第105話~お詫び~
アホみたいな茶番が終わり、それから時間も経ち皆が寝静まった夜、俺は1人起き上がった。
周りを見渡し、きちんと寝ているかを確認する。1人か2人は不安で眠れていない人もいるかと思っていたが、不自然な寝息はない。ほぼ確実だろう。
それじゃあ早速、と思い俺は行動を起こす。いや、別に琴香さんに夜這いをかけるとかそんなんじゃないからなっ!?
琴香さんの「ウェルカムです!」……が未だに頭に浮かび上がるが、ブンブンと頭を振り邪念を消し去る。そしてみんなを起こさないようにゆっくりと家の扉を開けて、外に出た。
「……よし、もう出てきて良いよ」
「ぷは〜っ、やっと出れたのじゃ!」
少し離れた所で腰を落としそう呟くと、ポケットからエフィーが出てくる。他の人たちがいる所では隠れていないといけないからな。
「ずっと隠れっぱなしにさせてごめんなエフィー」
「全くなのじゃ! これは向こうに帰った時に1ヶ月毎日ハンバーグにしないと割りに合わないのじゃ!」
「はは、エフィーらしいやっ」
それでももちろん罪悪感はあるので謝ったが、なんとも庶民的かつ嫌な要求をしてきたもんだ。
「はいこれ、取っておいたよ」
「頂きますなのじゃ!」
夕食時に食べずに取っておいた果物をエフィーに見せると、一瞬で自らの手元に引き寄せて齧り付いた。その速度は戦闘時のサリオンさんを超えていたかもしれない。
「おいしい?」
「うむ! ハンバーグには及ばんがの!」
「そりゃ良かった。まだあるから、ゆっくり食べろよ」
そう言いながら、美味しそうに果物に齧り付くエフィーを見て俺は頬を緩める。果肉の一部が頬に付いていたり、果汁が飛び散ったりとしているが、その美味しそうに食べる笑みだけでお釣りがくるな。
「所でエフィー、その……精霊ってなんなんだ?」
俺は意を決してそう尋ねた。エルフの族長であるクルゴンさんとの会話からずっと気になっていた事だ。
「…………主人よ、それは人間とはなんじゃ? と聞かれても困るのと同じじゃ。答えられん」
「でも……精霊の成り立ち? と言うか生まれ方、はなんなんだ?」
「ふむ、では主人よ。人間とはどうやったらできるのじゃ? おしえて欲しいのじゃ!」
エフィーがニヤニヤしながら問いかけ返してきた。くそ、こいつ分かってて言ってやがるな!
「…………そんな顔をするな空よ。今のはちょっとした意地悪じゃ。……精霊とは、生き物として死に、その思いが具現化した物……みたいな感じかの? 我自身も詳しくは知らんのじゃ」
琴香さんは人間で回復系探索者だった。それをエフィーの力で精霊にした。回復系だったから、癒しの精霊として生き返った。ならエフィーは、どんな思いで精霊になったんだろう。
「主人よ、残念ながら我は生前の記憶を持ち合わせてはおらん。じゃから未練も何もないのじゃ。今、こうして主人と一緒にいる。それだけで十分なのじゃ……」
「……分かった。変なこと聞いて悪かったな。それと、ありがとう……」
エフィーが自分のことをこうして話し、俺に対してそう思ってくれていたことにお礼を言う。でもなんか、エフィーに真正面からそう言われると、急に恥ずかしくなってきた……。
「ふぅ、ご馳走様なのじゃ」
エフィーも俺が手渡した果物を食べ切り満足げな表情を浮かべていた。すると、上から着地した1人の女性が現れる。
『ソラ、何をしている?』
「ヘレスか。なに、エフィーが果物を食べたそうにしていたからね。残しておいた分を今食べさせた所」
『……そうか。なら明日からはもうひとり分増やすようにするべきか?』
「いや、人数と合わない料理数を出されても不自然に思うだけだからやめておこう」
琴香さんの分があったのは、クルゴンさんたちが元人間だと知っていたからだろう。ナイス判断だ。
『……ソラ』
「ん? どうした?」
ヘレスが視線を逸らし、俺の方を見ないようにしながらも名前を呼ぶ。
『その、だな……すまな、かった……』
「ん?」
突然、ヘレスが頭を下げて謝ってきた。
『色々と、だ。最初は勘違いとはいえ、矢を放ってしまったりした。負けてからは自分の不甲斐なさから、ソラに八つ当たりのような態度を取ってしまったのもそうだ。……大変、済まなかった。許して欲しいとは言わない。だが……あたしには、謝る以外に選択肢が思いつかない』
ヘレスが淡々と、だが反省の色を十分に見せてそう言ってきた。
「……別に、もう気にしてないから大丈夫だよ」
『だ、だがーー』
「それに、謝るなら俺よりも牧野さんにだよ。あぁ大丈夫、俺も一緒についててやるから」
『なぁっ!? べ、別にそんな事をして貰わなくても構わないわよ!』
お? ヘレスの口調が琴香さんに対する時の同じようになった。動揺して素の口調になってるな。
「……ふふ」
『何がおかしいのよっ!』
「あはは、俺もその喋り方の方が好きだわ」
『は、え? ……は、はぁぁぁっ!? す、好きって……ふざけないでよ!』
ヘレス自身も途中から口調が変わっていることに気づき、顔を赤くして言い返してきた。
「ごめんごめん、でもあんなに他人口調だったのに、急にそんな言い方されても」
『う、うっさいわね! 少しぐらい意地を張ったって良いでしょっ!?』
「ダメとか言ってないじゃん」
『うぅ、うるさぁい!』
エルフの特徴的な耳まで真っ赤にしたヘレスが叫ぶ。
「ヘレスよ、深夜に大きな声は周りに迷惑じゃ」
『だからうるさーー、精霊様!? す、すみません!』
珍しくまともな事を言ったエフィーに、勢い余ってヘレスが反論をしてしまう。慌てて謝るヘレスだが、エフィーは目に涙を浮かべていた。
「あ、主人、我、うるさいのかの?」
「うん」
「うん!?」
驚きでエフィーの涙は吹き飛んだ。
『と、ともかく! あたしはきちんと謝ったし、あんたも許すって言ったわ! これで何もかもチャラなんだからねっ? ふんっ!』
ヘレスがピシッと指を立てて俺にそう言ってくる。
「了解っと。もう夜も遅いし、俺たちも寝ることにするよ。おやすみヘレス」
『ふんっ……お、おやすみ……』
そう言うと、ヘレスは不貞腐れたように頬をぷく〜っと膨らませながらどこかへと行ってしまった。
「それじゃあそろそろ寝ようかエフィー」
「わ、我は……うるさい……はぁ……。どうせ、あいつらにもバカ、アホ、ポンコツとは言われておったが……はぁ……」
エフィーが膝を抱えて蹲りため息をつく、予想外に落ち込んでいたので、俺は慌ててエフィーのケアに回った。
それにしても『あいつら』って一体……? いや、無理には聞かないでおくか。いつか、エフィーが自ら話してくれるのを待とう。
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