第102話~ツンデレ~
『こっちだ……です』
話し合いの後、俺たちは先に他の探索者たちが警備隊エルフに案内されて向かった離れの家に向かう。
俺たちにはヘレスがついており、俺がエフィーと契約した人だと分かると、嫌々ながらも態度を軟化させた……してるよな?
『精れーー、ハツシバ様、本日より私がハツシバ様並びに人族のお目付役となりました、ヘレスです』
「はい、よろしくお願いしますね!」
「よろしくヘレス」
『うるさいぞソラ、貴様には話していない!』
ごめん、やっぱりしてなかったわ。ちなみにこんなヘレスだが、実は族長のクルゴンさんの娘さんらしい。
『良いかソラ、精霊様の契約者になったからと言って、調子になるなよ?』
「了解」
『っ……わ、分かれば良いのだ』
ヘレスは面食らったような表情を見せるが、それを隠すように大袈裟に反対側を向いてそう言った。軽く頭を横に倒したりもしてたから多分、俺の態度が思ってたのと違ったんだろう。
「ヘレスさん、ヘレスさんにとって私たち……人族はどういった存在なんですか?」
『それは……人族は、勝手にあたしたちの土地に時々現れては、勝手に森の生態系を荒らしたりする。最初は対話をしようとしたが言葉も通じず、いきなり襲ってきたりもした。……だからあたしは、最初に人族を襲ったことを間違ったことだと思ったことはない。だが……今回は精霊様もいらっしゃった。だから少しだけ、後悔はしている……』
琴香さんが安易にした質問だったが、想像以上に重たい反応に固まってしまっている。多分、エルフと交流を図ろうとしての会話の切り口……挨拶みたいな軽い感じで聞いたんだと思うけど。
ヘレスの方もハツシバ様ではなく精霊様って呼んでるあたりが本気っぽい。
「そう、ですか……。ごめんなさい、私たちのせいで……」
『精霊様が謝ることでは……。ですが、人族は信用も信頼もできません。それだけは覚えておいてほしいです』
「……それじゃあ、私たちも信頼されるように頑張ります!」
琴香さんが申し訳なさそうに頭を下げる。ヘレスは慌てるが、どうすれば良いのか分からず両手をパタパタと動かすに留まった。
だがそれでも、人族への想いは変わらないようだった。だが琴香さんはそう言われてもめげずに、むしろ張り切った様子を見せた。
『はい? ……精霊様、それはどう言うーー』
「まず! 私のことは精霊様ではなく、ハツシバ様でもなく、琴香と呼んでください!」
『えぇぇっ!? そんな恐れ多いですよハツシバ様!』
琴香さんが名案だと言わんばかりのドヤ顔でヘレスにお願いをする。ヘレスも困っているが……まぁ、あれくらいなら別に助けなくても良いだろう。
「琴香、ですよヘレスさん」
『し、しかし……』
「琴香、です」
『コ、コトカ……これで良いでしょうか?』
「はい! よくできました〜!」
『あ、ありがとうございます……?』
琴香さんの圧力に負けてヘレスが折れた。琴香さんがパァーッと笑顔を浮かべて、自分よりも身長の高いヘレスの頭を一生懸命撫でる。
見た目の関係は妹が姉を褒めてるシーンだけど、実際の力関係は圧倒的に逆なんだよな〜。それよりも今の光景、なんかデジャブというか……。
「琴香さん、どうせならアマラスってエルフと喋っていた時の口調にするようにもお願いしてみたらどうです?」
とりあえず俺は強い方に着くので、調子に乗ってそんな提案をしてみる。別にさっきまで俺に敵意丸出しだったヘレスの動揺する姿が見たいとかじゃないよ? 本当だよっ?
『なっ!? ソラ貴様! そんな無礼な事が許されーー』
「へぇ、やっぱり砕けた喋り方もあったんですね! 目上の人に使うような言葉を使われてて、変な違和感があったんですよ!」
ヘレスが俺をすごい目で睨んでくるが知らん顔だ。それよりも、確かに琴香さんに尊敬語はキツいな。こう、雰囲気がどうしても敬う立場ってよりは愛でる対象になってしまうんだよね。
そう思った瞬間、琴香さんに笑顔でこちらを睨んできた。なに、俺ってそんなに顔に出てるの? 自分じゃポーカーフェイス、結構上手いと思ってたんだけど……。
「さぁヘレスさん、いいえヘレスちゃん! これからはアムラスさんの時と同じように話してくださいね?」
「さ、さすがにそこまではーー』
「良いですね〜?」
『…………はい』
またしてもヘレスが琴香さんの圧力に負けた。苦笑いを見せたヘレスだけど、あれってパワハラに入るのかな? まぁ俺に関係ないし、別に問題もないから良いだろっ!
『…………殺す(ボソッ)』
ヘレスが今までで一番の殺意を俺に向けて小さく呟いた。すみません調子に乗りすぎましたっ!
『こちらです』
「ヘ・レ・ス・ちゃ・ん?」
『……こっちよ、コトカ……くぅ……!』
ヘレスが少し悔しそうに、親しみ深い口調で案内をする。だが何故だろう? 俺たち、なんだかイケナイことをしてる気分に……。
『それではーー……それじゃ、あたしはこれで……』
ヘレスはそう言って去っていった。……悪いことしたかな? そう思いつつ、俺たちは離れの家の扉を開けた。
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