第103話~現状説明~

「……あ、空! 大丈夫、だったの……?」


「はい、何事もなかったですよ」



 一番最初に気付いた氷花さんが近づいてきて、上目遣いで心配してくる。



「琴香も、何もなかった?」


「はい。ちょっとヘレスちゃんと仲良くしただけです!」


「ヘレス? ……って、あの女性の、エルフの人?」


「はい。今はヘレスちゃん、琴香って呼び合う仲なんです!」


「それは、良かったね……?」



 氷花さんは俺に助けを求めるように視線を向けてくる。



「琴香さんの持ち前の明るさに、さすがのヘレスもタジタジだったよ。ともかく、1ヶ月間はここにいるんだし、エルフの人たちとも仲良くしておいて損はないと思う」


「その通りだね。初芝さんに篠崎さん、本当に良くやってくれたよ。先に退出してしまい、君たち2人に任せるような感じになってしまってすまない。マスターとして情けないよ」



 すると大地さんが笑顔でお礼を告げ、何も出来なかったことを悔やむ表情を見せた。



「いえ、大地さんは良くやっていますよ。これからもお願いしますね?」


「そう言ってくれると嬉しいよ」


「それで篠崎君、エルフ達は何を言ってきたんだい? まさか無条件でここに置いてくれる……なんて、甘い展開じゃない事は理解してるつもりだけど……」



 北垣さんが真剣な目で俺を見ながら尋ねてくる。くっ、すまない北垣さん。当たりだよね? みたいな表情で見てくるけど違うんだ。普通ならそうなんだけど、今回は琴香さんがいるから甘い展開なんだ。


 だが北垣さんの言う通り、普通に考えて無条件なんてものはない。精霊である琴香さんのお願いでもヘレスと言う監視が付き、できる限り外の出歩きを禁ずる……ぐらいの規則が付いたんだ。


 まぁ、それでもいきなり襲ってきた事を考えれば緩い事には変わりない。琴香さんが精霊で、エルフ達がそれを信仰しているから……って説明するのが簡単だが、もちろん琴香さんについて話すつもりはない。


 しかしそれでは、話を聞かず殺しに来たエルフ達と、話が通じただけでこんな緩い規則を設けるエルフ達に明らかな差異を感じさせるだろう。


 つまり俺たちがこんなに緩い規則だけだった理由を、琴香さんが精霊だと明かさずに教えなければいけない。


 まぁ、こうして深刻そうに言っているが、別に大した問題はない。既に言い訳は考えており、サリオンさんにクルゴンさんからは了承を得ている事だ。



「それについて、皆さんに説明します」



 そして俺は、クルゴンさんから告げられた条件を話した。



「嘘でしょ!? そんなに強制力のない拘束だなんて……嘘じゃないのかしら?」



 一番始めに柏崎さんが驚きを見せるが、ハッとした顔をして俺に疑いの目を向ける。仲間の岸辺さんをやられた柏崎さんとしては確かに信じられないが、みんなが納得する……と言うかしてもらう理由は考えてきている。



「嘘じゃありません。ただし一つだけ条件があります」


「お、なんだ? この中から1人、生贄でも出せとかか?」


「エルフのイメージが壊れるから、そんな物騒な事言わないでよ最上さん」


「わ、悪かったよ……」



 最上のおっさんの考えに、牧野さんがそう反論する。最上のおっさんも、その勢いに負けたのかすぐに謝った。


 それにしても牧野さん、もしかしてエルフ好きだったのかな? 一番始めに殺されかけたはずなのに……。



「話を戻します。条件ですが……俺たちとエルフ達の合同訓練みたいな物を提案……と言うか命令されました」


「へぇ、OK今すぐやろうぜ!」


「ダメですよ最上さん。篠崎さん、条件はそれだけかい?」



 一番最初にやる気MAXの最上のおっさんが立ち上がるが、大地さんが諭してから改めて尋ねてくる。



「はい。こちらの戦闘技術、戦術などを教えあったり、殺傷禁止の試合をしたり、お互いの常識や知識の見聞を高めたり……まぁ、仲良く交流しましょうって事です」


「って事は、長く生きたエルフの弓の技術を、僕も教えてもらえるってことだよねっ? やたっ!」



 軽く細く説明すると、牧野さんがガッツポーズをした。確か牧野さんは元弓道部だったはずだから、そう言った観点からの意見交流なんか捗るかもしれないな。



「ふむ。ひとまず俺たちの安全が保障されているのは僥倖ぎょうこうだね。ひとまず、全員この規則について忘れないようにしてくださいね」



 コンコン!



 大地さんがそうお願いした直後、扉を叩く音が響いた。周りの人を見ると、それだけで少しばかり萎縮している。やはり言葉が通じないモンスターと一緒というストレスがあるのだろうな。



『ソラ、せいれーー、コトカや人族の飯を持ってきたぞ』



 俺が扉を開けると、ヘレスが嫌そうな顔をしながらそう言ってきた。 別に好かれなくても良いけど、嫌わなくても良いじゃないか……。



「お、ありがとうヘレス。ちょうどお腹が空いてきたんだ。ありがたく頂くよ」


『ふん、当たり前だ。森の恵みをありがたく受け取れ』



 そう言うヘレスの後ろにはあまり見慣れない料理が並んでいた。見た感じ、野菜や果物メインだな。肉料理はほぼ見当たらない。と言うかない。


 森に住んでいる事から察していたが、ヘレス達は俺たちの世界でのイメージ、つまり牧野さんが想像していた通りのエルフなんだな。



「あ、ヘレスちゃん!」


『コトカ、ヘレスちゃんはやめてほしいです……ほしいわ』



 お、ちゃんと琴香さんの命令通りにしようとしている。でも俺にはキツい態度のままなんだけど……。



『それじゃあ失礼しまーー、するわね』



 最後まで慣れない様子でヘレスはどこかへ行ってしまった。



「空君、早く食べましょうよっ」


「皆さん、これが今日の食事だそうです。頂きましょう」


「ん。お腹、すいた……」


「同感だ。腹が減ってはなんとかって言うしな!」


「腹が減っては戦ができぬ、だったと思うよ」


「これがエルフ達の食事ですか! 僕の想像通りです!」


「へぇ、見たことない植物だね。ちゃんと食べれるかな?」


「え? ……ねぇ、まさかこれ、毒とかは無いわよね?」


「俺たちを殺そうとしてきたんです。否定できませんよ?」


「だな」



 各々が食事についてそんな感想を言いつつ、俺たちは口をつけ始めた。

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