第104話~何だこの茶番!?~

「うめぇっ!」



 一番最初に口をつけ始めた最上のおっさんがそう叫ぶ。確かに美味しい。水分を多く含んだ果実の甘い果汁が口の中一杯に広がる。初めて食べたぞこんなの。


 シャクシャクと歯応えがありつつも、飲み物のような水分量の多さ。甘さはリンゴほどで、水分量はキュウリ以上だ。文句なしに上手い!



「へ、へぇ……私も一口だけ……美味しいわ……」



 最初は半信半疑だった柏崎さん達だったが、最上のおっさんの反応を見て気になったのか、一口手をつけると止まらなくなっていた。その後、俺たちは他の料理にも手をつけるが、どれも絶品だった。



「ふぅ〜、お腹いっぱいだよ」


「でも、俺は肉も食べてぇなぁ」


「エルフは肉なんて食べないよ! 森を大切にして、森の恵みだけで質素に生活してるんだからね!」



 大地さんの言う通り、大半の人たちにはちょうど良い量だったが、最上のおっさんは内容が不満だったらしい。だが牧野さんの力説に面食らいながらもコクコクと首を縦に振った。



「そうなのかい? それで良く体が大きくなるもんだ。牛ですら膨らまないのに」


「そこは……エルフなんで……!」



 北垣さんの質問に多少詰まりつつも、牧野さんはファンタジーのご都合主義だと押し通した。


 そうそう、未だ隠れて見ていたエフィーだが、俺たちが美味しそうに食べているのを見て悔しそうにしていた。


 確か「ぐぬぬ〜! 我も、我も食べたいのじゃ〜!」とか何とか言ってた気がする。安心しろ、果物とか食べやすいものはこっそり取ってあるから。


 食事を済ませた後はお風呂だ……と言いたいが、当然エルフの里にはそんな場所はない。冷たい水が用意されていたので、それで体を拭く程度だった。


 そして意外な活躍したのが、烈火さんが氷花さんに持たせておいたリュックだった。そこにはハンカチ、タオル、マッチやライターなども入っており、この状況ではよりどりみどりと言っても過言では無い。


 既に日は沈み夜となり、あたりは暗闇と化していたので、体力などを休めるためにも早めに寝る事を大地さんが提案した。


 柏崎さんあたりは見張りをつける事を提案したが、殺したりするつもりなら、もう既にこの世にはいないから必要無いと大地さんが告げる。


 まぁ、普通なら必要な場面だとは思うが、今も俺たちを監視しているかもしれないエルフ達に警戒、信用されていないと思われる可能性があるからな。大地さんとしては、比較的穏便に事を進めたいらしい。



「所で……寝る場所はどうするんですか?」



 琴香さんがそう尋ねる。それは男たちが全員考えていても、なかなか口に出しにくい話題だったので、女性陣から切り出してくれて助かったと俺は思った。


 みんなが離れの家と呼んでるこの場所だが、実を言えば大部屋が一つあるだけで、仕切りも何も無いのだ。つまり、男女が同じ場所で寝ることとなる。



「当然、私たち3人が家で男は外よね?」


「はぁ? 人数的にはそっちが出てけよ」



 柏崎さんと最上のおっさんが言い争いを始めた。



「私は別に構いませんよ」


「同じく……」



 だが予想外の発言が飛び出る。琴香さんと氷花さんが同じ部屋で良いと申し出てきたのだ。



「初芝さん、さすがにそれはまずいと思うよ」


「いえ、一つだけ条件がありますが、それさえ守ってくださればオールOKです!」



 北垣さんがすかさず止めに入るが、琴香さんはそう言って譲らなかった。



「私たちと、男性陣の間に……空を、置く」



 なんでやねん……。



「その通りです! 氷花さんはよくわかっていますね!」



 なんでやねんっ!?!?!? 意味分からないぞ!?



「はぁ!? なんでその男を仕切りにしようとするのかしらっ!?」



 そうだ! 今だけは激しく柏崎さんに同意する!



「だって空君は私を家に泊めたのに手を出してこないヘタレですから!」



 なんだその基準!? あとしれっと俺のことディスってるよね!? しかも何でバラしたのかなぁ!?



「同感。空は……鈍い」



 氷花さんまで!? 



「それに空君はF級ですから、間違いで柏崎さんが襲われてもすぐに倒せるはずです! ちなみに私はウェルカムです!」



 最初からその理由(F級。ただしS級探索者にダメージを与えられる)を言えよ! あとさらっと変な告白しないでください!



「ん。その通り……あと、私はノットウェルカム……」



 それが普通です報告いりませんっ!



「と、ともかく柏崎さんがダメな以上、その案は無しにしましょう!」



 俺は強引に話に割り込み、これ以上変な空気になるのを防ごうとする。だが、俺の想いは思いもよらない人物によって砕かれることとなる。



「ふ、ふざけないでいただけます?」



 柏崎さんがプルプルと肩を震わせてそう言ってくる。激しく同意だ、2人にビシッと言ってやってくれ!



「A級の2人が了承しておいて、わ、私1人だけが駄々をこねている? しかも、F級ごときに……? くっ、良いでしょう! 篠崎さんが仕切りになることぐらい別に構いませんわ!」



 何でやねんっ!? なんか違う方向に進んじゃったんだけど!? 柏崎さん、もしかしてA級の琴香さんと氷花さんに張り合おうとして無理したんじゃね? いや、絶対にそうだわ!



「女性陣全員の了承が出たので決定ですね!」



 柏崎さんが意見を変えないうちに決定させようと、琴香さんが早口でそう言う。



「ん、これで無事、解決……!」



 決定でも解決もしてねぇよ!? その後、俺が何かしら反論をしようと口を開くたびに「仕切りは喋るな」と言われ、正式に俺の寝る場所が決定した。


 何だこの茶番!?



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書き終わった直後の作者「何だこの茶番!?」

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