。この家、僕も手伝って綺麗にしたいからさ」
「うん、また2人で遊んだりもしようね」
「……2人で、か。……なぁ空、穂乃果って子、知ってる?」
突然、翔馬がそんな事を聞いてきた。穂乃果って確か、前にも聞いてきた子だよな? あれ、また頭が痛くなってきたぞ?
「いや……知らない、けど?」
「この子だよ。本当に?」
翔馬がスマホを操作して、写真を見せてくる。僕と女の子が写った写真だった。その女の子には見覚えがある。
僕の机の上に飾られていた写真に、今見てるのより幼いながらも同一人物が写っていたのだから当然だ。この子が、穂乃果……いっ! 頭が痛い!
「翔馬、それ閉まって……!」
「お、おいどうした空!?」
「な、何でもないよ。ちょっと目眩がしただけだから」
翔馬がスマホを置いてオロオロとした様子で僕を心配してくる。本当だった。だって今はもう痛みは無かったのだから。
「嘘つくな。頭が痛いのか?」
「……うん。翔馬の言う人の写真を見ると、頭が痛くなるんだ」
「っ!?」
翔馬の目がカッと大きく開いた。驚きの表情だ。
「なんでだろうね? でもそれよりも……今は、胸が苦しいんだ。もう少しで思い出せそうなんだけど……思い出したらいけないって感情がいっぱいあって……頭の中がグチャグチャで……」
「……空、無理しなくて良いよ。穂乃果だって、空がそんな風に悩む姿見たくないと思うからさ。だから……もう良いんだよ」
翔馬が震える僕の手を取り、ギュッと強く握りしめる。僕の視線が自然と上へあがり、翔馬と目が合った。
「でも……忘れちゃ、その人は──」
「空、穂乃果のことは忘れるんだ。大丈夫、君の代わりに僕が覚えておく。君が大丈夫だと思えたらまた話す。今は、まだ……その時じゃない」
翔馬の耳によく響く声が、鋭く僕の胸に刺さる。僕はその言葉に……ゆっくりと首を縦に振った。……そう、だよな。忘れたって事は、忘れて良い程度の人だったんだから……。
でも、何でかな? 目から頬に、そこから顎にかけてがなんだか熱いんだ。あぁ、知ってる……涙だ。忘れちゃダメな人を、僕は忘れたんだ……。
「なぁ、翔馬……僕達って、親友だよな?」
「当たり前だろ?」
その一言を聞いた僕は、胸のモヤモヤが薄れた気がした……本当に、気がしただけだが。その後、翔馬とはスマホで連絡先を交換して別れた。早く帰らないと怒られるらしいからな。
「一香さん、いるんでしょ? 出てきてよ」
「なんだ、気づいてたのか」
「そろそろ帰ろうよ。翔馬と連絡先も交換できたし、また3人で一緒に掃除でもしにこよう」
「……そうだな。それじゃ帰るか」
一香さんは最後に少しだけためを作ってから同意してくれた。多分、掃除するのが嫌だったのだろう。だって一香さん、掃除とか無理な人だし……。
でも今日は、一緒に居てくれただけで心強かった。泣かないでいれたのは、一香さんが隣にいたからかもしれないな。
「一香さん……今日はありがとうね。ううん、いつもありがとう、の方が正しいかな」
「…………ぉぅ」
少し照れた様子の一香さんが小声で返してくる。面と向かってお礼とか言うの久しぶりだし、照れているのだろう。
そして僕達は汚れた服から着替えて、車で帰宅してすぐにお風呂に入った。
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作者、現ファン小説を書いておきながら、今までに読んだ現ファンのウェブ小説が4シリーズしかないことに気づく。
つまり『村作りゲームのNPCが生身の人間とかしか思えない』って作品おすすめです。……あ、お前の趣味なんてどうでも良いですか。失礼します……。
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