第155話~ただいま~

 着いたぜ、と一香さんに言われて、僕は車から降りる。そこには住んでいた頃と何も変わらない我が家があった。


 家の鍵を使うとガチャッと音を立てて、扉が開く。電気はついてないので薄暗い。



『おかえり空ちゃん!』


『兄さん、宿題で教えて欲しいところが』


『おかえり空』


 次の瞬間には父さん、母さん、水葉の3人が僕を出迎える幻覚が見えた。



「…………ただいま」



 約2年越しの実家への訪問に、僕はついこの間まで過ごしたような感覚を覚える。目から涙が溢れそうになる。


 あと、胸も苦しい。本当に胸も……いや、胸じゃない!? 肺が苦しいんだ! そうだよ、お掃除してないんだからホコリ溜まりっぱなしじゃん!


 感動も覚めるホコリっぽさに耐えきれずに一旦外に出て、マスクを装着してから改めて突入する。後ろを一香さんがキョロキョロと見回りながらついてきた。



「別に、大したものは無いですよ?」


「空がここで過ごしてたって思うだけで、めっちゃテンション上がるぞ?」


「そうですか……」



 同じくマスクを付けた様子で一香さんが答える。僕達は予め汚れると予想していたので、汚れても良い服に着替えてきていたので、ガバッとカーテンと窓を開けて換気する。


 ま、マスクは家に来た事の方が重要だから忘れてただけだぞっ! ちょっとしたうっかりだ! 誰だ今お前も一香さんと同類とか言ったやつ!



「ここで……母さんの作ったご飯を食べた」



 リビングのテーブルを見て、僕は呟いた。



「ここで、父さんとゲームしたりした」



 同じくリビングにあるソファーとテレビを見つめて、小さく呟く。その後、1階を見て回ったが特に収穫はなかった。


 ……いや、一つだけあったと言っても良いかもそれない物がある。……冷蔵庫の中に入っていた食材達だ。あれはまた後で処理しよう! 一香さんと目を合わせて同時に頷き、逃げるように2階へと上がった。


 家族との思い出がどんどん込み上げてくる。でも、僕は泣かなかった。いや、悲しくなる気持ちはあったけどね。


 でもそれじゃあ、水葉を託してくれた父さんと母さんに、僕が認めて貰えないからさ。絶対に泣かないよ……。



「ここは……水葉の部屋……おぉぅ」



 扉を開けると、天井と壁に僕の拡大写真が貼ってあった。何これ怖いんだけど……いや、思い出した。水葉が僕を部屋に入れたがらない理由ってこれだったのか!? てっきり思春期だからかと!?



「なんというか……愛を感じるな」


「無理しなくて良いですよ。水葉は僕にベッタリでしたから」


「これ、そういう次元か……?」



 僕と一香さんはひっそりと水葉の部屋を後にする。このことは墓場まで持っていこう。



「そしてここが、僕の部屋です」



 そう言って扉を開けて部屋を見渡すも、特に目立つものもない、普通の部屋。少し入ると、机の上に家族の集合写真が飾られている事を発見する。



「ぁ……」


「へぇ、さっきも思ったけど、昔のお前って可愛かったよな」



 僕が持っていた家族の集合写真を、一香さんが覗き込むように見てくる。



「これが父さん。これが母さんで、こっちの小さいのが水葉……。この子が僕で、隣に翔馬。もう一方の隣が……ぇ?」



 一香さんにも教えるように写真に写った人の名前を挙げていくと、僕の隣に1人、知らない女の子がいた。多分、同い年で……見た目も可愛く、大人しそうで、でも明るく振る舞うそんな姿が……頭にすぐ浮かんで……。



「づっ!」


「ど、どうした空!?」



 その少女について考えていくうちに、頭に鋭い痛みが走る。もう少しで、成長した姿も思い出せそうなんだ。この子は……確か……。


 そう考えていくほどに、頭の痛みは増してくる。一体なんなんだ? ひとまず考えることを辞めると、痛みは収まった。……この子に、何があるんだ?



「空、大丈夫か? 病院行くか!?」


「ううん、大丈夫だよ。ちょっと頭が痛かっただけだから」


「そうか? 無理はすんなよ? ……一旦外に出るか?」


「じゃあ、そうするよ」



 心配そうな目で見つめてくる一香さんの圧力に耐えきれず、僕は折れて外の空気を吸いに出た。ふぅ~、ホコリまみれだったからかな? すっごく空気が美味しく感じるよ。


 その後、冷蔵庫の中身を頑張って処理する。次に僕の部屋を掃除し始めた。一香さんがここだけは綺麗にしておこうぜ! との一言があったからだ。多分、ベットの下にエロ本が隠されてるかのチェックをしたいからだろう。


 上から下に、まずはホコリを落として雑巾で拭いたりして、カーテンや布団、シーツなどは全て洗濯機に放り込む。


 そうそう、この家は今、一香さんが所有してることになってるから、電気もつくし、水道から水もちゃんと出るようになってる。だから安心してくれ!



「……ふぅ、とりあえず住める程度にはなったな!」


「住むって……僕の家は一香さんの家ですよ?」


「細かいことは気にすんな!」



 まぁ、綺麗になったと言う比喩だろう。そう考えた所で外を見ると、綺麗な夕焼けが見えた。もうこんな時間か……。そう思っていると、1人の人影が近づてくるのが見えた。



「……空?」


「翔、馬?」



 遊びに行っていたのだろうか? 塾からの帰りだろうか? いや、それはどうでも良い。重要なのは、そこに翔馬が立っていたという事実だけだ。



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実は自分、2018年10月11日に小説をウェブ投稿し始めたんですよ。いつ間にか丸3年が経過し4年目に突入してました!!!これからもよろしくお願いします!

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